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無薬  作者: あ行
12/14

12話

「……。」

 不機嫌な顔で長の部屋へ向かう。ぺたぺたと足音が鳴る。

 また茶に誘われた。断ったら脅してきやがった。

「お〜、無薬。待っていたぞ。」

 こっちこっちと手を招く。ニカっと笑顔だ。

「座れ。今日は真面目な話だ。」

 空気が変わる。肺に入れたく無い空気だ。

「……。」

「今日も、今日とて平和じゃ。平和すぎて気が狂うほどな。しかし、」

 扇子を顎に当て上目で見られる。

「誰かがいつもわしの邪魔をする。何回も何回も。」

 指折り数える。

「茶の時も、折り菓子も、あとお前が(ここ)の条例に反する藥を売ってんのも知ってる。まぁ、その藥のお陰で偉い奴が来るんだけど。して、」

 冷たい目。

「何がしたい。」

 面と向かって言われる。逃げれない。こうなるって分かってたのに。あぁ、逃げたい。

「わ、吾輩は、」

 唾を飲み込む。

「その、」

 じっと見られる。

「おれは……、」

 涙が溢れる。思い出す(かぜ)のこと。

 背中に手が当てられる。

「まぁ、いいんじゃ。大丈夫大丈夫。」

「う……ぅあ、」

 いつの間に隣に来たのか。

 ゆっくりと背中を撫でられる。

「ほれ、茶を飲め。」

 湯呑みを渡される。口に湯気が当たる。あったかい。

「……ん、」

 無薬の下顎が見える。

「おいしい……。」

「だろう?今度はちゃんと入れたからな。」

 子供を相手にする様に、顔を覗く。

「庭を見に行こう。きれいだよ。」

 長の後ろ姿について行く。腰と帯のラインがくっきり映ってる。余裕のある歩き方だ。

 今思えば、長を殺そうとしている事を知っていて、なぜ吾輩を殺さないのか。命が狙われていると言うのに。

 長がこちらに見返る。見返り美人だ。

「見て、きれいだろ。」

 白い小さな花だった。

「縁談相手とも来ているのか。」

 自分で言ったことに驚く。長も驚いている。

「来ていない。ここはわしの庭じゃ。来客用の庭があるんじゃ。なんだ、嫉妬か。」

 からかっている。そりゃそうか。うっかり口が滑ってしまったのだから。

「……違う。」

 くははと横で笑う。楽しそうだ。

 無薬の方を見る。いきなり泣いたから、どうしようかと思ったけど泣き止んで良かった。少し脅しただけなんじゃがな。

 やはり、気づいていないか……。

「無薬、やっぱお前も親元に行ってここよりいい暮らしがしたいのか。」

「……あぁ。」

 俯く。

「そうか……、」

「そろそろ戻ろうか。」

 無薬の腕を引いて部屋に戻った。

「あ、」

 畳の上にかんざし。

「無くしたと思ったら、こんなところに。くはは、運が良いな。」

 整理整頓が出来ていないだけだろ。

「無〜薬。」

 満面の笑み。嫌な予感がする。

 かんざしを髪につけられた。

 あれ、かんざしを贈るのって確か……

 長の方を見る。にまにましている。

「似合っておるぞ。」

[かんざしで喉を刺してやろうか。]

 言いかけた。

「こういうのは、好きな人に贈れ。」

 かんざしを抜いて、長に返す。髪とかんざしの擦れる音。

「くはは、冗談じゃ。」

 目が笑ってない。許嫁を見つけるのに苦労しているのだろう。

「もう、自室に戻る。」

「そうか、気をつけて戻れよ。」

 骨がごつごつと出ている手を振る。行ってしまった。

「無薬、必ず守るからな。」

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