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無薬  作者: あ行
10/14

10届け物

「ほう……。これはいい菓子だな。」

「……。」

 長の部屋に招かれた。取引先の折り菓子を持ってこいと。なんで吾輩が。

「……。」

「おいおい、まだここにいろ。去って行くな。」

 何がしたいんだ。動向がつかめない。

     少しの沈黙。

「無薬、遠い。こっち来い。」

「……断る。」

 今度はきっちりと断る。長が不機嫌な顔になった。

「……もういい。わしがそっちへ行く。」

 四つん這いでこっちに来る。長の独特な香りがする。嫌な香りではない。

 隣で胡座をかいて座る。

「火傷跡の調子どうじゃ。良くなったか。」

 無薬の方を見ず、顎に手を乗せ頬杖をしている。

「……。」

 何も言わなかった。

「おいおい、何も言わなかったら面を破いてしまうぞ。」

 この長ならやりかねない。舌をだして脅してくる。

「あぁ。」

「良かった、良かった。」

 優しい顔で言ってくる。

「無薬、」

長がこちらを向く。ふわっと香りが鼻を通っていく。

「一人は寂しいか。」

 目を開く。

「な、何故そんな事を、」

 あからさまに動揺してしまった。日常が思い出す。

「くはは、聞いてみただけだ。」

 折り菓子に目を移す。

「食べてみるか。」

 笑顔で、綺麗に包装された折り菓子を破いていく。

「あ〜、ん。んーん。美味いおのぉ。」

 長がこちらを向く。ニヤリと八重歯を剥き出しながら。

「無薬〜。ほれ、あーん。」

 口に手を当てる。

「食べろ。」

 目で訴えられる。俺は長だぞと。それにしてもぐいぐいと、手に菓子を押してくる。

「……。」

 一口食べた。けど飲み込まなかった。もう、帰ろう。

「うーん。無薬、」

 ごんっ

 いきなり壁に打たれる。頭と背中が痛い。手を強く硬直させられる。

「……ぅ、」

「ま〜た毒を入れおったなぁ?」

 言葉で表せられない威圧感。画面いっぱいに長がいる。汗が顎をなぞる。

「まだ分からんか、早う気付け。」

 今度はあっさりと手を離される。普通の顔に戻った。

 心臓がバクバク鳴ってる。ドラが体の中に入っているようだ。部屋から出る。

 自室に戻ろう。

「口無しだ……。」

 ……。

「最近、長の部屋に閉じこもっているらしいわ……。」

 …………。

「何か企んでるか、二人で寝ているのかぁ……?」

 ………………。

「アハッハ、聞こえちまうよ…。」

 ……………………、

「あぁあ、そんなこったぁしてるから」


「昔のあいつが死んだんだろうなぁ。」

 

「お前……」

 いつもなら過ぎ去って行くのに、足が、口が勝手に……!

「あいつの、風の何を…知ってるんだよ!」

 収まらない……!

「いつも、いつもお前らは……、俺たちの事を……!」

 殴ろうとする。やめた。

 もう嫌だ、












 


「んぐ……、」

 天井。知ってる天井だ。知らぬ間に自室に戻っていたのか。部屋が暗い。もう夜か。ほのかに外が照っている。

「あぁ、お目覚めになられましたか。」

「……ぅあ!」

 起き上がった。隣に接客がいた。でこから濡れた布が落ちる。

「ごめんなさい。藥をと思いまして無薬様の所へ行ったのですが、倒れていらっしゃたので。少し熱がありました。」

「せ、説明されても分からない……。」

 何を言っているんだ。まだ混乱する。顔を手で覆う。

「えぇっと、無薬様には恩がありますからね。」

 ふっと笑顔になった。

「……。」

 今日はやけに目が合う。手からの顔の感触が近い。……、面がない。

「ぅ……、ぁ」

「……?面、ですか、」

 しばらく手で顔を密閉していた。顔が赤くなる。耳も赤い。うっすら涙がでる。

 どうしよう。今、接客はどんな顔で、気持ちでここにいるのか。知りたいけど知りたくない。

「……もういい。」

「っ、無薬様、面をされなくてもよろしいんですかっ。」

 今度は接客が混乱する。覆っていた手を布団の上に置いた。

「あぁ、もう全て壊れるから、良いんだ。」

 物語っている顔。どう言葉を返したらいいかわからない。

 ドーンドーン

「花火……、」

「ここ数日、大規模な祭をされているようで。まぁ、私たちには関係無いですけど。」

「あぁ、そうだな。」

 無薬様がこちらに向かって微かに、はにかむ。この会話に肯定する表情じゃない。もう、本当に諦めている顔だ。全て。

 窓からの小さな花火の光が、無薬を包む。無薬の耳飾りが光を通して包み込む。少し、ほんの少しだけ惚れてしまった。

「……私はただ、」

 口が滑る。言葉を飲み込む。喉でつっかえる。痛い、

「ん、なんだ。」

 やめてくれ、言ってしまう。飲み込んだのに、また吐き出してしまう。

「ただ、対等に…平等に接したかった……、」

「吾輩で良ければ、敬語なんて使わなくていい。」

 声を絞ってしまう。無薬の強く握っていた袖を離す。

「そ、のようなわけには参りません。ごめんなさい。無礼を。」

「それじゃあ、来世では友でいようじゃないか。」

 また無薬様が優しい顔になった。

「はい、花火でも見ましょう。」

「あぁ。」

没会話です。

「お前、ずっと足並みを偽善に揃えているだろう。」

「っ、何故それを?」

「……なんとなくだ。」

「……ぎ、ぜんには私がしたくてしてるんです。あの子は出来損ないで何も出来ない。おまけにも、口が悪い。」

「……なので私が裏で手を打たなきゃ、今頃接客になんかなっていません。雑用どころか、即解雇です。」

「劣等感を持たされなく、私が足並みを揃えていれば浮かないでしょう。」

「そうか。」

「……!ごめんなさい。私ったら長々と話してしまい……、」

「よっぽど偽善のことが大事なんだな。」

「はいこの世で一番、」

「生きていてほしい人です。」

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