4風邪藥
「無薬様、患者を見てください。」
雑用が慌ててこちらに来る。
「……。」
「ちょっと!無視しないでください。もちろん、無薬様がお医者様では無いことは、充分承知の上でございます。しかし!今日は旅館のお医者様が不在なのです。」
急に声を荒げてくるなこいつ。
「長にも無薬に頼んどけ……と言われておりまして。あと、無薬が承諾すれば休暇を与えよう、とも言われています。」
「……場所は。」
机に手を当て立ち上がる。無薬の袖が垂れる。
「ご案内いたします。」
――――――――――
「ゴホッ…ゴホッ。」
たたみ六畳の部屋にポツンと一人、布団にうずくまっている奴がいた。
「なんだ……お前、ゴホッ、」
「こら、偽善。無薬様の前でそんな態度を。目上の方ですよ?」
雑用がこちらを見る。
「ん?あぁ、私どもは雑用ではございません。接客です。無薬さんのご存じの通り、この旅館では、雑用、接客、その次に料理・無薬さん、そして一番上が長です。」
指折り数えて説明した。
「……。顔を見せろ。」
無薬が偽善の顔を診る。医者なんてやったことないのに。
「無視されてしまいました。」
窓から光が差し込む。偽善の鼻筋がよく分かる。髪が反射で白く光る。
「……何をしている。目を開けろ。」
偽善は目を瞑って上を向いていた。
「ぷっはは。ほんと偽善は赤子のように可愛いですね。」
「うるせぇ!」
急に大声を出す。身体が跳ね上がる。
「……。」
無薬は外へ向かう。
「あーあ。お怒りになられましたね。まだ藥も貰っていないのに……。」
「私は悪く無い!……ごほっ、」
「そんなに声を荒げてはまた悪化しますよ。おや、」
フッと笑った。
「よかったですね。偽善。」
布団に何か置かれている。布越しで重さが伝わる。
「藥だ……。」
――――――――――
どいつもこいつも呑気過ぎる。あぁ、どうすればあいつを……!あい……
身体が軽くなる。
ばたっ
偽善→口悪
接客→敬語