14とどめ
「お前、こっちに来い。」
長だ。
「いやだ……。」
「お前に拒否権は無いんだ。来い。」
強引に腕を引っ張る。
痛い。骨が折れる……!
無薬は死を覚悟した。
長の部屋。薄暗い。嫌と言うほど長の匂いがする。
襖を閉じる。隙間から少量の光が差し込んでいた。
ドッ
床に叩きつけられた。背中に衝撃。
「……ぃ!」
手足を拘束された。力が強い。血が止まる……!抵抗しても一寸たりとも動かない。
「お前、尋常じゃ無いほどの藥を入れおったなぁ?あれほど話をしたのにまだするか。」
怖い。顔が近い。音が近い。頭がいっぱいだ。直感しか考えられない。血が溜まっていく。
「わしはお前に、気付けと言った筈だ。なんでわしが今までこんなピンピンしてるか、知っとるかぁ?!」
体が震える。涙が頬を辿って溢れる。
「わしは藥が効かんのじゃあ!」
「……ぇ。」
藥が効かない?だとしたら、今まで俺がやってきたことは無駄ってこと?風の、友人の約束を果たせないのか?俺は力が弱いし、頭も良く無い。
もう死ぬしか無い
過呼吸になる。
「そうだ。今まで過去にやったこと全部!無駄だった。わしを殺して親元なんていけない。無理なんじゃ。諦めろ!あの約束もなぁ!」
やくそく。長と約束なんてしてない。
「……なんでっ、しってる…、あの時、あの…ときっ、お前は、まだ……館にっ、いなっ、居なかった……!」
声が震える。それでも長の表情は変わらない。
「わしは長だぞ?そんな容易いこと、知っておる。」
そうか、あの接客も風の事を知っていた。当たり前か。
「なぁ、無薬、」
音が止まる。力が弱まる。
悲しい。
それが今、目先にいる者の顔だった。
「もう、わしは見たく無いんだ……」
長は無薬の胸に頭を乗せた。
「ずっと見てきた。親元に行く者は皆、地獄にいる様なもんだ。扱いは酷いし、ここよりずっといい暮らし、なんて嘘だ。あいつが、親元がその様に促している。それに無薬、」
二人は見つめ合う。
「お前はずっと友人の呪いだけで生きている。お前が、お前自身で行動したことあるか?ないだろう。いつも、わしを殺そうと必死こいて、今この様だ。」
長が小さく泣く。
「だから、」
一息。
「だから、もうやめんか。こんなこと。」
「………………おれは、」
どうしたいんだろう。長は見抜いていた。ずっと知っていたんだ。
「ははは、こんなこと今決めれねぇよな。ごめん、力が強すぎた。」
長は起き上がる。手首には長が握っていた後がついていた。
あたまがぼーっとする
夜風が吹く。
(そんなん知ったこっちゃない。親元に行きたいんなら、せいぜい頑張れよ。)
長は最初から守ってくれたんだ。親元から。
(まだ分からんか、早う気付け。)
俺に諦めさせようとしてたんだ。
(そう、ないぎ、内儀さぁ!あはは。内儀か、いいねぇ。良い女って訳だ。)
(んふふ。私は長に命を救われた身ですからね。それに、偽善がいれば何でもいいんです。)
ここに居る皆は不幸じゃなかったんだ。
「……。」
長がこちらを向く。ん、と空耳で聞こえてきそうな表情。
「俺は……」
また涙が溢れる。月明かりで光る。
「長に、あなたに…悪いことをした。すごく、後悔している。許されようとも思わない。ぅ、ぐっ、あ゙ぁあ」
子供みたく泣き喚く。迷子になった子供のように。
「ごめんなさい……」
頬に長の手が触れる。涙で手が湿る。
「いいんじゃよ。いいんだよ。大丈夫、大丈夫、」
抱きしめる。
「大丈夫。」
ここまで無薬を読んで下さった皆様、ありがとうございます。今思えば、もうちょっと無薬に絶望を与えれば良かったかなと思っています。