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無薬  作者: あ行
6/14

6休日

「……。」

 無薬は一人、不機嫌に烟草をふかしていた。

「休日?あぁ、そんなこと言ったなぁ。あれは夜だけじゃ。仕事が終わるまで、しばし待て。」

 あいつは踊らすのが上手だ。

「……ほら、行って来なさい。」

「いやいや、貴方でもいいでしょう。」

 暖簾(のれん)の裏で誰か話している。

「そうつべこべ言わず。」

「何で私、が!」

 片方の足が大きく前進する。背中を強く押された。

 暖簾の方を睨む。

「……。」

「ぁ、」

 二人は二秒間、見つめ合った。

「ん゙、ゔぅん。無薬様、以前は私が無礼を働いてしまい、誠に申し訳ございません。どうか、お許しを。」

 さっきとは打って変わって別人だ。済ました顔で流暢に言葉を並べる。手に胸を当て、お辞儀している。

 無薬は口開く。

「嫌だ。」

「……は。この私がわざわざここに来て、頭を下げているのに、無薬様は無理だと……ほんと飛んだ阿呆です……むぐ!」

「はいはい、そこでストップです。頭に来たら思った事をどんどん言う……貴方の悪いところです。」

 接客が偽善の手で口を塞ぐ。

「うるさい。」

「早く出ていけ……。」

「あぁ、無薬様も怒られて……。ほら、一緒に、ごめんなさい。」

 接客は偽善の頭を掴んで同時にお辞儀した。

「偽善、無薬様に贈る物があるでしょう。」

 コトッ

 無言で目も合わさずに、円形の入れ物を出して来た。

「それは藥です。塗り藥。長に渡されました。無薬に渡しとけと。今思えば何故、私たちに?」

「……ご苦労様。」

 二人で部屋を出て行った。

――偽善、もう一度あのような態度を取ったら許しませんからね。あぁ、先に行かないでくださいまし。

 外の奥からまだ話し声が聞こえた。

――――――――――――

 夜。月が欠けている。

 夜、そうか、夜だ。

「さぁさぁ、一文無しも、大富豪も、賭けた!賭けた!」

無薬は賭けに来た。そこら辺には泣き崩れている奴、またそこら辺には豪快に笑ってる奴がいる。

「丁か半か!」

「丁。」

「さぁ、どちらかな?」

 負けた。いや、これは

「いかさまをしているな……?」

「してないぞ。ははっ、銭は貰うぜ。」

 机に置いていた銭を取り掛けた。手を掴んできた。

「おい……」

「だ、か、らぁ!してねぇって。証拠がねぇだろ?それに、あんさん。あの高級館のもんだろ。こんなちぃこいのによく入れたなぁ。」

 煽った目で見て来る。

「……っ!いっだ!骨が折れるわ!」

 ぱっと腕を離す。もういい。他のところで賭けよう。 ――――結構勝ったな。

 楽しい一時(ひととき)を過ごしていた。目の前に長が来るまでは。

「こんな事をやっとるのか、無薬。もう帰る時間じゃ。」

 ばたばた手足を振りまわして抵抗する。けど長の力には勝てなかった。ずりずりと引き()れられる。

――――――――――

「今日はここで寝ろ。……、明らかに嫌そうな顔をするな。」

 また面をつけているのに顔について言われた。

「……何故ここで寝るんだ。自分の部屋があるのに。」

「くはは。なんでじゃろうなぁ。」

 脇を掴まれて布団に入られた。

「ほら、塗り藥。こっちこい。塗ったげる。」

 ぐいっと顔を掴まれる。面が口に寄る。

「くふふ、この塗り藥、結構手に入るのに苦労したんだからな。」

 頬に片手を添えて笑いかけた。薬指でクリーム状の薬をすくい、面の間から塗る。無薬は大人しく待っていた。

 無薬が(めん)づらでこちらを見つめる。

「……なぁ、長」

「なぁに。」

 ニコッと見る。青白い月明かりに照らされているが、優しい笑みだ。

「なぜ……、なんでそんなに優しくするの、」

 他に何か言いたそうだが、ぐっとこらえて見つめられる。

「そうかえ?そんな、優しくしているか。無薬だけ優しくしている訳じゃないぞ。他の奴らも皆平等に接しておる。」

 周りが黄色く光る。さっきまで青かったのに。優しい目で、さっきまで威圧があったのに…無くなった。

 そうか、こんな優しい人を殺そうしていたのか。けど約束は守らなければ。あの約束を。

「っ……!そんな、な、泣かんでも……。」

 人に同情している目。あたかも自分までそうなったかのように。

「ははっ、わしは知っておる。お前がどんなけ苦労してここに居るか。」

 さっきとは違うまた優しい笑顔。見透かされた目。けど嫌な感じはしない。

 背中に大きな手があたる。相手も生きているのか。

「無薬や、またこうして話そうじゃないか。」

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