7. 202x年シーズン最終節(7)
君は「ドーハの悲劇」を見たか。
悲劇はガビアータにも降りかかる。
アディショナルタイムも1分20秒が過ぎた。
カルバロスは、少なくとも残り1分半で2点を取らない限りプレーオフに進むことは出来ないが、このままでは終われないという意地からか、捨て身の猛攻をかけてきた。
中盤から絶え間なくゴール前に放り込まれるロングボールをディフェンス陣は体を張って跳ね返した。
そして跳ね返したボールはカルバロスボールになり、またロングボールを放り込まれるというループを繰り返す。
しかし、ロングボールでゴール前に蹴ってきたボールを関口が頭で防いでゴールラインを割った時、アディショナルタイムの3分が過ぎた。
まだ笛はならない。
しかしながら逆転の可能性はほとんどなく、ほぼカルバロスの自動降格は決まった。
おそらくラストプレーと思われるコーナーキックをカルバロスの甘粕が蹴った。右足で蹴ったボールは少し右に巻きながら背の高い高坂めがけて放たれたが、残念ながら高坂の頭には合わなかった。
プレーにかかわった全員がそのボールの行方を見ていた。
誰もが動けなかった。
ボールは、さらに鋭く巻いて、ファーサイドのポストの奥の角に当たり、広角に跳ね返ってそのままゴールネットを揺らした。
ゴール認定の笛の直後、主審は試合終了の笛を吹いた。
スコアは、3対3のドロー。
ガビアータの選手は残留を勝ち取ることができず、全員がピッチに座り込んだが、尹がすっかり上手くなった日本語で怒鳴った。
「まだ、札幌の結果があるデショ! 終わってないヨ! ミンナまだあきらめナイデ!」
この時点ではガビアータの勝ち点は32。
同時刻に始まったオッソ札幌の試合経過はプレーしている選手への配慮でスクリーンには表示されていなかった。
高橋もスタッフには経過を知らせないように依頼していた。
やがてオッソ札幌対アンギーラ浜松の試合結果が表示された。
「5対2」
優勝候補最筆頭のアンギーラは、なんと3点差を付けられてオッソに負けてしまった。会場の丘珠スタジアムでは奇跡の逆転残留にサポーター同士が抱き合って涙を流している。
結果、オッソ札幌も勝ち点32、得失点差でわずか1点ガビアータ幕張を抜いて残留を確定させた。
一方ここカワアリのピッチでは、改めて選手たちがへたり込んでいた。
メンタルの強い尹はそれでも、
「ミンナ! まだ入れ替え戦があるョ! がっかりするの、入れ替え戦の後!」
とチームメイトを鼓舞していた。
「このままじゃ、ダメだヨ! ミンナ、立ち上がっテ!」
尹に促されて選手たちは立ち上がり、メインスタンド前、ガビアータのサポーター前にやってきた。
気を取り直したゲームキャプテンの鈴木は全員が整列するのを確認し、
「応援ありがとうございました!」
と頭を下げて挨拶した。
拍手は起きなかった。