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『愛の塔』 三層目『絶愛』のフォル

 ゲートを使って移動し、俺達は三層目に足を踏み入れた。

 視界に入ったのは灰色の空と戦火の匂い。

 非常に大きい三つの塔が存在し、その周囲には幾つもの尖塔が建っていた。

 崩れかけの物、未だに燃え続けている物もある。

 その根元には人間の形を失った死体が散乱している。併せて、それらの中で点在する様に転がっている魔物の死体。

 戦いが現在も続いているようだ。

 遠くから魔物の咆哮、人間の怒声、絶叫に続く破壊音。遅れて俺達の身体を叩く戦場の風。

 

「エル、此処に居続けると巻き込まれそうだ。移動しよう」


「はい」


 踵を返し、周囲を見渡す。

 この層は、何を目的にして戦争を続けているんだ――? 

 魔物と争っているという事は、土地を巡ってか? それとも違う理由か? 

 疑問を何個か上げてみる。

 それに対し、少しは納得出来る答えを用意しておいた方が、今後、何かが起きても対応がしや――

唐突に目の前が暗くなった。

 光が無い、完全な闇に飲み込まれた。


「エル!!」

 俺の叫び声は闇に飲まれた。




 闇が濃度を薄め、強い光で完全に消された。

 目を焼いてしまう強い陽光に俺は顔を背け、しばらくしてから目を開く。

 周囲を素早く確認、何が起ころうとしているのか把握しようとする。

『闘争の刃』を構えながら、視界の完全回復を待つ。

 辺りは夏の陽射しで照らされた草原が広がっている。

 その中心に座っていたのは、純白のドレスを着た少女。

 蜂蜜色の長い髪と大きな瞳。幼い顔が喜びに満ち溢れる。

 スッ、と立ち上がると、ドレスの腰の辺りには大きな白い花がある。伸びる歪な蔦は銀色に輝いている。

 蔦は前腕に絡みつき、この層に来るまでに見た尖塔と似た形をしていた。

 太腿近くまで長さのある黒いブーツにも銀色の蔦が絡みついている。


 その姿を見て俺は、少女は力を封印されているのかと思った。

 しかし、久しぶりに身体を動かせる喜びを隠せない、そんな動きをしている。

 となると―― あれは拘束具ではなく、武器か防具か。

『闘争の刃』の切先を向け、大型剣の刀身に魔力が帯びる。

 隣に立つ、エルも『魔具 無名1』を構えている。


 少女が腕を上げる。

 草原に対して平行になった腕、掌が下に向けられる。

 次の瞬間、魔力の塊が落とされた。生える様に現れるのは長い柄の武器。

 今までの層と同じく、使われている材質は竜の身体の一部だった。

 骨で出来た柄の先端、そこから伸びる刀身の根本には竜の顔がある。

 口を開き、両刃の剣を咥えている。俺が使うにしても大き過ぎる『魔具』を掴み、軽々と振りました。

 戦闘体勢のまま、相手の動きに警戒する。

 目を凝らし、刀身を見る。

 それは金属ではなかった。複数の竜の牙を重ね合わせたモノだった。

 連続する風切り音が、竜の叫び声に聞こえて来る。

 周囲に音が響き渡り、間隔が次第に狭くなる。

『魔具』にされるために命を使われた竜の叫び声が一つになった、その時、凄まじい轟音が空を破壊。

 暴風と共に空から現れた白い竜。

 両翼を大きき広げ、陽光に身体を照らされ、爪を見せつけながら草原に着地。

 少女を守る様に立つ竜の大きさは、一層と二層で戦った竜と同じぐらい。


 だが―― 少し雰囲気が違う。

 俺達に向ける視線。それは賢者の様に静かで、思慮深いものだった。

 若い竜ではないのか――?


「我と……この娘に死を」と低い声で言われる。


「さあ! わたしたちのあいをうけとめて!」武器を振り回し続けている少女が、楽しそうに叫ぶ。


 理解しづらい展開に、俺とエルは逆に動けなくなってしまった。


 何だ、コイツらは――?

 予測が出来ない事に対して耐性はある。

 だが、あまりにも対照的な存在が、違う主張をしていることだ。

 少女と竜が契約しているのは分かる、この『塔』で戦った竜達は好戦的だった。そして、死を望む竜を初めて見た。

 白い竜の方をチラチラと見て、早く合図を出して欲しいと小刻みに身体を動かしている。


 竜が口を開く。


「我に戦う力は無い……」


「この少女、フォルに全てを与えた。我が助ける前は虚無だった、心も魔力……」


「わずかな力で身体を保っていたフォルは、何に対しても反応せず、ただの器でしかなかった」


「我は……少女を救おうと思った」


「この世界を救う為に戦ったが、終わればその力が恐怖の対象になり、捨て、忘れようとした人間の身勝手さ。今更、その事に関して何も言うつもりはない」


「貴方達は力があるようだ。すまないが、私達を殺してくれないか。フォルに理性が残っている内に」

 

 竜の意外な言葉に、俺達は無言になる。

 離れた場所で、よく分からないダンスをしている少女を再び見る。

 理性が無い――? 

 決してそんな風に見えない。

 同じ気持ちなのか、エルも少し首を傾げた。


 低い声が再び響く。

「不思議だと思うが事実だ。以前の少女はここまで壊れていない」


「歳相応の天真爛漫さは殆ど無く、成熟した精神が全ての行動を支配していた。それ故に人々から崇められた。過度な期待は少女を壊していった……」


「ねえ!! いつまではなしをしてるの? おにいちゃん、おねぇちゃん、はやくたたかおう。くびとからだをきりはなしてあげるから」


 先程以上に滅茶苦茶なダンスをしている姿を見て驚愕する。

 あまりにも激しく動いているせいか、嫌な音が断続的に立っている。

 その音が何かから出ているのかが分かった瞬間、フォルという少女が普通ではないことが分かった。

 折れた骨が再生し、もう一度折れる。

 信じられない行為を繰り返している。俺達と戦えないことが相当ストレスになっているのか、ダンスは更に激しくなる。


「これ以上待たせても、フォルが可哀想だ。さあ、私達を殺してくれ」

 

 竜の表情を見て、背筋に嫌な汗を感じた。

 願いを口にした時とは違い、歪んだ笑みを浮かべていた。

 陽光に照らされ輝く鋭い牙はおそらくどれだけの狂気に触れていたのか分からない。

 ただ、ようやく願いを叶えられる存在と出会えたことに対する喜びが、正しさからかけ離れている。


「エル!」


「分かりました!」


 竜には戦う意思は無い。共闘でフォルを殺す。


「たたかっていいの? ほんとうに? それならいくよ!」

 ダンスが止まり、次の瞬間、その場から消えた。


 エルが吹き飛ばされる。

 俺は地面に対して平行に構えた『闘争の刃』の掛かる強烈な力に耐える。


「おそ~い。でも、おにいちゃんはすごい。よくわかったね」


 コイツ――

 一瞬で俺達の間合いを潰して、エルの腹部に蹴り。

 そのまま後方へ回転。

 着地と同時に跳躍、フェイントが十回入れ、撃ち落としを放った。

 この速度は最大なのか――? 

 それともこれ以上に上げられるのか?

 両腕に掛かっていた力が無くなる。

 目の前から唐突に消えたフォル。

 再び、距離を消す様に移動し、今度はエルに攻撃を放とうとしている。


 足元に『魔力陣』を作り、その魔力を利用して飛び出す。

 フォルに追いつくと同時に、無防備な首に蹴りを叩き込む。

 骨が折れる音と感触に続けて『魔力刃』を投擲。

 紫光の爆発が起き、地面が吹き上がる。その中に突撃するエルの影。

 剣戟音と共に飛び出してくる。

『魔具 無名1』の透明のナイフに距離感が掴めないのか、フォルが少し離れようとする。その動きに合わせて、エルが後方へ跳躍。

『魔具 無垢な祈り』を取り出し、トリガーを引く。

 小さな爆発音が重なり、ピンク色の魔力光の塊が出来上がる。

 その中に向かって俺は突進する。

 大剣の刀身に『魔力刃』を纏わせた状態の突撃の横薙ぎ。

 フォルが竜の牙を重ね合わせた刀身で受け止め、そのまま吹き飛ばされる。

 激突と同時に、相手の剣に絡みつかせていた『魔力刃』を爆発させる。

 エルの魔力光を吹き飛ばし、紫の魔力が更に地面を抉る。

 移動して来たエルが、俺の少し後方に着地。

 距離を保ちながら、四肢が滅茶苦茶に曲がり、内臓が零れた状態で突進して来るフォルの身体が一気に再生。


「あはははははははは、あたまをこわしてもすぐにもとにもどるよ! こんどはどこをねらうのかな? たのしいたのしい!! あはははははは!」


 今の状況を心の底から楽しんでいる声。

 少女の歓喜が響いている中、俺達は飛び出す。




 距離を無くし、フォルへ近づく。

 瞬時にコートの中に忍ばせておいた指輪を両手全てに付け、純白のドレスを掴む。

 指輪に魔力を一気に注ぎ、指が紫色の魔力光で輝く。

 そのままフォルを投げる。

 脳天から叩き落された少女の頭蓋と首が破壊され、強制的に肺から出された空気と血が口から噴き出す。

 手を離し、後方にいるエルが投擲した『闘争の刃』受け取り、突き刺す。

 背中から切先が飛び出し、そのまま斬り落とそうとした時、その手応えが軽く感じる。

 次の瞬間、地面に対して折りたたんでいた腕を一気に伸ばし、少女の肩口辺りから大型剣が抜き出る。

 逆さまの体勢で横回転から蹴りを放たれる。

 間一髪、右腕でフォルの蹴りを防ぐ。

 勢いを殺すために、今度は俺が横回転をしてその場から離れる。

 右手の指輪から魔力が腕に上り、防御力を高めていた。

 その光景に疑問を抱いていないフォルが、無邪気に突撃しようとしてきた瞬間、左手から取り外していた五つの指輪が爆発。


「うわっ!!」


 連続して爆発した指輪によって上半身の半分が吹き飛ぶ。

 衝撃によって身体のバランスを崩し、仰向けに倒れる。肉体の再生中に首を上げ、無邪気な笑顔を作りながら言う。


「すごい! おにいちゃん。こんなふうにたたかうひと、はじめてみた。もっとやろ! おねぇちゃんも…… あ、貴方達は……? あああああああああ!!」


「痛い! 痛い! 痛い!! どうして! どうして! 私は、皆の為に! ああああ! たたかい、たたかい、たのしい」


 フォルの口調が変わった瞬間、この層の雰囲気が変わった。

 死と絶望の景色が広がり、匂いも酷いものだった。今は、五感に感じたものが無くなった。


 あれが本来のフォルなのか――? 

 ――となると。

 俺は、白い竜を見る。

 先程まで静観していた竜が目を閉じていた。

 その姿を見て確信した。

 エルの方を見る。視線が合うと同時に魔具を構え、フォルに向かって疾駆。

 

「痛みが落ち着いた……また戦いが始まったの? この蔦が全身を包み、身体を切断するまで戦わないといけないの……?」


「えっ?」


『魔具 無名1』が腹部に刺さり、その衝撃で意識が引かれ、下げた視線が戻り、俺に気づく時には全てが遅かった。

『闘争の刃』がフォルの首を切断した。

 宙に浮いた頭部が草原に落ち、転がっていく。その先は竜の足元。

 俺達の位置からでは、フォルの顔がどちらを向いているかは分からない。

 ゆっくりと竜が首を下げ、頭を草原に沈めた。

 その姿を見て思った。竜は少女に謝罪していると――

 自身の選択が更なる不幸を招き、壊れ、命が消える瞬間に、竜のエゴによって生かしてしまったこと。

愚かな自分を許して欲しいと。

 言葉を聞いているわけではないが、俺はそう思うことにした。

 そう考えないとフォルに救いが無い。


「ラウル様……」

 俺の手を握りながら言う。


「あの少女が苦しみから解き放たれたのなら……それでいい。あのまま生き続けるのは苦しすぎる」


「そうですね……私もそう思います」


 フォルの命が消え、同時に竜の命も消えた。

 二つの亡骸を中心にして世界の様相が変わる。

 死と破壊に満ちた世界。

 これが本来の姿であり、フォルが命を懸けて守った世界の最後だった。



 その後、二人で『魔法陣』を探すが見当たらなかった。

 これ以上探す場所は無いまで調べ上げた後、三層まで作ったゲートで一層の入り口まで戻る。

『塔』を攻略出来ないと二人で判断し、外へ出る。

 入口付近で立っていた全裸の女性の足元に、ネシス、テルヌス、フォルの『魔具』が有った。しばらくすると、その三つが溶解し始め、続いて女性も溶けていく。

 全てが溶け、地面に吸収された。

 その跡から浮かび上がる様にして現れた『魔法陣』。

 エルが近づき、屈み、手で触れる。流れ込む魔力に反応し、黄金色の光を放つ。二つの色が混ざり合いながら回転を続け、一度、ピンク色の光のみで輝く。再び黄金色に戻ると、時計回りの『魔法陣』が逆回転を始める。

 振り返ると、『愛の塔』が地面に飲み込まれていく。

『塔』が完全に消えるのを確認してから俺達はその場から離れた。




 少し先を歩くラウル様の背中を見ながら、私は考える。

『愛の塔』で竜と戦ったのは全てラウル様だ。

 私は契約者と戦った。三層のフォルは少し違ったが、共闘という形なので私が関わっていない事にはならない。

『塔』の名前通り、全ての『魔具使い』が愛に関わっていた。

 そして、あの『塔』を見つけることが、偶然と片づけられなくなった私がいる。

 ラウル様に向ける愛を考え直せと言われているように感じる――

 普段の私なら、そんな事は一切気にしない。

 私にはラウル様しかいない。

 唯一の存在を全身全霊で愛することに遠慮はいらない。

 ラウル様の気持ちも分かっている。


 なのに――

 命を犠牲にすることだけは間違っている、そんな風に思ってしまう。

 複雑な気持ちだ。

 気持ちを重ね、身体を重ね、『塔』が全て無くなった後の正常な世界で暮らす私達。

 その未来には命が欠けたら存在しない。

 しかし、ラウル様が望んでいる世界を取り戻すために、私の命が必要になれば、喜んで差し出す。

 ――でも。 

 不思議なことに、その先の未来が想像出来ない。

 ただの闇しか感じない。

 止めよう。

 多分、テルヌスの影響がまだ残っているに違いない。

 私は私。しっかりしろ――

 歩を速め、ラウル様の隣を歩く。

 左手を大きな手で包まれた。その手はとても心地良く、温かい。

 嬉しい。

 もっと、もっとラウル様に触れていたい。愛しています、ラウル様――

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