6休日
「……。」
無薬は一人、不機嫌に烟草をふかしていた。
「休日?あぁ、そんなこと言ったなぁ。あれは夜だけじゃ。仕事が終わるまで、しばし待て。」
あいつは踊らすのが上手だ。
「……ほら、行って来なさい。」
「いやいや、貴方でもいいでしょう。」
暖簾の裏で誰か話している。
「そうつべこべ言わず。」
「何で私、が!」
片方の足が大きく前進する。背中を強く押された。
暖簾の方を睨む。
「……。」
「ぁ、」
二人は二秒間、見つめ合った。
「ん゙、ゔぅん。無薬様、以前は私が無礼を働いてしまい、誠に申し訳ございません。どうか、お許しを。」
さっきとは打って変わって別人だ。済ました顔で流暢に言葉を並べる。手に胸を当て、お辞儀している。
無薬は口開く。
「嫌だ。」
「……は。この私がわざわざここに来て、頭を下げているのに、無薬様は無理だと……ほんと飛んだ阿呆です……むぐ!」
「はいはい、そこでストップです。頭に来たら思った事をどんどん言う……貴方の悪いところです。」
接客が偽善の手で口を塞ぐ。
「うるさい。」
「早く出ていけ……。」
「あぁ、無薬様も怒られて……。ほら、一緒に、ごめんなさい。」
接客は偽善の頭を掴んで同時にお辞儀した。
「偽善、無薬様に贈る物があるでしょう。」
コトッ
無言で目も合わさずに、円形の入れ物を出して来た。
「それは藥です。塗り藥。長に渡されました。無薬に渡しとけと。今思えば何故、私たちに?」
「……ご苦労様。」
二人で部屋を出て行った。
――偽善、もう一度あのような態度を取ったら許しませんからね。あぁ、先に行かないでくださいまし。
外の奥からまだ話し声が聞こえた。
――――――――――――
夜。月が欠けている。
夜、そうか、夜だ。
「さぁさぁ、一文無しも、大富豪も、賭けた!賭けた!」
無薬は賭けに来た。そこら辺には泣き崩れている奴、またそこら辺には豪快に笑ってる奴がいる。
「丁か半か!」
「丁。」
「さぁ、どちらかな?」
負けた。いや、これは
「いかさまをしているな……?」
「してないぞ。ははっ、銭は貰うぜ。」
机に置いていた銭を取り掛けた。手を掴んできた。
「おい……」
「だ、か、らぁ!してねぇって。証拠がねぇだろ?それに、あんさん。あの高級館のもんだろ。こんなちぃこいのによく入れたなぁ。」
煽った目で見て来る。
「……っ!いっだ!骨が折れるわ!」
ぱっと腕を離す。もういい。他のところで賭けよう。 ――――結構勝ったな。
楽しい一時を過ごしていた。目の前に長が来るまでは。
「こんな事をやっとるのか、無薬。もう帰る時間じゃ。」
ばたばた手足を振りまわして抵抗する。けど長の力には勝てなかった。ずりずりと引き摺れられる。
――――――――――
「今日はここで寝ろ。……、明らかに嫌そうな顔をするな。」
また面をつけているのに顔について言われた。
「……何故ここで寝るんだ。自分の部屋があるのに。」
「くはは。なんでじゃろうなぁ。」
脇を掴まれて布団に入られた。
「ほら、塗り藥。こっちこい。塗ったげる。」
ぐいっと顔を掴まれる。面が口に寄る。
「くふふ、この塗り藥、結構手に入るのに苦労したんだからな。」
頬に片手を添えて笑いかけた。薬指でクリーム状の薬をすくい、面の間から塗る。無薬は大人しく待っていた。
無薬が面づらでこちらを見つめる。
「……なぁ、長」
「なぁに。」
ニコッと見る。青白い月明かりに照らされているが、優しい笑みだ。
「なぜ……、なんでそんなに優しくするの、」
他に何か言いたそうだが、ぐっとこらえて見つめられる。
「そうかえ?そんな、優しくしているか。無薬だけ優しくしている訳じゃないぞ。他の奴らも皆平等に接しておる。」
周りが黄色く光る。さっきまで青かったのに。優しい目で、さっきまで威圧があったのに…無くなった。
そうか、こんな優しい人を殺そうしていたのか。けど約束は守らなければ。あの約束を。
「っ……!そんな、な、泣かんでも……。」
人に同情している目。あたかも自分までそうなったかのように。
「ははっ、わしは知っておる。お前がどんなけ苦労してここに居るか。」
さっきとは違うまた優しい笑顔。見透かされた目。けど嫌な感じはしない。
背中に大きな手があたる。相手も生きているのか。
「無薬や、またこうして話そうじゃないか。」