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10.探索師、伝説のフェンリルと出会う

 驚いた、アイスウルフは比較的知能の高いモンスターだけど、こうして人語を話せるものがいるなんて!





「いかにも!この方は次代を担う勇者、レイクス様だ!」

 とお姉ちゃんがクールキャラで姿を現すと、狼は目を見張った。





「あなた、様は、もしや聖剣の、精霊さ、ま・・・・・・ではやはり、このかたは勇者さま、で・・・・・・」

「あ、ちょっと待って!手当をするから」





 僕はアイスウルフに駆け寄った。

 口ぶりからするに、敵ってわけじゃなさそうだ。





 息も絶え絶えになっている彼のそばにしゃがみ込んで、僕はカバンから薬瓶を取り出した。

 これ自体は市販の疲労回復薬だけど、そっと念を込めると瓶は静かに光った。



 これで”加護”の力でエリクサーとしての効能がついたはずだ。





 アイスウルフの口にそっと流し込んであげると、「おぉ・・・・・・」と深く息を漏らした。

「信じられない、痛みがあっという間に消えて・・・・・・なんとお礼を申し上げればよいか!」





「あぁ、それよりも何があったのか教えてくれないかな?」

 と手を振ると、狼は静かに頷いた。





「はい・・・・・・あぁ、申し遅れました、私は、ガントと申します。私たちは勇者様をここでお待ちしていたのです」





「勇者を?」


「はい。私たちアイスウルフがお慕いするオラム様が、近々勇者様がここをお通りになるとおっしゃられて。私たちは我先にと競うようにこの峠に来たのです。勇者様をオラム様のもとへご案内する栄誉を求めて」





「えっ、オラムってもしかして・・・・・・!」

「うむ、先代勇者に従ったフェンリルのことだな」とお姉ちゃんが説明してくれた。

 すごい、伝説に謳われる魔獣が今も実在しているなんて!





「オラム様は勇者様にお力添えしたいと願っておられるのです。先代の勇者様にそうされたように」

 と言ってガントは小さく息をついた。





「私たち自身も、早く勇者様にお目にかかりたいと思ってここまで来ました。けれど、運悪くドラゴンと鉢合わせしてしまい・・・・・・力を合わせて立ち向かってみたものの、力量の差は歴然としていました。それで、私がおとりになって引きつける間に、仲間にはオラム様に知らせてもらうよう頼んだのです」





「そこに、僕が通りがかったってわけだね」

「はい。あなた様がドラゴンを倒さなかったら私は・・・・・・本当にありがとうございます!」

 ガントが頭をさげたとき、遠くから厳かな声が届いた。





「私からも礼を言わせていただきたい、新たな勇者様」

 振り返ると、いつの間にか巨大な狼が沢山のアイスウルフを引き連れながら、姿を現していた。





 これが、伝説のフェンリル、オラム!

 すごい、さっきのドラゴンと同じくらいの大きさに見えるよ!





「私はオラム。勇者様、そして聖剣の精霊様。私の部下たちを助けていただき、誠にかたじけない」

「いえ、ご丁寧にありがとうございます。レイクス=ヴァンダムといいます」

「アウローラだ」





 僕とお姉ちゃんがそれぞれ挨拶すると、オラムさんは、あぁと息をついた。


「まさしく夢で見たとおり!このように勇者様とお会いする夢を私は昨夜見たのです。そのことを彼らに告げたところ、このように大挙して押し寄せることになってしまいましたが」

 と苦笑している。





「実は、国境近くで我が王国の軍が魔族相手に苦戦しているのです。僕はそれをお助けしたいと考えていまして」

 僕が説明すると、フェンリルは大きく頷いた。





「それはそれは、大事なお役目にございますね!私も喜んでお力添えいたします!」

 そう言ってオラムさんは空を見上げた。





「かつて、私は魔王の配下でした。しかし、先代の勇者様と対決し敗れた後も、勇者様は私を生かしてくださった。一族の長として、やむなく魔王に従っていた私の境遇を見抜いて助けてくださったのです!そのご恩に報いるため、私は勇者様のために戦場を駆けました。そして、次の勇者様が現れた時にもご協力するとお誓いしたのです」





「では今回、レイクス様とともに旅をする、ということだな?」

 とお姉ちゃんが問いかける。





 すると、オラムさんはこちらを伺うような目で、こう言った。

「はい、そのことで一つご提案したいのですが、よろしいでしょうか?」





 ん?なんだろう?

 僕とお姉ちゃんは顔を見合わせる。

 まぁ、とりあえず聞いてみようか。





「えっと、どうぞ」

「ありがとうございます!実は私の名代として、我が一族の若い者を、あなた様のお供に加えていただきたいのです」





「若い者?」

 とお姉ちゃんが返すと、オラムさんは頷いて後ろに目をやり、


「さぁ、ご挨拶なさい」

 と声をかけた。





 すると、オラムさんの影からもう一頭のフェンリルが姿を現した。

 長よりも一回り小さい身体で、片方の瞳は青く、もう片方は金色に輝いている。





「ファナ、という名です。我々フェンリルは氷属性ですが、この子はご覧の通り、光属性も身につけております」

 とフェンリルの長が紹介すると、ファナは深く頭を下げた。





 確かに、身体から溢れる光が、氷のような毛先で乱反射して虹色に輝く様子はとても綺麗だ!

 お姉ちゃんもうぅむ、と唸る。


「なるほど、ステータスならばオラムのほうが上だが、光を纏った姿は確かに勇者の供にふさわしいな」



「うん、いいんじゃないかな!」

 と僕も頷く。

 誰であれ、こうして仲間になってくれるだけでも、僕としてはありがたいんだよね。





「お褒めいただきありがとうございます!実を申しますと、ファナは私の娘なのですが・・・・・・」

 オラムさんの言葉に、


「何!娘、だと・・・・・・?」

 なぜかお姉ちゃんはドキッとしたような顔をした。





「あの、お姉、じゃなかった、アウローラ様どうかしましたか?」

 と僕が聞くと、お姉ちゃんは気を取り直したようにコホンと咳をした。





「あ、いえ何も・・・・・・。オラムよ、一つ聞きたいのだが」

「何でございましょう?」

 フェンリルの長は緊張した顔になる。





「その、フェンリルはヒト化することもできると聞くが、このファナはどう、なのだ?」

 すると、オラムさんはあぁっと嘆息した。





「大変申し訳ございません!我が娘はまだまだ未熟でして、ヒト化に成功したことがなく・・・・・・」

「おぉ、そうか!それは良かった!」

 お姉ちゃんは途端に顔を輝かせた!





 えっ?と思わず驚くと、オラムさんも僕と同じように

「え?」

 きょとんとした顔をした。





 お姉ちゃんはハッとした顔になって、腕を組んだ。

「あっ!いや・・・・・・良いのだそれで!これからレイクス様の元で研鑽を積めばよい!という意味だ。さすればヒト化などすぐ出来るようになる!」


「ハッ、ありがたきお言葉!」

 オラムさんは、ほっとした顔をしている。





「是非とも、厳しく鍛えてやってくださいませ!ご覧の通り、まだヒトの言葉を話すことはできませんが、理解はしておりますので必ずお役に立ちます!」





「うむっ、話せなくとも良い。そちらのほうがライバ・・・・・・いや今後が楽しみというものだ!」

 お姉ちゃんは満足げに頷いている。





 うんうん、僕もまだまだ勇者としては半人前だし、一緒に成長していくって考えた方が僕としても気楽かな!





「じゃあ、これからよろしくね、ファナ!」

 僕はファナに歩み寄って、その頬にそっと触れた。





 すると、僕の中から温かな何かが流れ出すような感覚がして、ファナが一際強く光った。そして、




「よろ・・・・・・しく・・・・・・れぃ・・・・・・さま・・・・・・」

 とファナの口から、鈴を振るような声が聞こえた!





「!!」

「ファナっ、お前、言葉を・・・・・・!!」

 オラムさんは大きな口を震わせる。





「なんと!勇者様のお手が触れただけで、ファナ様のお声が出るようになるとはっ!なんという奇跡っ!」

 ガントも感極まったように声を絞り出す。





 そうか!ファナは従属獣、つまり僕の所有物扱いになって”聖導具”として加護の対象になったんだ!


「ファナ様ばんざい、勇者様ばんざーいっ!!」

 アイスウルフたちは叫び、喜びの遠吠えが峠に木霊した。

 ファナは目を細めて恥ずかしそうにしている。





 お姉ちゃんは、といえば

「れぃ、さま?」

 と呟き、遠い目をしながら涙を流してる。


 きっと、さっきの言葉どおり、ファナが急成長したことに感動してるんだね!





「本当に、本当になんとお礼を申し上げたら良いかっ・・・・・・レイクス様、どうぞ、ファナをよろしくお願いいたしますっ!」

 と感極まっているオラムさんに、



「こちらこそ、どうぞよろしく!」

 僕は頷き返した。




 さぁ、国境へと急ごう!

いつもお読みいただきありがとうございます

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