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プロローグ

 世界がある時期を境に変化。

 異形の『塔』が無数に地面から突き出し、同時に世界の様相も変化していく。

 乱立する不気味な形をした『塔』。

 グロテスクな物もあれば、とある宗教建築の様な物もある。世界が混乱する中、空が次第に暗闇に覆われていき、光は『青い月』のみになった。

 そこからは酷い有様だった。

 不安と恐怖で秩序は乱れ、数年後には新しいルールが生まれた。力無き者は生きられない。シンプルだが人々から優しさを奪った。

 全ての原因である『塔』の調査が始まる。

 遅すぎる国の行動にも批判はあったが、一定の期待もあった。

 調査チーム内で入れる者と入れない者が出る。『魔力』が影響しているのかと調査したが、原因は特定出来ない。

 現場で判断するしかない状況により、少数で『塔』を調査することになった。


 数日後、美しい顔を四つ横に並べた裸の女兵士が現れた。

とても女性とは思えないほどの筋骨隆々の身体。太い腕が握っていたのは、女兵士と同じ彫刻がされた丸太。それに身体を反る形で巻きつけられている調査員。

 腹を裂かれたことで内臓が零れ落ち、四肢の皮、筋肉、骨は酷く破壊され、腐敗も始まっていた。

思わず目を逸らしたくなる光景。調査リーダーは部下の顔を見る。目を逸らしそうになるのを必死に堪えていた。

 両目は抉られ、小さな闇があった。その下の鼻も削ぎ落されており、三角の闇があった。三つの闇からは、先程の複数の顔を持つ女が、小人となってこちらを見ていた。捕食者の雰囲気が伝わって来る。


 全員がその場で吐いた。

 状況に理解が追い付かない。

この『塔』の中にはこんな化け物が住んでいるのか、という恐怖が一気に周囲へ伝播し、一人が逃げ出すと後はあっという間だった。

 俺だって逃げたい。

 だが、既に死んでいると分かっていても、部下の遺体だけは取り戻したい。

 その気持ちだけで一歩前に踏み出す。その時、周囲の空気が変化した。握っている『魔力』を動力源とする拳銃が爆発。

 右手が吹き飛ぶ。激痛でその場にしゃがみ込んだ。痛みで口から出そうになる声を必死で堪える。


「リーダー…… 駄目です。俺達は滅ぶしかないです」掠れた声で話す部下の咽が切られていた。

 俺の横に立っていた男が倒れる。

 視線を上げると不機嫌な表情を四つ見せる女が丸太を蹴り飛ばす。

舌打ちをし、踵を返す化け物の女は、顔を揺らしながら『塔』の中へ戻っていった。


 俺は自分の無力さに叫ぶ。

 スッと、誰かが横を通り抜ける。

 顔を上げると、知らない長身の女性が歩いていた。

 風で舞い上がる長い銀髪。鋭い視線が『塔』の入り口に向けられている。深紅のレザーコートとヒールの高い黒のブーツ。右手には獣の髑髏が絡みついた柄を持つ長剣。

 一切の歪み無く伸びる銀色の武器。それはまるで彼女を自身に見えた。


「ワタシが中に入る。お前は傷を治療していろ」

言い終わると同時に長い脚で入口に向かっていく。足を踏み入れた瞬間、先程の化け物が襲い掛かってきた。


 空気が斬り裂かれる音。その表現が正しいのか分からないが、音の後に化け物が細かく斬られて俺の方へ飛んできた。青黒い血と肉片が降りかかる。

 あの一瞬で、長剣を振り回して化け物を斬り刻んだ――? 


 信じられない状況に呆然としていると、彼女は何も言わずに『塔』の中へ。

 俺は右手の事を忘れるぐらいに、その背中を見ていた。


 強力な鎮痛剤のお陰で右手の痛みは忘れることが出来た。

 だが、冷静でいることが出来る事で色々と考えてしまう。

 彼女のことを考えても答えが見つからないので止めたが、『塔』の事に関して考えても、妙案は出てこない。たかだか調査チームのリーダーに何が決められると言われてしまえば、そこまでだが――


 でも、これだけは力強く言える。この経験は決して無駄にはならない。

 彼女が無事に『塔』から出て来るのが前提だが―― 



 あれから数日経った。『塔』の入り口を見続けているが変化は無い。

 今日も、この不安を抑える作業をしなくてはいけないのか―― 

 希望の内容を作るのにも、心に材料が足りなくなってきている。

 狂ってしまった方が楽なのでは――? 急いで頭を振って不安を取り払う。


 暗闇を削る『青い月』の光。

 世界がまた変化したのか、所々で『魔力』に似たエネルギーが放出し、発火。青い炎が残った闇を削り始めている。


 遠くからこちらに向かって来る足音。

 力強く、ヒールが塔内を叩く音に俺の期待は一気に膨らんだ。

 現れた彼女は以前と同じ姿だった。鋭い視線で周囲を見渡し、俺を見つけると近づいて来る。

 

 言いたい事は沢山あった。しかし、言葉が出てこない。呼吸を乱しているだけ。

 そんな俺に微笑む彼女。

「この『塔』は攻略した。私は少し休んでから次の『塔』を攻略しに行く」


「もう、行くのか! 『塔』の中は一体どうなっているんだ?」叫ぶように問い掛ける。

 彼女がゆっくりと話を始めた。



 彼女は去った。名前を聞いたが教える必要が無いと断れた。

『塔』内は五層で形成されていて、各層にこの世界が変わる前の様な世界が広がっている。

 ただ、様々な存在が居るため安全性は低い。

 層を下がるにつれて、外の世界の影響を受けているのか、環境が劣悪になる。生きていく為に身体を変化させなければならない者と戦闘が増える。

 最下層。

 この空間には『塔』と世界を繋げる為の『巨大な魔法陣』がある。

 これは常に光を放ちながら時計回りに回転し、この回転を逆にすることで世界から『塔』を消すことが出来る。

 彼女にはそこまでの技術が無かったようで、『塔』を戻すことは出来なかった。


 離れていく彼女の背が見えなくなり、俺はゆっくりと立ち上がる。振り返り、おそらく人が初めて攻略した『塔』に名前を付けた。

『母なる塔』と。


 彼女が最後に言っていた言葉。

「これから『不可視の魔具』と契約し、異能に目覚める者達が増える。そいつ等も『塔』を攻略していくだろう」


 俺は―― 契約出来るのならしよう。

 この命は、彼女から助けてもらったものだ。何か手助けをしたい。

 その願いが叶わないのなら、違う形でサポートする。

 この出来事を国に報告しなければならない。

 その後、何をするかは決まっている。新たな目標に向かって行動するのみ。魔具と契約し、異能者となった者達が活動しやすい体制を作る。

 それには高い地位が必要だ。少し考えただけで足りないモノが出て来る。


 彼女を―― 彼女と――

 俺は―― 彼女と共に戦いたい。


『塔』を見上げ、ゆっくりと振り返る。歩き出すが、立ち止まってしまう。素早く振り返り、再び踵を返し、走り出した。



 この出来事から三年後。

『塔』は新たに増え、停止した『塔』を越えた。

 総数は変わらず、更に三年が過ぎる。

 彼女が六年前に言っていた出来事が起きる『不可視の魔具』との契約者。

 異能に目覚めた者達が『塔』を攻略するが、それ以外にも様々な問題が起きていた。

『塔』に入り生活をしている人達『持テル者』。

「塔」に入れずに外で生活している『持タザル者』。

 この新たなカーストにより、世界の混沌さは進んでいた。

 


『魔具使い』ラウル。行動を共にする『魔具使い』エル。

 彼は、二人に期待していた。有望な戦士として。


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