表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編

もっと演技しろよ

作者: 八百板典所

◇視点A

「昨日、人を殺したんだ」 


 久し振りに会った友人はつまらない冗談を吐くようになっていた。

 コンビニで買ったばかりのアイスを口に含みながら、友人の顔を一瞥する。

 彼の顔はニヤついてた。あ、この顔、絶対嘘吐いている。


「騙すんだったら、もっと演技しろよ」


 コンビニ前の駐車場をぼんやり眺めながら、新発売のアイスを齧る。

 キウイ味のソフトクリームは俺好みの味だった。

 うん、とてもデリシャス。


「マジだって。疑うんだったら、これから見に行く? ほら、小学校の時、よく遊びに行ってた裏山あるだろ? あそこに死体隠したんだ」


 人を殺したばっかのヤツがそんなヘラヘラ笑うか。

 喉まで出かけた言葉を飲み込む。

 よくよく考えると、リアリティを語る程、詳しくなかった。

 もしかしたら、人を殺しても尚、ヘラヘラしている殺人鬼がこの世の何処かにいるかもしれない。


「というか、久しぶりに会ったってのに、何で第一声がブラックジョークなんだよ。もっと話すべき事があるだろ」


「たとえば?」


「最近の近況とか。お前、今何やってんの?」


 アイスを齧りながら、友人の横顔を一瞥する。

 そういや、彼と最後に会ったのはいつだっけ? 

 高校一年の時だったような気がする。確か、元六年一組のヤツらと一緒に海行ったような……。

 海に行った記憶を思い出そうとする。印象に残っていないのか、あまり覚えていなかった。


「オレ? 先々週から東区にある大学に通っている」


「へえ、そうなんだ」 


「お前は?」


「ほら、ここから徒歩二十分の所に大学あるだろ? あそこに通っている」


「あー、あそこか」


 話が途切れてしまう。大学生活が始まって二週間程しか経っていない所為なのか、話は盛り上がらなかった。

 別の話題を提供してみる。


「サークルとか入ってる?」


「オレは入っていない。お前は?」


「俺? 昨日、鬼ごっこサークルに入った」


「へえ、そうなのか」


 話が途切れてしまう。

 あれ? こいつ、ここまで喋らないヤツだっけ? 

 小学校の頃はマシンガンのように話していた気がする。もっとお喋りだった、……よな? 


「サークル、入るつもりはないのか?」


「ない」


 話が途切れてしまう。友人はヘラヘラしたまま、友人は欠けた月を仰いでいた。

 ……背筋に冷たいものが流れ落ちる。彼の横顔を見た途端、会話が続かない理由を理解してしまった。


「……裏山、行くか?」


 答えは返ってこなかった。

 友人の横顔を横目で見ながら、アイスを齧る。

 まだアイスの季節じゃなかったのか、肌寒さを感じてしまった。

 

◇視点A

 小学生の頃、よく遊んでいた裏山に辿り着く。小学校周りはそこそこ変わったというのに、裏山だけは何も変わっていなかった。 


「あー、そういや、これ、桜の木だっけ?」


 秘密基地とは名ばかりの桜の木の根本に辿り着く。

 そこそこ大きい桜の木は、記憶にあるものと大差なかった。


「そうそう、この桜の木を秘密基地って呼んでたんだぜ、子どもの頃のオレ達は」


 桜の幹を叩きながら、友人は秘密基地と名付けられた桜の木を仰ぐ。

 結構強めに叩いていた。上から毛虫が落ちてきそうだ。

 友人から目を逸らし、秘密基地を見守る池を一瞥する。

 十数本の桜の木が池の周りを取り囲んでいた。

 裏山の奥深くから虫の鳴き声が聞こえて来る。

 木々の間を擦り抜ける夜風が俺達の肌を撫で上げた。ちょっと肌寒い。

 薄い雲を覆った空を仰いだ後、足下を覗き込む。桜の花弁が泥濘んだ地面を覆っていた。


「ちょっと待ってろ。今、掘り返すから」


 そう言って、友人は桜の木に立てかけていたスコップを手に取る。

 彼が手に取ったスコップは新品だった。


「ちょっとってどれくらいだよ」


「さあ? 深く埋めたから、それなりに時間かかると思う」


 息を短く吐き出した後、友人は穴を掘り始める。近くにあった小岩に腰掛けた。

 ポケットに手を突っ込んだ途端、水の跳ねる音が聞こえてくる。松尾芭蕉の顔が脳裏を掠めた。そういや、アイツの名前、大学受験で一切出てこなかったな。高校受験の時はそこそこ見かけたのに。


「そういや、小学校卒業する前日だっけ?」


 穴を掘っている友人に話しかける。彼は俺の呼びかけに応えてくれなかった。

 息を吐き出す。例年よりも早く春になったお陰なのか、吐き出した息は白く染まらなかった。


「元六年一組の男子だけで、タイムカプセル埋めただろ? 確か、あれ埋めたのって、ここだよな?」


 秘密基地──桜の木の下を指差す。タイムカプセルの単語を聞いた途端、友人はスコップを手放した。


「もしかして、お前、タイムカプセル開けたかっただけなのか?」


 疑問の言葉を口にする。友人は口を開かなかった。

 落としたスコップが夜の闇に溶け込む。さっきアイスを食べた所為なのか、くしゃみが出そうになった。


「……たっちゃん、今年の夏に帰って来るみたいだぞ」


 木の葉が内緒話を始める。月が雲の陰に隠れた所為で、友人の身体が闇夜に溶け込んでしまった。


「覚えてるか? ほら、小学校卒業すると同時に上京した男の子いるだろ? サッカー大好きで、いつも牛乳をお代わりしていた。あのたっちゃんと定期的に連絡取っててさ。こないだ連絡した時は、今年の夏に帰ってくるって言ってたぞ」


 答えが返ってこない。壁当てしている気分に陥った。

 会話が成り立っていないような気がする。

 俺の言葉は届いているのだろうか。

 指先が悴んでいるような気がした。


「タイムカプセル開けるつもりだったら、今年の夏にしようぜ。元六年一組の男子全員集めた方がドラマチックだろ?」


 案の定、答えは返ってこなかった。

 花と緑の臭いが鼻腔を刺激する。雲の陰から月が出てきた。薄い雲を羽織っている。

 桜の木の下から出てきた友人は、見た事ない顔をしていた。



 

◇視点A

 裏山から下りた後、俺と友人は近くにあった居酒屋に入り込む。お腹が減っていたので、ラーメンを頼んだ。

 酒は頼まない。未成年だから。

 酒の代わりに炭酸ジュースを頼んだ。ああ、早く二十歳になってお酒を飲めるようになりたい。


「そういや、お前、まだ夢追ってんの?」


 客は俺と友人しかいなかった。厨房にいる大将が俺達にラーメンを押しつける。

 箸箱から割り箸を取り出しつつ、友人の疑問に答えた。


「ぼちぼち」


「ふーん、夢叶うといいな」


 興味なさそうに呟いた後、友人はラーメンを啜る。俺もラーメンを口に含む。麺は好みだけど、スープはイマイチだった。


「お前の夢は、……俳優だっけ? 今も夢追ってんの?」


 レンゲでスープを掬いながら、友人に疑問をぶつける。

 俺の疑問を聞いた途端、友人は箸を止めてしまった。


「……なれる訳ないだろ」


 テレビの音、厨房から聞こえる食器の音。様々な雑音が俺達の間に雪崩れ込む。

 どうやら地雷を踏んでしまったらしい。これ以上、友人を刺激しないよう、黙々とラーメンを食べ続ける。替え玉は敢えてしなかった。

 お金を払った後、店から出る。

 外に出るや否や、肌寒さを感じた。


「どうする? 連絡先、交換する?」


 スマホを取り出す。俺の声に応える事なく、友人は踵を返した。

 スマホをポケットの中に直す。そして、彼の背中に疑問を浴びせた。


「……タイムカプセル、開けるぞ。いいのか?」


 真実を確かめる。振り返る事なく、友人は俺の疑問に答えた。


「だったら、一つ教えてやる。タイムカプセル埋めたのは秘密基地じゃない。銀杏の木の下だ。小学校の校庭に臭くて大きな木があっただろ? タイムカプセルは、あの木の下に埋まっている」


 その言葉を残して、友人は夜の住宅街に溶け込んでしまう。闇夜に溶け込んだ彼の背中が目に入った。

 眉間に皺を寄せる。我慢の限界だったのだろうか。本音が口から零れ落ちた。


「騙すんだったら、もっと演技しろよ」


 遠去かる友人の背中をじっと見つめる。案の定、答えは返ってこなかった。



◆視点B

 昨日、人を殺した。父を殺した。台所にあった包丁で父を刺した。首を刺した。胸を刺した。腹を刺した。何回刺したか覚えていない。多分、沢山刺した。


『努力が足りないから、第一志望に受からなかったんだ』 


 オレは反論した。父はオレの話を聞いてくれなかった。だから、父は真っ赤になった。

 別に父を恨んでいた訳じゃない。憎いと思った事は多々あるが、殺したい程憎んでいた訳じゃない。

 なら、何で殺した? 何で何回も刺した? 自分自身に問いかける。

 幾ら考えても、答えは出てこなかった。


「……よし」


 小学生の頃、よく遊んでいた裏山に辿り着く。


「ここなら見つからない筈」


 秘密基地とは名ばかりの桜の木の根本に辿り着く。そこそこ大きい桜の木は、記憶にあるものと大差なかった。


(何で秘密基地って呼んでたっけ?)


 考える。昨日から寝ていないからなのか、頭が働かなかった。かつて秘密基地と呼ばれていた桜の木の下を見る。

 昨夕、ホームセンターで買った新品のスコップが置いてあった。

 なんでこんな所に……ああ、そういや、今日の朝、買ったばかりのスコップを置いてきたんだっけ。

 眠気の所為で、頭が全然動いていない。こんなんで本当に死体を隠し切る事ができるのだろうか。

 考える。やっぱり、答えは出なかった。


「……よし」


 家から持ってきた死体を地面に下ろす。短く息を吸い込んだ後、新品のスコップの下に向かって歩き出した。




◆視点B

(あ、やべ。スコップ、置いてきてしまった)


 死体を埋めた後、裏山の近くにあったコンビニに立ち寄る。

 コンビニに入った途端、スコップを桜の木の下に置いてきた事を思い出した。

 早く取りに行かねば。アレが見つかったら、死体隠した事がバレるかもしれない。

 そう思ったオレは踵を返し、コンビニから出ようとする。


「お、冬樹じゃん」


 懐かしい声が聞こえてきた。振り返る。そこにいたのは、小学校の時の同級生だった。


「覚えてる? 俺だよ、俺。鬼ごっこマスター雪宮だよ」


 買ったばかりの新発売のアイスを見せびらかしながら、小学校の時の友人は笑顔を浮かべる。

 彼の事は何となく覚えていた。オレの話を聞いてくれるヤツだ。

 中学になってから疎遠になったけど、悪いヤツじゃない筈。


「時間ある? 久し振りに会ったんだから、ちょっと話そうぜ」


 首を縦に振る。小学校の時の友人は嬉しそうな表情を浮かべると、オレと共にコンビニを後にした。


 


◆視点B

「昨日、人を殺したんだ」


 久し振りに会った友人に事実を告げる。

 コンビニで買ったばかりのアイスを口に含みながら、友人は俺の顔を一瞥していた。


「騙すんだったら、もっと演技しろよ」


 コンビニ前の駐車場をぼんやり眺めながら、友人は新発売のアイスを齧る。

 オレの話を聞いていないのか、アイスの味を楽しんでいた。


「マジだって。疑うんだったら、これから見に行く? ほら、小学校の時、よく遊びに行ってた裏山あるだろ? あそこに死体隠したんだ」


 何でオレは久し振りにあった友人に事実を告げたんだろう。自問自答する。

 誰かに話す事で楽になろうとしたのだろうか。

 或いは彼に助けて貰いたかったんだろうか。

 考える。昨日から一睡もしていない所為なのか、頭が思うように動かなかった。


「てか、久しぶりに会ったってのに、何で第一声がブラックジョークなんだよ。もっと話すべき事があるだろ」


「たとえば?」


「最近の近況とか。お前、今何やってんの?」


 アイスを齧りながら、小学校の時の友人はオレの横顔をチラ見する。

 彼はオレの話を聞いてくれなかった。


「オレ? 先々週から東区にある大学に通っている」


「へえ、そうなんだ」 


「ほら、ここから徒歩二十分の所に大学あるだろ? あそこに通っている」


「あー、あそこか」


 オレの話を聞く事なく、小学校の時の友人は自分の話をし続ける。

 答えるのが面倒になった。

 口を閉じる。

 もう話したくないってアピールしてんのに、彼は空気を読む事なく、新しい疑問を投げかけた。


「サークルとか入ってる?」 


「オレは入っていない。お前は?」


「俺? 昨日、鬼ごっこサークルに入った」


「へえ、そうなのか」


 オレの話を聞かないのに、自分の話してんじゃねぇよ。

 無意識のうちに指が包丁を探し始める。

 確か父を殺した時も、こんな感じだった。指が包丁を探していた。


「サークル、入るつもりはないのか?」


「ない」


 頬の筋肉を緩めながら、欠けた月を仰ぐ。小学校の時の友人は悪いヤツになっていた。

 何で悪いヤツに殺人をカミングアウトしたんだろう。

 自分の首を絞めたくなる。此処にいるのが嫌になった。立ち去ろうとする。


「……裏山、行くか?」


 友人の一言がオレの行動を阻害した。ゆっくり息を吐きながら、友人の顔を一瞥する。

 オレの指に気づく事なく、彼はアイスを齧っていた。



◆視点B

「あー、そういや、これ、桜の木だっけ?」


 秘密基地とは名ばかりの桜の木の根本に辿り着く。桜の幹に立てかけていた新品のスコップが目に入った。

 心臓が跳ね上がる。期待してしまった。『わざわざ死体を掘り返さなくても、この新品のスコップを見たら、オレの話を信じてくれるかもしれない』、と。


「そうそう、この桜の木を秘密基地って呼んでたんだぜ、子どもの頃のオレ達は」


 桜の幹を叩きながら秘密基地と名付けられた桜の木を仰ぐ。結構強めに叩いた。生暖かい息を吐き出した後、小学校の時の友人を見る。

 友人は俺から目を逸らしていた。

 どうやら新品のスコップは目に入っていないらしい。

 安堵すると同時にガッカリしてしまう。自分の事なのに、自分が今何を考えているのか全く分からなかった。


「ちょっと待ってろ。今、掘り返すから」


 桜の木に立てかけていた新品のスコップを手に取る。小学校の時の友人の声がオレの肩を叩いた。


「ちょっとってどれくらいだよ」


「さあ? でも、深く埋めた事だけは確かだ」


 息を短く吐き出し、地面にスコップの鋒を突きつける。

 一度掘り返したお陰なのか、土は柔らかかった。


「そういや、小学校卒業する前日だっけ?」


 小学校の友人の声が肩を揺さぶった。無視する。

 だって、彼が話そうとしているのは『オレの話』じゃないから。


「元六年一組の男子だけで、タイムカプセル埋めただろ? 確か、あれ埋めたのって、ここだよな?」

 

 タイムカプセルの単語を聞いた途端、心臓が跳ね上がる。ついスコップを手放してしまった。


「もしかして、お前、タイムカプセル開けたかっただけなのか?」


 小学校の時の友人が頓珍漢な事を口にする。

 タイムカプセル? 

 ここに埋めた? 

 何の話だ? 

 思い出そうとする。印象に残っていないのか、全く覚えていなかった。


「……たっちゃん、今年の夏に帰って来るみたいだぞ」


 もし。もしタイムカプセルを埋めたって話が本当だったら。元六年一組のヤツらが、この辺りを掘るかもしれない。

 タイムカプセル捜索中、オレが隠した死体を見つけてしまうかもしれない。

 冷たい風が骨の髄まで染み込む。指が包丁を探し始めていた。


「覚えてるか? ほら、小学校卒業すると同時に上京した男の子いるだろ? サッカー大好きで、いつも牛乳をお代わりしていた。あのたっちゃんと定期的に連絡取っててさ。こないだ連絡した時は、今年の夏に帰ってくるって言ってたぞ」


 指先が悴む。

 小学校の時の友人が何か言っているが、何を言っているのか分からない。

 でも、オレの話じゃない事だけは理解できた。


「タイムカプセル開けるつもりだったら、今年の夏にしようぜ。元六年一組の男子全員集めた方がドラマチックだろ?」


 居ても立っても居られなくなったオレは、友人の下に向かって歩き出す。

 指が包丁を探し始める。

 新品のスコップが地面に落ちているってのに、指はスコップを拾おうとしなかった。



 

◆視点B

 裏山から下りた後、オレと小学校の時の友人は近くにあった居酒屋に入り込んだ。

 結局、オレは彼を殺さなかった。包丁が手元になかったからだろう。

 或いはタイムカプセルを見つけた方が早いと思ったからか。

 考える。寝不足の所為で、頭が上手く動かなかった。


「そういや、お前、まだ夢追ってんの?」


 客はオレと小学校の時の友人しかいなかった。

 厨房にいる大将が俺達にラーメンを押しつける。

 箸箱から割り箸を取り出しつつ、彼に疑問を投げかけた。


「ぼちぼち」 


「ふーん、夢叶うといいな」


 ラーメンを啜る。何でオレは夢の話をしたんだろう。

 というか、オレの夢は何だっけ? 

 考える。どうやら忘れてしまったみたいだ。


「お前の夢は、……植物博士だっけ? 今も夢追ってんの?」


 箸を止め、友人の顔を一瞥する。

 彼は気まずそうに顔を歪ませていた。その顔を見て、オレは気づく。

 ああ、やっぱ、コイツ、勘づいてやがる。オレが父を殺した事実に。


「……なれる訳ないだろ」


 なれる訳がない。オレと別れた後、間違いなく、コイツは警察に通報するだろう。

 そしたら、夢を追う所か普通の生活さえ送れなくなる。

 殺しとけば良かった。けど、今更殺した所で手遅れだ。

 コイツを殺した所で、オレは警察に捕まる。

 コイツも馬鹿じゃない。オレが殺人犯と分かったら、人気のない所を歩こうとしないだろう。

 指が包丁とスコップを探し始める。が、何もかも手遅れだった。素直に諦める。

 お金を払った後、店から出る。外に出るや否や、肌寒さを感じた。 


「どうする? 連絡先、交換する?」


 踵を返す。何処か遠くに逃げよう。

 警察から逃れるために。

 罪から逃れるために。

 そうしたら、オレは殺人鬼にならずに済むハズ。


「……タイムカプセル、開けるぞ。いいのか?」


 小学校の友人の声が肩を叩く。その音を聞いて、オレは確信した。

 彼が『オレの話』を聞いてくれた事を。彼はオレにチャンスを与えたのだ。

 証拠隠滅のチャンスを。彼は暗に告げたのだ。


 『今からタイムカプセルを別の所に埋めれば、死体は見つからない』、と。


「だったら、一つ教えてやる。タイムカプセル埋めたのは秘密基地じゃない。銀杏の木の下だ。小学校の校庭に臭くて大きな木があっただろ? タイムカプセルは、あの木の下に埋まっている」


 タイムカプセルを探すため、再び山に向かって歩き始める。

 もう話す事がなくなったのか、友人の声は聞こえてこなかった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ