『世界の情勢』
『バルベルト大陸』の中心であるサウリア地区に存在する人の手で作られた塔。
名は『青光の塔』。
巨大な『塔』を囲む様に小さな『塔』が幾つも存在し、大地から吸い上げられた魔力が特殊加工された配管を通り、小さな『塔』と繋がっている。
連結された透明の管から放たれる青い光により、月光に負けない明るさを保っている。
光に守られる様に周辺には街が形成され、人々が生活をしている。
守られた土地に住む人達は、『持タザル者』とは違って安全が確保されていた。
元々、他の『塔』に入ることが出来なかった者達が運良く辿り着いた楽園だった。
しかし、全てを受け入れられるという訳ではなかった。
この『塔』は、世界を元に戻すために活動している『救済の長剣』の本部となっている。
『塔』を攻略することで世界を元に戻す。
その行動目的に否定的な国だが、以前と違い力を失っていた。
権力者らは命と地位を脅かされるのを恐れ、財力を使い、確認出来ている中で唯一安全と思われる土地へ逃げた。
併せて、『救済の長剣』を支援する代わりに安全な生活を確保してくれと。
組織はこの条件を了承し、今に至る。
『青光の塔』内で、厳重なセキュリティで守られている部屋。
窓から外の景色を見ながら、男は過去に失った手の部分を触っている。
『救済の長剣』の最高責任者である彼は、当時の事を思い出していた。
あの女性――
長い銀髪。
鋭い視線を『塔』の入り口に向けて歩く。
深紅のレザーコートが風で揺れ、ヒールの高い黒のブーツが地面を叩く音が鳴り響く。
右手には獣と髑髏が絡みついた柄を持つ長剣。
一切の歪み無く伸びる銀色の武器。
それは、彼女の精神そのものに見えた――
彼女が言っていた『不可視の魔具』。
私は、それと契約が出来なかった。
当時の調査チームを再度編成し直し、『救済の長剣』という組織を作り上げた。
『不可視の魔具』と契約し、『魔具使い』となった事で犯罪や様々な悪行を繰り返す者達。それらは次第に集団を作り、行動を更に活発にしていく。
それらに対し、真逆な行動を取る者達も現れた。
自分達の力は正しいことに使うべきだと考え、犯罪組織と戦い始める。
その出来事を越す様に乱立する『塔』により、世界の混沌は加速し続けた。
私は、正しい行為を続ける『魔具使い』をサポートしつつ、この世界と『塔』について調べ続けた。
彼女が攻略した後、私が名付けた『母なる塔』は、しばらくして突如消えた。
完全に攻略出来なかったと言った彼女の言葉を無視する様に――
部屋の隅に気配を感じる。
またアイツか――
「アルベルト最高責任者。また昔を思い出しているんですか~?」
緊張感が無く、全く空気が読めていない声が部屋に響く。
耳元で話された様な感覚、若干の苛立ちを感じつつも応える。
「お前こそ、もう少し普通に入って来い。気配を消したフリをして入るな。部屋の物に触れるな。お前が出た後、盗聴器を処分する時間が無駄だ」
黒の制服を着て、黒のレザーコートを羽織っている。
青黒い長髪をオールバックにし、顔には複数の傷がある。鋭い視線がザバに突き刺さる。
「そんな~全部バレていたんですか? 全部廃棄するぐらいなら、一つぐらい残して誤情報を流すとか、したらいいのに~」
「その行為に対して組織に何のメリットがある? お前の遊びに付き合える程の暇が有ると思うか? それより報告が先だ、ラウルとエルに話はしたのか?」
ザバは、ボサボサの癖毛を大きく揺らしながら頭を掻く。
笑みを浮かべ、左右不均等の形をした眼鏡を指で上げ、端正な顔を歪める。
「あの二人もいいですが、ガリル島内での組織同士の動きが活発になってきてますね~ 何が原因なのか分かりませんが、今まで接触、干渉すらしていなかった組織が密会を行っています」
報告しろと言った内容と違うことを注意することよりも、ガリル島内の話の方を優先させる。
「あの辺の『塔』は攻略難易度が非常に高い……」
「完全な『塔』数も把握出来ていない状態だ。組織が万全の力で挑んでも、多くの犠牲を出すに違いない。簡単に行動は起こせない……」
ザバが会話を続ける。
「『闘争の真髄』『漆黒の三日月』『レグラムの書』『血の果実』四つの巨大組織に加えて、新興組織の『全ては魔具へ』の動きも活発になっていますから」
「島への進行は時期を見誤ると本当に危険ですね。互いが潰し合いをしてくれるとコッチは非常に~助かるんですけどね」
ザバの言う通り。
巨大組織同士が争いを続けることで、組織の維持が難しくなった時に『救済の長剣』が乗り込めば、ガリル島内の『塔』の攻略が進む。
「ザバ、『聖天翼教』の動きはどうなっている?」
「もちろん、有望なラウルとエルちゃんの行き先にいますよ」
「……そうか、面倒事が起きたらお前が責任を取るんだ、いいな」
「え~~ またですか? たまには違う奴にやらせてもいいんじゃないですか?」
「皆、お前みたいに自由じゃない。許可の対価を払え」
「分かりました~」
軽薄な声で答え、消えるようにして部屋から出ていった。
相変わらず無音だな――
ザバの周囲を一定の速度で回り続けている小さな檻。
あの『魔具』を使って移動しているのは分かるが、この部屋のセキュリティを強化する必要があるな――
奴のことはある程度理解はしているが、そこから奥に存在している願望、狂気は探っていない。知らないことで、その感情によって生み出される行動を利用出来る。
私が必要以上に探れば、その事実を逆手に利用するはず――
イレギュラーの存在を完全に無くしてしまった組織の行き先は消滅。
パターン化された行動しか取れなくなってしまえば、敵にそこを突かれてしまう――
部屋に通信が入る。
空間を人差し指で斬る。次の瞬間、音が鼓膜を揺らす。
「……分かった、すぐに向かう」




