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無薬  作者: あ行
7/14

7お偉いさん

 ざわざわ

「今日はお偉いさんが来るらしいぞ……。」

「ほんとか?こりゃ忙しくなる……。」

 お偉いさん?

 無薬も内に来ていた。偽善の件があったので、患者が多い日は頼まれている。しかも、客も診なくてはならない。面倒だ。

「ふはは!皆のもの!今日はお偉いさんが来る日!最上級のもてなしをするのだ!ははっ!」

 長が上の階から下の皆に言っている。そんなもんするか。

 その場から立ち去ろうとする。

「無薬!逃げるでない!貴方は最上級の風呂と茶を用意せい!」

 豪快に笑って指差される。人前で言うから注目された。

「さぁさぁ!今日頑張ったものには銭を!」

 皆んなが一斉に長を見る。

「館を繁盛させるのじゃー!!」

「オーーー!!」

 珍しく団結している。釣りに釣られおって。

――――――――

 くそっ、今日に限って茶葉が足りない。厨房に行くにも今は忙しくて相手にされないだろう。けど行かなければ。

「なんでですか。お客様がくれとおっしゃっていると言うのに。本当にここの調理人ですか?あぁ、呆れた。」

「そうですよ。お客様第一お考えになられては?」

 聞いたことがある声だ。接客か。

「今日はお偉いさんが来る日だ。あんたらも知ってるだろ?」

 あいつらが行ってから、こそっと茶葉をとろう。

「どうせ何も手ぇつけずに残して帰るんです。だったら、いいお客様に食べてもらったらいいでしょう。」

「……くっ!お前ら接客だろ?身の程を知らねぇのか。どっか行け!」

 二人が諦めて定位置に向かう。二人の素足が木の床に擦れて音がする。

「あぁ、少し言い過ぎたかもしれません。」

「良いんですよ。舐められちゃあ困りますから。」

 よりによって進路、こっちかよ。他人のふりしよう。ん?元々他人だろう。何言ってんだ。

 無薬がつべこべ考えている内に、二人が通る。

「あれ、無薬様。」

 げっ、気づかれた。

「おやぁ、まさか覗き見ですか。品の高いお方だと思っていたのに。残念ですねぇ。」

「こら、偽善。」

「……。」

 厨房に向かう。

「あぁ、厨房に御用が?私どももご一緒いいですか。」

「偽善……と言ったか。前の藥、高くつくぞ。」

 来るなと言う意味だろう。

「……!はぁ?まじで卑怯だこいつ。提灯(ちょうちん)にぶら下げて皆の前に……むぐっ!」

「まったく……。貴方は恩を仇で返す人ですね。」

「無薬様、」

 丁寧にお辞儀される。

「お客様にたばこが欲しいと言われ、厨房に来たのですが、そんなものはないと、除け者扱いで……。お願いします。たばこを取っていただけませんか。」

 無薬が静かになる。

「……。」

 何も言ってこない。取り敢えず付いて行こう。

「あぁ、(くすり)か。邪魔にならない程度に取っていけよ。」

「……。」

 二人は厨房をひょこっとのぞいている。

「くそぉ……!私だってあの身分だったら……!」

「仕方がない事です。私たちはただ見ているだけです。」

 無薬は厨房から出て来た。手にたばこはない。

「あ……!たばこがない。こいつやっぱ鬼だ!」

「偽善、黙ってなさい。この身分なのでしょうがないです。覚悟を決めて客室に戻りましょう。」

 偽善が睨んで来る。全然怖くない。

「……あぁ、待て。厨房の言う通りたばこは無かった。きっと、どこかに隠しているのだろう。」

 一息吸う。

「接客……だけこい。お前は客の場繋ぎをしろ。」

「はぁ?ばーか!」

 悪口を言った後、偽善は去って行った。

「無薬様、本当にごめんなさい。あの子……本当はいい子なんです。なので、」

「……お前が庇う必要無いだろ。」

「……。」

 二人無言になりながら、無薬の部屋に向かっていく。段々と周りの声が減っていく。

「……。」

 どうしましょう。なにか話題を。

「無薬様、どうしてこんなところに?」

「……。」

 無視。

「そういえば、無薬様は昔、誰か様と一緒に薬を提供されてましたよね。あのお方はどこへ?」

「たばこがいらんのか……。」

「んふふ。すみません。」

 無視するから、からかった。

 部屋に入る。

「失礼します。」

 無薬は奥の自室に行ってしまった。どうしろと。何か指示をして欲しかったですね。

「……ほら、これだ。」

「たばこ……。ありがとうございます。しかしこの物は無薬様の物では?いいんですか。」

「あぁ。客に出してもいい品だ。」

 面をしているので、どこを見ているか分からない。

「藤……珍しい品物ですね。では、私は偽善の所へ。ありがとうございました。この恩はいつか……。」

 笑顔で頭を下げる。

「接客……何故そんな館のために働く……。」

「んふふ。私は長に命を救われた身ですからね。それに、偽善がいれば何でもいいんです。」

「……そうか。」

 接客が暖簾をくぐって行ってしまった。

 ほうじ茶と風呂を調合せねば。

――――――――――

「おっと、こちらですね。失礼します。」

「お前は……お偉いさんの使いか。」

 他の奴らとは一風変わった服装をしている。

 近づいて来る。ずっと笑顔で気味悪い。

「取引に参りました。もう主人の印はされています。」

 台の上に紙を置いて来る。置き石の代わりに、細いキセルのような手を置く。

「……。」

 紙に目を通す。

「気付かれんようにな。」

「んふふっ。私を誰だと思いで。では。」

 お辞儀される。

 接客よりも遥かに綺麗で、自分が主になったような気分になるお辞儀だった。

 不思議な奴だ。関わりたく無い。

皆様も是非、提灯にぶら下げて皆の前に曝け出してやる!!と、脅しに使って下さい。

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