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一口にしん昆布巻きと勝沼シャトー赤ワイン

作者: 小波

マリアージュしてくださいね


お口の中で


日本人の独特な食べ方


おしんこと白米を口の中で混ぜ合わせる



できるでしょう?



私たちは自然とそう育てられた。



ブルーチーズってくっさぁい!あっちで食べてよ!


刺々しく言い放つ叔母さんに肩をすくめて父と私は

こんなに美味しいのにねぇと目配せする。

その仲の良さに益々苛立って父の妹は臭い!臭い!を連発した。

知らん顔で父のグラスに黒い液体を注ごうとすると


お前は下手だからと缶を奪われる。

私は黙って私のグラスを見つめていた。

大きな皮膚の厚い日焼けた手の甲と。

黄色いビールよりも高級な色をした泡に唾液をごくんと飲み込んだ。

ギネスと書かれた貰いもののグラスを受け取る。口を窄めてごくごくと飲んだ。父の注いだビールも泡ばかりで対してうまくは無い。

でもとっても美味しい。女は注がなくていいんだ、と彼はカッコつける。



ブルーチーズは確かに匂う。テーブルには蜂蜜と少し焼き過ぎたバゲット、何故かにしんの昆布巻き、珍しく今日はミニトマトが無造作にオリーブ油だけ垂らして気取った器に入っていた。黒胡椒を取りに立ち上がるとまたあの避難がましい叔母さんが鼻をつまんでこっちを見る。


食の好みが同じ家で育ってここまで差がある。


だけど私はひとつだけ悔しい。


叔母さんと父は私が生まれるうんと前に狸を食べたらしいのだ。



ずるい。


あれがね、その時の狸の頭の骨だよ。


朧げな記憶の中で神棚のすぐ隣に猫より少し大きそうな獣の頭蓋骨があった。



父と叔母で小さな私をからかっている。

たぬきってくせえんだぞー

ほんっと臭くてね!


大人の会話に目をキョロキョロさせていた。


マリアージュはたまに拗れる。


そこへ母が帰ってきた。私は父の妹と母の牽制プレーを眺めるのが割と好き。


叔母は姉さんはブルーチーズ食べれるの?と聞くと


ええ!大好きだよ。と洗っていない手でつまみ食いをした。


二人してゲテモノぐいね!

叔母はワイングラスの赤い水を飲み干す。


まあまあそんな事言わずに。


私はお取り寄せの無塩せきの生ハムを差し出す。

母はちょっといいやつのオリーブ油を買ってきたのだ。雪の中、歩いて。


暖炉の薪がパチパチと爆ぜて、炎を見つめるたびに4人の大人は少しだけ黙る。


生ハムを出した。紫蘇と千切りの大根を巻いた。黒胡椒をがりがりして蜂蜜を垂らした。どこから持ってきたのか今年最後の生バジルを母が隣に飾る。父はトマトと紫蘇の荒微塵を大きな木のフォークで混ぜた。少し硬めに作られた豆腐を母が切りトマトのサラダが出来上がる。叔母が塩をぱらぱらとかけ、私はオリーブ油を静かに垂らす。人の声と暖炉の音、野菜を切ったり混ぜたりする音、そんなのがオーケストラをBGMにしているように流れてノリノリでご馳走が出来上がっていく。酔っ払いのタクトで。


鮭のスモーク、ガーリックとキノコの炒め物。

甘く無いソーダ水。ビールは山ほど。


ところでたぬきって本当にたべたの?


私を除いた3人が

美味しかったわよねー!と、興奮した声を出す。

美味しかったよなー!



ずるいーと膝の猫を撫でて炎と私の家族を眺めた。


雪が木から落ちる音が家全体を包んでも構わずに飲み続けた。




ありがとうございます。またきてね!

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