みんなのせいだ
「…と、これが話の全貌だよ。」 白衣の男は、先程までの話を終え机の上のカップに入ったコーヒーを一口啜る。
まだ16時半だというのにもう空の焼ける色が窓に差し込む。この部屋には、白衣の男とその友人が向かいあっている。男は生意気にも、さも大演説をするが如く部屋をゆっくり歩き回っている。
「あなた趣味が悪いですよ。誰が好き好んで街中の人間を殺しまくった機械の話なんてするんです。あなたぐらいですよ、そんなの。」「今に始まったことじゃないだろう?」友人は縦肘を突き、呆れ顔で男を睨む。向けられた嫌悪をそっちのけにして、男は語り出す。
「さて、いきなり本題に入ろうか。“誰が楽園を殺した”んだと思う?」
「は?」
「いやさ、ロボットは楽園を作ろうとしたんだよね?それがなんであの惨状を引き起こしてしまったかって話。」
「…話が見えませんね。」
「じゃあ私の考えを言おう。」男はようやく偉そうな闊歩を辞めて、椅子に腰掛けた。物腰柔らかに、緩やかに、彼らの夕暮れにヒビが入る。
「ここでの楽園はロボットの事だとしよう。その楽園の使者は、なぜただの人殺しになり下がったか?ロボットには“心がある”と最初に言われているね。ロボットは何か行いをする度に必ず否定された。その度に彼の心は傷ついた。傷は回数を重ねるごとに深さを増して、遂に彼を狂気にしてしまった。つまり。」
「彼の心が壊れたから、楽園は殺された。楽園を殺したのは、ロボットを否定した“みんな”ですか…?」なるほど物語の通りの意見だ。
「なら私も一つ、言わせていただきますが」コーヒーカップの取手をなんとなくなぞってみる。友人は世迷い言に魅入られてしまう。
「人々の幸せな暮らしはわけもわからず壊されたんです。ロボットは人々の間に勝手に茶々を入れて、勝手に悲しくなって、勝手に怒って、勝手に人を殺しただけです。なんならロボットは“楽園”の実態を知らなすぎたんですよ。」