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8 私にやれること

 私は決意した。ジーノ君を何とか止めなくては。ジーノ君がどう頑張って、他所の人が「これは提言した方がいい」と思って我が家に来てくれても、あの父が「そうだね」と受け入れなくては彼自身が評判を落とし続けるだけ。


 これではいよいよジーノ君の家が、いや、ジーノ君が取り返しのつかないことになってしまう。これ以上、ジーノ君が私との婚約解消のために汚辱まみれになることを見逃す訳にはいかない。


「どこだー! ジーノくーん!」


 私は学校が終わるとジーノ君を探して走り、その奇行を止めようとした。


しかし。


「ジーノ君! やめなよそんなこと!」

「あの子かわいそうに……」

「!」


 私が彼を止めようとすればするほど、周りはどんどん私を哀れみ、ますますジーノ君を蔑んだ。私が破り捨てたあのジーノ君の台本のような状態になっていることに気が付いても、ほかにどうしたらいいか分からない。放っておいたって、彼はなまじ頭がいいため、一人でも己をどうしたら最低にプロデュースできるかを考えて実行してしまうだろう。


 逆効果だとはわかっていても、どうにかできないかと彼を止め続けて二週間。私はついにキレた。


 決定的な何かがあったわけではないが、悪い方へとしかいかない現状に我慢がならなくなった。あと意外と彼に協力する友達がいるのにも腹が立った。協力するよりも止めてくれないだろうか。


「もうやってられない!」


 高台に上り、街に向かって叫ぶ。もうたくさんだった。勝手なジーノ君も、彼のパフォーマンスに簡単にだまされる街の皆も、そして、何も動かない父も。


「……私だって、やってやるんだからー!」


 私の声に驚き、近くの木にとまっていた鳥が飛び立つ。


(決めた!)


 頭の中はいつになく冴えていた。学校の成績はいつも中の上で、人から微妙に頭がいいと評される私だ。このアイデアも、そう悪いものではないだろう。


 気持ちに押され、ダッシュで家に帰った。父は既に帰宅していた。


「お父さん」

「どうしたアニエス」


 読んでいた新聞を下ろし、父は私を見た。ズンズンと部屋を突き進み、父の机の前に立つ。


「お父さん」


 もう一度呼ぶ。そして意を決して口を開いた。


「見分を広めに、旅行に行ってきます」


 一瞬ポカンとした後、父は「どこへ?」と珍しく戸惑った様子で尋ねた。


「方々へ」

「方々」

「ひとりで」

「ひとり」


 確固たる意志を全面に押し出し、反対しようものなら押し切ってでも出かけてやるぞという気迫を見せ、私は問いに答えた。想いが伝わったのか、父は最終的に「気を付けて」と許可をくれた。


「ありがとうございます。旅費はお小遣いから出すので」

「わ、分かった」


 私は力強く父に頷き、ビシッと身を返して部屋を出た。スタスタと早急に自分の部屋へ行き、素早くドアを閉める。そして。


「いょっっし!!!」


 力を込めて、両手で拳を握る。見ていなさい、ジーノ君、お父さん、そしてジーノ君の家。


ここからは、私の番だ。




 次の日、早速学校に長期休みの届をした。出席日数が足りないと落第だと言われたので、その場で何日休めるかを先生たちと一緒に数えた。結果、ひと月の休みを申請することになり、私は間違いなく一月後に復帰することを約束した。


 校長のサインの入った書類を上着の胸ポケットに大事にしまうと、私は用意していた自分の馬車へと乗り込んだ。これまで殆ど仕事の無かった私の専用の御者に「行きましょう」と声をかける。


「アニエスさん、本当にひとりで行くんですか?」

「そうよ」

「せめて、ジーノさんくらい」

「お父さんに、ひとりだと言ってしまったもの」


 それに、私だって構わずやってやるんだと決めたのだ。御者はしぶしぶ顔で「分かりましたよ」と言って馬に手綱で出発の合図をした。


「ジーノさんとこに行くのに……アニエスさんひとりかあ……」


 御者が何か言っているが、知らぬ顔で聞き流す。私が向かうのは、そう。ジーノ君の家の領地、ウィルヴィニー領。王領マリオートからは馬車で片道2日。ある壮大な計画を胸に抱き、馬車の窓を流れる景色を静かに眺めた。




「おかしい。アニエスから返事がない」


 ジーノは街の高台のベンチに座って呟いた。周りに人はいない。ジーノは伝書鳩のグラヴィンシュタッドが自分の括りつけた手紙をそのまま持ち帰ってきたことに並々ならぬ不安を抱いた。


 これまでアニエスから返事がなかったことなど一度も無かったのである。たとえそれが「はい」「いいえ」だけであっても。


 ジーノの頭にふと考えが過る。


「……き、嫌われた?」


 絶望的な考えが脳を掠め、ジーノは顔を青くする。正直、嫌われても仕方のない理由はいくつもある。それを生み出しているのは他でもない自分だが、あのアニエスが突然無視してくるとは俄かに信じがたかった。呆れながらも、何かしらの反応をしてくれるのがジーノの知るアニエスである。


「な、何かあったとか」


 アニエスが返事も書けないような、何かが。


 ジーノは焦りに駆られて立ち上がった。嫌われたかもしれないという恐怖よりも、アニエスに何かあったことの方がよほど恐ろしかった。


グラヴィンシュタッドが「行け」と言うように「くるっぽー」と鳴く。


「アニエス!」


 走り出し、高台を駆け下りる。目指すはアニエスの家。訪ねるのは、実にいつぶりだっただろうか。ジーノは一目散にマリオート一の豪邸を目指した。

お読みいただきありがとうございました!

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