1藥
「風邪藥一つ。」
「……。」
一人、キセルで烟草を蒸し、机に頬杖を立てている奴がいる。すると、人差し指をちょいと動かした。壁にいくつもの箱が並んでいる中から一つ選んで、薬草をとった。それを細かく刻んでいく。
「……。症状は。」
無薬は口開く。低く耳に響く声の持ち主だった。
「……?あぁ、高熱らしいです。」
客らしき者は答えた。
「……。」
うんともすんとも言わず、無言で他の薬草を取る。小さい袋に入れて客に渡す。
「煎じて飲め。」
「はい。」
客が部屋から出ていった。椅子の背もたれにもたれる。
ここは、高級な旅館だった。そこに薬屋として働いてる無薬がいた。白銀でアクアリウムの耳飾りをしている。顔には布の面をかぶっていた。
客というよりかは、この旅館の雑用で働いている奴だ。ここの旅館の親元に入ると今より位が高くなり、裕福な暮らしができるので、皆死に物狂いで働いている。
また烟草を蒸している。味は人魚か、藤か。怪しい煙が出ている。
また雑用が入ってくる。今日は多い。
「胃腸薬一つ。濃いやつな。」
「……。」
また薬草をとって刻む。と、ドンっと机に肘を置かれた。邪魔だ。すると耳元で囁かれた。
「お宅さん……知ってんだ。俺は。他人を殺せる藥、売ってんだろう?少々値は張ってもいいぜ。」
こいつ、一人で話を進めやがる。
「吾輩はそんなもんやっとらん。若人、とっとと持っていけ……。」
雑用に胃腸薬を突きつける。ギロっと見られる。
「ちっ。あんたもまだ若いだろ!」
雑用は胃腸薬を持たずに去っていった。
(どこから漏れたんだ…。)
一人考えた。
また誰か入って来る。
「ご苦労。無薬。お前のおかげでこの館は回っている。礼を言おう。」
雑用とは違う空気を持っていた。
「長、一つ聞きたいことがある。」
「ん? なんじゃ。言ってみるが良い。」
「吾輩を何故、親元に送らんのか。」
長が間抜けな顔をする。
「くはは、普段無口な貴方が何を言うかと思えば……、ははは。片腹痛い。」
真顔になる。
「そんなん知ったこっちゃない。親元に行きたいんなら、せいぜい頑張れよ。」
肩にぽんと手を置かれる。長が部屋から出ていった。
知ってるなこれ。まぁ良い。
再び烟草を吸う。
その部屋には煙と殺気が充満していた。
無薬→無口な奴
長→旅館の主