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『愛の塔』 一層目『狂愛』のネシス後編

 眼帯を付け、ウェーブがかかった黒銀の長髪と褐色の肌。

 細められた目に存在する金色の瞳。

 ノースリーブの黒のロングドレスは至る所がほつれていて、美しさを失いつつあった。

 こちらを見ていた女の顔が一度下がる。しばらくして、ゆっくりと顔が上がってくる。


 俺とエルは魔具を構える。

 再び視線が合う。

 相手は動かない。何故、動かない? 

 ――凄まじい殺気だ。向かって来る相手なら、どんな存在でも戦う雰囲気だ。

 圧倒的な殺意が俺達を圧し潰して来る。


「誰だ……? 私を殺しに来たのか?」

 相当に咽を痛めた声で女が話す。


 続けて何かを言おうとしていたが、上手く声が出せないのか諦めていた。


 彼女の問いに、俺は答える。


「お前が、この層の支配者か?」

 

「……それを聞いてどうする? 私を殺すのか? それとも殺されたいのか?」

 彼女の影が一瞬ゆらりと動く。


 ――陽射しの加減か?

 視線の先の敵に対し、再び意識を向ける。


「ああ、お前がこの層の支配者である以上、殺して先に進む」


「『魔具使い』か……」


 言葉が終わると同時に、影が大きく階段へ伸びる。

 黒い液体が吹き上がり、何かが飛び出す。

 青空に存在するシルエットで、俺とエルは何が現れたのかが分かった。

 小さな黒竜。

 両翼を広げ、俺達に向けて咆哮。同時に強烈な魔力波が全身を叩く。


 竜を召喚しやがった――

 大きさからして歳をそれほど重ねていない。

 しかし、竜の力を知らない存在はこの世界にいない。

 以前、俺達は戦ったことがある。

 その時は二人掛かりで相当な時間を費やして倒した。

 今回は、竜以外の存在もいる。

 出現の仕方からして彼女が契約者で、何かしらの竜の加護を受けているはず。

 その力が何なのか分からない今は、攻撃力の高い俺が竜を殺すのがベストだ。

 隣に立つエルの方を見ると、俺の考えを読み取り、軽く頷く。それと同時に俺達は飛び出す。


 再び竜の咆哮。

 着地点の階段を利用し、俺は跳躍する。

 既に『闘争の刃』には魔力が注がれており、『魔力刃』を纏っている。紫色の魔力光を放つ一撃を竜に向けて落とす。

 両翼を盾にして受け止める。

 お互いの視線が合うと同時に、竜の口が開く。

 空間に黒字で銀色の光を放つ『魔力陣』が現れる。回転と同時に中心に魔力が集中。

 次の瞬間、黒色と銀色が混ざった『魔力砲』が放たれた。


 大剣を素早く戻し、魔力を注ぐ。

『魔力砲』と『闘争の刃』の魔力がぶつかり合い、周囲を一気に明るくする。

 続くように、その衝撃が歪な神殿を大きく揺らす。

 攻撃が相殺され、神殿の柱を足場に再び攻撃を仕掛ける。

 竜が、俺の斬撃を避け、前足の爪で斬り裂こうとする。

 素早く足元に『魔力陣』を作り、その場から離れる。

 俺を追って来る竜を一瞥し、エルとあの女が居る場所から距離を作る。

 



 座っていた女が立ち上がる。

 その動きは緩慢で、全てを諦めている様な雰囲気があるとエルは思った。

 気怠さと絶望が伝わってくる。


「いいのか……? 離れて行ってしまっても」


「お前には関係無い。早く私に殺されろ。それが一番必要な事だ」


「ふふっ、素直な答えで気持ちが良すぎる」


「お前みたい『魔具使い』に会ったのは初めてだ」


「遠い昔、此処に来た奴等は竜を見て逃げ出し、竜を殺そうとして失敗して、竜が駄目なら私をと考えて殺され、誰も次の層には行けなかった……」


「その度に私は、自分を憎んだ。憎み過ぎて、叫び過ぎたことすら忘れて更に叫んだ」


「それで咽を痛めたわけ? くだらない」


「死にたいのなら首でも斬ればいい。それが出来ないお前は、今の状況を楽しんでいるだけだ。悲劇の存在として」


「分かっているじゃないか……」


「なら、お前達で私を殺してくれ。自殺は嫌なんでな。お前の魔具で心臓を止めてくれ」

 先程まで漂っていた気怠さと絶望が、殺意に変化していく。


「私と踊れ。あと、さっさと死ね」


「ははっ、私は『狂愛』のネシス。お前の名は?」


「……エル」


「エル、私を殺してみろ!」


 左手に小さな『魔力陣』が現れる。

 それは先程、黒竜が作り出した『魔力陣』と同じモノだった。

 階段に光が落ち、その場に丸く切り抜いた穴が出来た。

 小さな暗黒から銀色の光が雷の様に放たれる。竜族の骨と鱗で作られた剣が引き上げられ、ネシスが柄を掴む。

 その場で一振り。

 竜の牙で作られた刀身から咆哮が放たれる。

 同時に柄から伸びて来る骨と鱗が鎧を形成していく。

 左腕から左胸まで覆った鎧。ネシスの魔力が全身から噴き上がり、大気が揺れる。


 相手の動きに合わせて呼吸を変え、『魔具 無名1』を再度構える。

 透明のナイフの切先を敵に合わせた瞬間、腕に凄まじい衝撃が加わる。

 衝撃を逃すために両膝を曲げる。

 視線の先に両目を限界まで見開いたネシスが、荒い呼吸を繰り返しながら私を見下ろしている。


 チッ―― このクソ女。いきなり全開で来やがった!


 このまま身体を切断する勢いで剣を沈めてくる。

 腕に力を入れて剣を弾き返す。そのまま横移動し、体勢を整える。

 黒の厚底パンプスが階段を蹴る。

 空中で撃ち落とし体勢だったネシスの攻撃を再度返し、『魔具 無名1』で突きを放つ。

 素早く上半身を捻り、鎧でナイフの切先を受け止めたネシスに向けて、『束縛の箱』から伸びて来ていた腕が握っていた『魔具 無垢な祈り』を掴む。

 黄金色で逆十字の銃器。

 顔が無いシスターがトリガー部に向かって祈りを捧げている。

 魔力が注がれたことで顔が浮かび上がる。トリガーが乱暴に引かれ、銃口からピンク色の魔力を纏った銃弾が飛び出す。

 空に出来た魔力光の塊。

 斬撃で斬り裂かれた次の瞬間。


「ヴぅうううううがぁぁああ!!」

 人間と竜の咆哮が混ざった声。ネシスの絶叫が響く。


 ネシスの左腕の鎧から竜の魔力が噴き出し、それを推進力にして急降下してくる。

 その場から素早く移動。

 柱を遮蔽物にして、再び狙撃。

 相手が射線から外れようとするのに合わせて、私も移動を繰り返す。

 お互いが、この場所に在る物を利用し、優位に戦闘を進めようとする。その点では優位なのは奴の方だ。

 だからこそ―― 

 私の作戦は成功する。




 周囲は、私達の攻撃で破壊しつくされている。

 所々でピンク色の魔力光が立ち上り、その中に塵や残骸が浮遊している。その中で、私とネシスが再び激突。

『魔具 無名1』を両手持ちに変える。

 ネシスの竜の剣が、身体の前で急停止。

 手放していた逆十字の銃器を『束縛の箱』の腕が掴む。

 魔力を両腕に注ぎ、一気に力を上げる。

 竜の剣が身体に戻され、ネシスが苦悶の表情を浮かべながら腕に魔力を注ぐ。

 そのタイミングよりも早く、私は更に腕に力を注ぐ。

 再び押し込まれたことで、この場から逃げようとする。

 奴の動きを見て、透明のナイフに対して慣れていないことが分かる。併せて、戦闘経験が浅い。

 推測だけど、竜との契約で得た力で、周囲と比べて突出した存在になる。

 稚拙な行為、安易な判断、相手の行動を先読みする、それらが劣っていても、圧倒的な力でカバー出来る。


 今まで戦った奴ら――

 思い出すだけでも苛立ちで反吐が出そうなるが、アイツらなら、私の作戦をここまで気づかないことは無い。


 両腕の力を緩める。

 少し遅れてネシスが一瞬体勢を崩す。

 そこへ向けて蹴りを放つ。

 鳩尾に深く突き刺さり、身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。

 着地点は予測済み。

 後ろから伸びて来た腕から受け取り、黄金色の逆十字の銃器を連射。瓦礫と埃が巻き上がり、その中からネシスの怒りの声が響く。


 お前は本当に馬鹿だな――

 それは癖なのか? それとも力がある私なら何が起きて問題無いとで思っているのか――?

 ――位置が丸分かりだ。


 両足に魔力を注ぎ、その場から一気に加速。

 構えた『魔具 無名1』の切先が鋭く斬り裂き、ネシスの胸に突き刺さる。

 確実に心臓を貫いていた。


「がはぁっ」

 驚愕な表情から痛みを堪える顔に変わり、咳き込み始める。


「お前、私を殺してみろと言ったわりには何だその表情は?」


「本気の言葉なら、そこは満足した、ようやく死ねことが出来る、といった安心した表情を浮かべるはずじゃないのか?」


 透明な刀身を伝って血が流れる。更に深く突き刺さす。

 ネシスの苦悶の声。

 しかし、私にはそれが本当なモノには感じられない――

 次の瞬間、私の腹部に竜の剣の切先が突き刺さる。

 嫌な予感で、ギリギリのところで身体を反らし、後ろへ跳躍。

 離れた所で、余裕の笑みを浮かべ、私を見つめるネシス。その表情は、お前の負けだと言っているようだった。


 その表情に苛立つ。

 このクソ女――

 回復と同時にその場から飛び出す。

 一気に距離を潰し、連撃を放つ。上下左右、フェイントを加えて放つ。

 斬り裂かれるネシスの身体。

飛び散る血が神殿を赤く染めていく。

 

「チッ!!」


 ネシスの舌打ちと同時に、心臓部に透明のナイフを突き刺す。

『魔具 無名1』がピンク色の

 魔力光で輝き、そのまま心臓まで一気に突き刺す。

 ? 感触が――

 ネシスの回し蹴りで吹き飛ばされる。


「ぐっ!!」


 転がりながら勢いを殺し、素早く立ち上がる。

 ナイフの切先を向け、反対の手には逆十字の銃器を構える。

 突然、その二人の間に何かが落下し、衝撃で周辺の柱が倒れる。

 落下して来た存在によって削られた階段片が舞い上がり、重力に掴まれてそれらが落下してくる。

 埃と破片で視界が急激に悪くなる。

 それに対しての不安は無い。

 誰が来たのかは分かっている。ラウル様だ――


 ネシスは一歩も動いていない。

 あのクソ女が動いたら、私も動く――


 風が埃を流し、二つの存在が見えてくる。

 黒竜の両翼を斬り裂き、胴体を大型剣の『闘争の刃』が貫いていた。

 竜の顔を踏みつけているラウル様は全く息を乱していなかった。


 頬に付いた血を右手の甲で拭い、「エル、大丈夫か?」


 常に聞いていたい低めの声。鼓膜を甘く刺激され、全身が震えてしまう。

 

「はい、大丈夫です」


 突然、絶叫が響く。

 ネシスが腹部を押さえながらその場にしゃがみ込んでいる。

 その口からは先程違い、怨嗟の声が出ている。

 内容は私達を呪う言葉だった。

 クソ女の状態を見ていて、私は分かった。


 戦っている最中に時折感じた奇妙な魔力の流れ。

 それを隠蔽するような魔力。

 これが奴の戦い方と処理したが、ラウル様が黒竜を弱らせたことで確信が持てた。

 心臓を突いても、必殺にならなかった理由。

 クソ女の心臓は子宮部にある。同化した部分を再度狙う。

 両足に力を込め、飛び出す。

 距離を潰されたことに驚愕し、私とネシスの視線が絡み合う。

 瞬間的に私の考えを予測したのか、次の攻撃は回避出来ない。

 そして、回避出来るだけの余裕も無い。技術も無い。焦りから恐怖に変わっていく。

 短い経験から導き出されただろう攻撃予測。

 ただ、その予測は必ずしてくると思った。だからこそ、ストレートに子宮へナイフを突き刺した。


 ネシスの剣は、私が心臓を狙っていたら確実に攻撃を受ける場所にあった。

 奴の予想は、私が心臓を最初に狙う。それは子宮を守る行動を引き出すため。

 それが分かっていれば、傷への対応は問題無い。

 更にそれを利用すれば、私に致命傷を与えることが出来る。

 でも、それは無駄に終わった。

『魔具 無名1』から感じる竜の加護とネシスの命。 

 心臓の鼓動の様な魔力の動きが次第に弱くなり、止まる。身体から力が抜け、そのまま倒れた。私は、 奴の身体を受け止め、その場にゆっくりと下す。

 振り向くと、ラウル様が押さえていた黒竜は塵となって消えていった。


 ラウル様が近づいて来る。

 顔を覗かれ、そのまま身体を確認するように見た後、「怪我は無いみたいだ。良かった」


 私の心は全く大丈夫ではなかった。嬉しすぎて倒れそうになる。


「ラウル様……ありがとうございます」

 震えた声でようやく答えられた。




 次の層に向かうためのゲートを作り始める。

 出来上がったゲートに二人で入り、二層目に移動し始める。

 その時だった、私の手元に一冊の本が現れた。

 装丁が動物の皮で作られた古い本だった。不思議と疑問も抱かず開いてしまう。

 真ん中以外では開くことが出来ない奇妙な本。

 書かれていたのは、二人の姉妹の話。

 世界は絶望に満ちていて、それらを救ったのは竜だった。

 しかし、その事が原因で世界の崩壊が始まる。

 二度と戻らない世界。

 選択への後悔が『狂愛』に変わった。

 最後の部分に描かれていた姉妹の絵。姉と思われる顔が、先程戦ったネシスに似ていた。

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