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無薬  作者: あ行
1/14

1藥

「風邪藥一つ。」

「……。」

 一人、キセルで烟草を(ふか)し、机に頬杖を立てている奴がいる。すると、人差し指をちょいと動かした。壁にいくつもの箱が並んでいる中から一つ選んで、薬草をとった。それを細かく刻んでいく。

「……。症状は。」

 無薬(むやく)は口開く。低く耳に響く声の持ち主だった。

「……?あぁ、高熱らしいです。」

 客らしき者は答えた。

「……。」

 うんともすんとも言わず、無言で他の薬草を取る。小さい袋に入れて客に渡す。

「煎じて飲め。」

「はい。」

 客が部屋から出ていった。椅子の背もたれにもたれる。

 ここは、高級な旅館だった。そこに薬屋として働いてる無薬(むやく)がいた。白銀でアクアリウムの耳飾りをしている。顔には布の面をかぶっていた。

 客というよりかは、この旅館の雑用で働いている奴だ。ここの旅館の親元に入ると今より位が高くなり、裕福な暮らしができるので、皆死に物狂いで働いている。

 また烟草を蒸している。味は人魚か、藤か。怪しい煙が出ている。

 また雑用が入ってくる。今日は多い。

「胃腸薬一つ。濃いやつな。」

「……。」

 また薬草をとって刻む。と、ドンっと机に肘を置かれた。邪魔だ。すると耳元で囁かれた。

「お宅さん……知ってんだ。俺は。他人(ひと)を殺せる藥、売ってんだろう?少々値は張ってもいいぜ。」

 こいつ、一人で話を進めやがる。

「吾輩はそんなもんやっとらん。若人、とっとと持っていけ……。」

 雑用に胃腸薬を突きつける。ギロっと見られる。

「ちっ。あんたもまだ若いだろ!」

 雑用は胃腸薬を持たずに去っていった。

 (どこから漏れたんだ…。)

 一人考えた。

 また誰か入って来る。

「ご苦労。無薬。お前のおかげでこの館は回っている。礼を言おう。」

 雑用とは違う空気を持っていた。

(おさ)、一つ聞きたいことがある。」

「ん? なんじゃ。言ってみるが良い。」

「吾輩を何故、親元に送らんのか。」

 長が間抜けな顔をする。

「くはは、普段無口な貴方が何を言うかと思えば……、ははは。片腹痛い。」

 真顔になる。

「そんなん知ったこっちゃない。親元に行きたいんなら、せいぜい頑張れよ。」

 肩にぽんと手を置かれる。長が部屋から出ていった。

 知ってるなこれ。まぁ良い。

 再び烟草を吸う。

 その部屋には煙と殺気が充満していた。

無薬(むやく)→無口な奴

(おさ)→旅館の主

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