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無薬  作者: あ行
5/14

5 一番煎じ

「うぅ。」

 中庭の端にいた。倒れた所のすぐ近くの庭だろう。もう夜だった。月明かりが青い。

 重い体を持ち上げる。肘がガクッとなった。起き上がりそうに無い。

「くふふ、おはよう。よぉ寝ておったな。」

「……?!」

 壁に背中がつく。

 ここは?辺りを素早く見回す。

「ははは!無薬、お前は見ていて飽きんのぅ。ここはわしの部屋じゃ。広くて良いだろう?」

 なんで、なんで吾輩がこんなところに?何か企んでいるのだろう。

「ほれ、お茶でもどうじゃ?」

「……。」

 無言で立とうとした。しかし、足がもつれて上手く立てない。

「逃げるのか。ほほう、半日も仕事をサボって、挙げ句の果てには、わしの茶の誘いも断る。お茶してくれたら目を瞑ってやろうと思ってたのだがなぁ。残念じゃ。」

「……。」

 ごもっとも過ぎて、何も言い返せない。

「くふふ、さぁこっちじゃ。無薬と一度、ゆっくり話をしてみたいと思っていた。そぉ…れ!」

 茶がある机まで思いっきり投げられた。疲れていたから空中で、意識を失いかけた。

「くはは!ほぅ。なるほど…。」

 長が笑って座布団に座った。普段、着物を雑に着ていて胸元が見える。座った時に着物の中が見えた。そんなもん見せるな。ちゃんと着ろ。

「それ、美味い緑茶じゃぞ。飲んでみぃ。」

 一口飲む。鼻から風味が通っていく。静かに湯呑みを置く。

 にっが!!!

「美味しいかえ?わしがいれたんじゃ。」

 頬杖を立てて、聞いてくる。

「あぁ。」

「くはは!そんな訳あるかろう。見れば分かる。苦いんだろう?」

 豪快に笑われた。

 不意にこちらを見る。長にだけあって迫力がある。

「無薬や、お前はなぜ面をしているのかえ。」

「お答えできません。」

 即答された。

「まぁ、いいぞ。答えなくても。わしはお前をいつでも解雇できるんだから。」

「……!」

 背筋に誰かが走った。

「答えれる範囲でいいんじゃよ。」

「顔に……」

 言ってもいいのだろうか。誰にも言った事ないのに、初めて言うのが長なんて。

「火傷の痕があるから……だ。」

 目を丸くしている。かと思ったら、優しい目つきに変わった。

「そうかそうか。」

 長が緑茶を注ぐ。

「隣に来い。」

「……なぜ。」

 手招きされる。

「いいだろう。」

 面を外されるかも知れない。と思っているのじゃろう?大丈夫、安心せい。そんな卑怯なことはせん。」

 心を読まれた。

「おぉ。そうじゃ、隣に来い。」

 目を避ける。長と見つめ合うなんて、真っ平御免だ。

「……ひっ!」

 強引に顔を向けられる。今、顔に長の両手がある。ニマニマしてこっちを見られる。

「くふふ。そんな怖がるな。」

 月明かりがこちらを避けていく。

 ざりざりと肌がいう。長が吾輩の火傷跡を触る。何がしたいんだ。

「ほぅ。火傷というのはこれか。」

 近い。耳の奥が響く。

 風が強く吹く。

「……!」

 面が部屋の中央で踊った。素顔が曝け出す。

 長が無薬を投げた時に、結び口が弱まっていた。

「ふぐっ!」

 長の胸に頭を突き出す。

「見るな……。」

 両手で面を探す。

「えぇと、面は部屋の奥にあるぞ。この格好では取れん。どいてくれ。」

「どくと長が吾輩の顔を見る。」

 胸から声が伝わってくる。

「そんな……。というか、さっきお前の顔は見えなかった。」

「……。」

 何も反応しない。

「困ったなぁ。文句言うなよ。」

「?!」

 景色が上がる。だっこされた。

「これなら、お前の顔も見えんし移動もできる。ほら面じゃぞ。」

 手を後ろにして面を渡してくれた。

 畳に足がつく。

「あぁ、言うの忘れてた。火傷の痕を治す藥、こちらで手配しておく。なら面をしなくてもいいだろう。」

 長は腰に手を当て笑っていた。






 番外編

 許嫁を誰にするか縁談をしていた。

「緑茶は私がお入れしても?」

「あぁ、頼んだ。」

 そういえば無薬のやつ、わしに対して敬語を使ってこんな。敬っとらんのか?

 緑茶が湯呑みに入れられるのをぼーっと見る。

「……!なぁ、茶というもんはそういう淹れ方をするのかえ?」

「? えぇ、もちろん。」

 娘は交互に、廻し注ぎで緑茶を淹れていく。

 そうか、そういうもんなんか。無薬には悪いことをしたなぁ。そのまま一つ一つ、淹れてしまった……。それも運悪く一番苦いのを無薬が……。

「……くふふ。」

「どうかしましたか?」

「あ、いいや。考え事じゃ。」

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