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無薬  作者: あ行
13/14

13焦り

「……さ、長」

「うぇ……!」

 珍しく長が驚く。

「あぁ、どうかしたか。無薬。」

(じょう)の藥がなくなった。仕入れて欲しい。」

「あー、わしの部屋にあったはず……付いてこい。」

無薬は顔をしかめた。

「えぇ……っと、この辺に……。」

 押し入れに体を突っ込んで、薬を探している。

「あったあった、これじゃ。」

 ぼさぼさの頭で振り向く。いない。無薬がいない。

「あれ……、確か無薬と話していた筈……。」

 疲れていて幻覚が見えたのか。それとも狐が化けていたのか。

 足元に一葉、写真があることに気が付く。きっと押し入れから流れてきたのだろう。

 ぼーっと写真を眺める。自然に座っていることも知らずに。

「すまない…、輩に絡まれた。」

 後ろから声をかけた。しかし、長は反応しない。ただの提灯(ちょうちん)の様だ。

 ? 何をしているんだ。

 覗いてみると、可愛らしい女性が笑っていた。それを見つめていた。この人は?長の想い人か?

「長、」

 もう一度、声をかけてみる。無薬は基本的に声が小さいので届いていない。

 仕方ない、長に触れなくちゃ気付いて貰えない。

 いつも人に触れないので、緊張する。

 肩に手を置く。

 布越しから体温が伝わる。長も生きているのか。

「ぅわ!え、無薬?!まっ、ぇ、っ、見ないで、」

 冷たい目で長を見る。

 長は机に伏せた。耳が赤くなっている。

「あ゙ぁ、恥ずかしい。」

 音が籠る。

 こんな時、長は大丈夫と声をかけるのか。どうすれば正解なのか分からない。

「むやく……、いるなら、いってくれ……」

 片目でこっちをチラッと見てくる。少し涙目で頬が赤い。

「すまない……。」

「座れ……。」

 長の向かいに座った。

 長が顔を手で覆う。かと思いきや、両手を挙げ背伸びした。次に、にへらと笑いながら、恥ずかしそうに口を開いた。

「ほんま、恥ずかしいところを見せてしまった。とんだ阿呆面だっただろう。」

「見えていない。」

「そうか、」

 たははと笑った。

 女性のこと、聞いていいのだろうか。しかし、聞くと自分の過去も言わなければならない。

 無薬は言おうとした口を閉じた。少量の空気が口に入る。

「……、写真、見たか?」

 まだ少し頬が赤い。

「いいや。」

「嘘をつけ。分かるぞ、無薬。嘘をつくのが下手だなぁ。」

 息継ぎをしてから、

「この写真は、この写真に写っている娘はな、わしの古き友人だ。」

「……。」

 黙って聞いた方がいい。

「想いを告げれずに、先を逝ってしまった……。かんざし一つも贈れんかった……、」

 声が掠れる。

「……、」

 そんな過去があったのか。だから、かんざしがまだあったのか。だからまだ、奥さんをつくれずにいたのか。

「こんな話をしていたら、花がしおれるな。やめよう。」

 長が横を向く。首筋が見える。

「ほら、藥じゃ。」

 手に袋を乗せた。軽さが伝わる。

「……ありがとう。」

 うんうんと頷く。

 無薬がこの場を去った。身体の力が抜ける。

「あぁ、見られてしまった。しかも無薬に……。おれとしたことが、」

「しかし、本当に良く似ているなぁ。」

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