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『慟哭の塔』 二層目 ラウル編『黒爪』のヴァガリウム・『右手』のガラン後編

 別の方向から再びボスの声が聞こえてくる。

 その音にヴァガリウムは動きを止める。その声の元を見つめ、唸り声を出している。


「このまま戦いを始めてもらっても構わないが、少しぐらいコイツの事を説明しても問題無いだろう? なあ、魔具使い」


 俺は鼻を鳴らした後、「勝手にしろ」と言う。


「コイツは、なかなかの荒くれ者でな、素人のくせに我々のような存在に対しても恐れることなく、敵意を向けてくる」


「その行為が次第に周囲へ悪影響を与え始めた。察しが良いお前なら簡単に分かるだろ? 目障りな存在。あとは簡単だ、同じ考えを持つ者に少しアイディアを与え、場所を与える。その結果が当事者にとって非常に有益な事だと分からせる。それだけで十分」


「非合法の格闘技大会に出場させ、不正を行い障害者にした。当事者達はそれだけで十分だった、これからは以前通りに。慕っていた連中は、所詮は烏合の衆。二、三人殺せば歯向かうことも無くなる」


「そして、我々にも良い事がある。それはヴァガリウムという剛健な肉体を持つ実験体」


「強制的に『魔具』と契約させたいが、それが出来ない。なら直接、肉体に埋め込んだらどうか。形状は上手くいった。強制的に『魔具』と接続された肉体は数時間で変化を起こし、それからしばらくすると人格崩壊を起こし、目の前に存在する生き物を殺すだけの生物兵器に」


「ただ、不思議な事に時折、その行為が無い時がある。それが正に今だ。普段なら、お前の姿を見た途端攻撃するはずだが、それが無い。私は期待している、お前が新たな変化を生み出すのではと」


「長々とくだらない説明を聞かせやがって、無駄話は終わりか?」


「まあお前からしてみれば興味すら持てない話だろう」


「話が変わるが、塔の外には私が想像もしない事が起きているのだろう? お前から言われた言葉を此処に来るまでの間に考えたよ……」


「この塔を出て、どれだけの力を手に入れられるのかを知りたい」


「いや……、望む、望んだ。想像を何度も超え、絶えることない欲で力を手に入れる。それが今の俺の存在する理由だ」


 響き渡る声に異様な説得力が含まれていた。

 思考の変化にこれ程の影響があると組織は崩壊する。方向性が真逆にならなければそれは防げる。ただ、考え方の変化に対応出来ない者達が必ず出て来る。

 それらを全て殺していたら、再び組織を立て直すまでの時間が無駄になる。非効率を許すタイプに見えない。

 となると、あの男の意思に続けば間違いない。

 自分が望む以上のモノを見せてくれる。

 そんな期待と、意思を捨てる恐怖を天秤に掛けた時、部下達は前者の意見を選ぶ。

 思う、コイツは此処で殺すべきだ――

 これ以上、世界を混沌するわけにはいかない。


「おい! このデカブツを殺したら、今度はお前が戦え。俺の魔具が欲しいのならそれぐらいのリスクは問題無いだろ?」


「……考えておこう。直接お前の魔具に触れたら色々と分かるかもしれないからな」

 ボスが言い終わると同時に、ヴァガリウムがゆっくりと動き出す。


「ようやくやる気になったか。さっさとやろうぜ。俺のスケジュールは予定で埋まってるんだ」

『闘争の刃』を構え、ヴァガリウムに向かって走る。




 距離を縮め、初撃を巨大な身体を支える足に定める。

 その意思をヴァガリウムに読まれたのか、攻撃を防ぐ様に太い腕を伸ばしてくる。

 狙い通りの動きに合わせて大型の剣の構えを変える。

 跳躍。腕に着地、一気に走る。

 急所近くまで近づき、首の頸動脈を狙った攻撃を放つ。

 しかし、顔を横に倒し、面で攻撃を防ぐ。高い金属音が響き、続くようにして再び音が響く。

 追撃も防がれた。


 俺は大きな舌打ちをし、ヴァガリウムの首元から後方へ跳躍。

 それを叩き落そうと迫って来ていた右腕を足場にして反対方向へ。

 加速する中で体勢を変え、再び攻撃を仕掛けようとした瞬間、この部屋全体が揺れるほどの衝撃と共に、デカブツがこちらを向いていた。

 仮面の下の目が凶悪に歪み、そのまま腕が振られた。

 全身に伝わる衝撃。

 強制的に肺から空気が出る。壁に激突する前に反対の腕で、俺は床に激突。そのまま振り上げられた足が落ちる。

 絶叫が響き渡る。獣が泣き叫ぶ様な声だった。

 上に向かって突き立てられた『闘争の刃』、『魔力刃』によってヴァガリウムの足が斬り裂かれていた。

 凄まじい流血の中から俺は飛び出し、距離を作る。



 思っていた以上に動きが早いな―― 

 魔力の流れを変えて回復力を上げる。

 その間にヴァガリウムの攻撃が頭上に落ちて来る。激突寸前で回避することで、破砕され、巻き上がる破片と粉塵によって姿を隠す。相手が見失っている間に完全回復。

 右方向へ逃げていたところを、方向転換すると同時に跳躍。

 着地したヴァガリウムの腕を掴み、指から指輪を引き抜く。

 低い体勢のまま肩へ向かって疾駆。

 後方で指輪が爆発。前腕部分が二つの指輪以上の大きさで抉れ、紫の魔力光が放たれる。

 肩を足場に突撃横薙ぎを放つ。

 ヴァガリウムの仮面に『闘争の刃』が激突。衝撃に耐えられない頭部が全身を後方へ引っ張る。離れていく仮面に向かって、追撃の突きを放つ。

 魔力光で輝く切先が激突。

 衝撃で仮面に亀裂が入り、一気に崩壊する。現れた顔はペンダントトップと同じ形をしていた。

 顔を見られたことがショックだったのか、破壊されていない腕で顔を隠しつつ、俺に背を向ける。

 着地、更なる攻撃を仕掛けようとした時、視線の先、背中から透けて見える強力な魔力光。金色の光に黒い靄がかかった様な光が、身体の中心から頭部に向かって急速に移動。



 脳裏に嫌なイメージが浮かぶ。

 判断をミスるとヤバい事になる――

 両足を床に付け、踵だけを少し上げる。

 次の瞬間、俺の方を向いた顔の口から魔力砲が放たれた。

 瞬時に横へ移動。その動きを追って顔も動く。

 放出され続ける魔力砲によって床、壁が破壊。瓦礫が舞う中、今度は壁を足場にして回避。

 一度で俺を仕留めることが出来なかったヴァガリウム苛立ちながら顔を縦横無尽動かす。

 破壊され続ける部屋。

 攻撃を避けながら思う。

 コイツはまだこの戦い方に慣れていない――

 大体の敵は想像以上の速度で振られる腕で瞬殺されていて、今の状況はアイツにとって初めての出来事。

 それなら簡単にケリがつく――

 魔力砲を回避しながら床に着地。ヴァガリウムと視線が合う。俺に向けて口を開いた瞬間、その場から飛び出す。

『魔力刃』を纏った『闘争の刃』を構え、振り抜く。

 刀身の長さが何倍にもなった剣によって両膝の辺りから切断。

 体勢を崩したところに跳躍し、再度振られた剣によって両腕も切断される。

 魔具からの回復を許さない一撃がヴァガリウムの頭部を貫いた。そのまま魔力刃を爆発させ、紫の魔力光を放ちながら破壊。

 粉塵が舞う中、唯一破壊されていない方向へ向く。


「おい、お前の自慢の作品は消えた。そろそろお前が戦う番じゃないのか? 逃げてばかりじゃ組織のボスとしてのメンツが立たないと思うが?」


「そんな安い挑発、相手が乗るはずがない事を知っているのに何の意味がある。お前は冗談のセンスは無いみたいだな。戦いのセンスは抜群なのに」


「多く持てないのが人の運命なのかもしれない……。ただ、私は多くを持ちたいので、この場を離れたい。わずかなチャンスも生かしたいので。どうだ、取引しないか?」


「ふざけているのか?」


「真剣な話だ」


「お前達は次の層へ行きたいのだろう? 私が戦うことを止めればこの層を攻略した事になるはず。私は生きて次の可能性を探す。お前達は目的の次の層へ行ける。この提案に断る理由が考えられないのだが?」


 怒りに満ちた溜息が出る。


「お前の戯言に付き合っている暇はねぇーんだよ」


「そこにいるのなら俺が行って殺してやる。お前はこの塔から出れない。此処で死体になるんだからな!」


 その場から跳躍。同時に再び『闘争の刃』が紫の魔力光を纏い、刀身を伸ばしていく。

 ボスが隠れている場所に向けて大型剣を振り抜こうとした時だった、目の前の空間が突然歪み始める。

 以前にも見た光景に俺は特別警戒をしなかった。

 これから起きることに対して不安が無かったから。しかし、次の瞬間に目の前に広がった光景に驚愕する。

 大勢の奴隷少年らが現れ、波状攻撃を仕掛けてくる。

 狂気の笑みを浮かべ、耳に障る酷い声を出し、後方からはそれ以上の音が起きている。

 見えて、聞こえる全てに殺意が満ち満ちている。

 爆死の先には安らぎがある。その未来に一切の疑いを持っていない人間爆弾が一斉に爆発する。



 この量はヤバい―――

 振り抜こうとしていた『闘争の刃』を無理矢理戻す。

 だが、これで爆発を完全に防げるわけではない。

 負傷を覚悟したその時、視界の端から鋭い何かが伸び、戦闘の少年らの首が斬られる。

 意識が途切れたことにより、肉体の爆発までの遅れが起きる。

 その間に俺は完全に剣を戻し、完璧な防御で爆発を防ぐ。爆風を利用し、俺を助けてくれた相手の近くに着地。


「エル、助かった」


「遅くなってしまいました。あとは私が全て片付けます。あの汚らしい肉共を全て解体してやる」握っている魔具を握りしめ、振り抜く。


 それに少し遅れて俺も再び跳躍し、斬撃を放つ。

 阿吽の呼吸で放たれる斬撃で、少年らは数分もしない内に全てが肉塊となった。

 むせ返るような血臭の中、不連続で肉片が爆発していく。

 肉のサイズが小さいため、どれだけ爆発を繰り返しても俺達には全く影響無い。

 ただ、これ以上の時間が過ぎると奴が逃げる可能性が高い。

 先程から一言も喋らないのが証拠だ。

 部屋に壁が存在している所が少なく、瓦礫が散らばっている。その中でも一際山積みになっている場所と正反対の方向へ疾走。構えた剣の切先を突き刺す。

 この惨状では何も違和感が無い壁。

 偶然、そこだけが破壊されなかっただけの理由になってしまう場所だが、ボスが居るのはそこしかなかった。『闘争の刃』の切先に貫かれた奴が壁の中から引きずり出される。


「ググッ!!」歯を食いしばり、呻き声を堪える口から血が流れ出している。


「自慢の兵隊はこれで終わりか? なら、お前をこれから殺す。塔の外に出てこれ以上余計な事をされると迷惑なんだよ」


 大型剣をゆっくり上げていき、刃で身体を裂いていく。

 どうにかして身体から抜こうとするボスを、手首捻って刀身を傾け、そのまま俺の方へ滑らせる。近づいて来た顔を空いた手で掴むと同時に片目を潰す。

 凄まじい握力で顔を掴み続ける。

 突き刺した人差し指を中で激しく動かす。

 その度に激痛で絶叫する奴の姿を見て、俺は思わず笑み浮かべる。

 腕を動かし、周囲の状況を見せる。


「お前の部下は全員死んだ。どうだ、今の気分は?」


 どうにかして今の状況から逃げようとする相手を見て、俺の怒りは更に膨れ上がる。

 身体に突き刺していた『闘争の刃』を一気に引き抜き、顔を手放す。

 剣を捨て、自由になった両手がボスの傷口を掴む。

 同時に魔力で両腕の筋肉が膨れ上がり、剛力で相手の身体を引き裂いていく。

 生きたまま引き裂かれる激痛。

 絶叫で咽が切れ、斬られた内臓から出る血が食道に上がり口内から噴き出す。苦悶、絶望、怒り、様々な表情を作り、傷を広げていく。

 そして、俺の咆哮と共に身体が引き裂かれた。

 床に落ちた身体は勢い殺せず、そのまま転がっていく。足元近くに残っていたボスの頭。それに向かって足を落とす。

 潰れた頭は脳漿と血液で汚れ、衝撃で飛び出て転がってきた目がどこかを見ていた。

 静かに近づいて来たエルが周囲を見渡しながら言う。


「ラウル様、この建物の強度が限界を迎えています。早く逃げた方が良いです」


 少し離れた場所に転がっていた『闘争の刃』に向かって歩き出す。

 地鳴りの様な音がする中で拾い上げ、反対の腕に絡みついたエルを見る。


「エル、行くぞ」

 頷く顔を見て、俺達はそこから逃げた。




 崩壊する前の建物から脱出すると辺りの雰囲気が変わっていた。

 先程までの戦闘が周囲に伝わっていないとは思っていなかったが、この層の権力の象徴である建物が崩壊寸前。

 併せて、そこから出て来たのは俺達となれば、察しが悪くても何かが起き、その上で自分達にもチャンスが訪れたという可能性。

 変化が無い日常に突然現れた下剋上。狂乱の熱がこの層を沸騰させている。

 様々な人の声と破壊音。

 視界の中でも少なくとも幾つかの集団が殺し合いをしている。その中の数人が、俺とエルの姿を見て、目を逸らす。

 視線だけで分かる感情。

 ――お前達には一切手を出さない。その代わり、俺達の事は無視してくれ。


 島民らは、俺達が次の層へ移動することが分かっているようで、それを邪魔しない代わりに俺達の事も邪魔しないでくれと。

 それにしても都合が良い考えだ――


「エル、少し離れてくれ」


「ラウル様、私も同じ考えです。こんなゴミ以下、いや、存在していることすら許されない汚物は早急に処分しましょう」


「察しが良くて助かる」


 エルの腕が振られ、それに遅れて近くの集団の首がゆっくりと切り離され、地面に落ちていく。

 少し遅れて此処から離れた場所で爆風が起き、四肢が千切れ、内臓撒き散らしながら吹き飛ぶ数十名。

俺が放った『魔力刃』によって。

 その後、襲ってくる連中は全て殺した。

 生き残ったのは自分の力量が分かる者だけ。

 俺達がこの塔を攻略するまでの間、無慈悲な世界から解放され、安心に生活すればいい。

 だが、それは無理だと思う。

 弱い集団の中でも優劣はある。新しい序列が生まれるだけだから。

 エルがゲートを作り終えると同時にすぐ次の層へ向かった。

 移動の最中に思う。

 最悪な層だった――

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