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カモメが飛ぶ日  作者: Tohna
序章 最終節
7/46

7. 202x年シーズン最終節(7)

君は「ドーハの悲劇」を見たか。

悲劇はガビアータにも降りかかる。

 アディショナルタイムも1分20秒が過ぎた。


 カルバロスは、少なくとも残り1分半で2点を取らない限りプレーオフに進むことは出来ないが、このままでは終われないという意地からか、捨て身の猛攻をかけてきた。


 中盤から絶え間なくゴール前に放り込まれるロングボールをディフェンス陣は体を張って跳ね返した。

 そして跳ね返したボールはカルバロスボールになり、またロングボールを放り込まれるというループを繰り返す。


 しかし、ロングボールでゴール前に蹴ってきたボールを関口が頭で防いでゴールラインを割った時、アディショナルタイムの3分が過ぎた。


 まだ笛はならない。


 しかしながら逆転の可能性はほとんどなく、ほぼカルバロスの自動降格は決まった。

 

 おそらくラストプレーと思われるコーナーキックをカルバロスの甘粕が蹴った。右足で蹴ったボールは少し右に巻きながら背の高い高坂めがけて放たれたが、残念ながら高坂の頭には合わなかった。


 プレーにかかわった全員がそのボールの行方を見ていた。


 誰もが動けなかった。


 ボールは、さらに鋭く巻いて、ファーサイドのポストの奥の角に当たり、広角に跳ね返ってそのままゴールネットを揺らした。


 ゴール認定の笛の直後、主審は試合終了の笛を吹いた。

 

 スコアは、3対3のドロー。


 ガビアータの選手は残留を勝ち取ることができず、全員がピッチに座り込んだが、ゆんがすっかり上手くなった日本語で怒鳴った。


「まだ、札幌の結果があるデショ! 終わってないヨ! ミンナまだあきらめナイデ!」

 


 この時点ではガビアータの勝ち点は32。


 同時刻に始まったオッソ札幌の試合経過はプレーしている選手への配慮でスクリーンには表示されていなかった。


 高橋もスタッフには経過を知らせないように依頼していた。


 やがてオッソ札幌対アンギーラ浜松の試合結果が表示された。


 「5対2」


 優勝候補最筆頭のアンギーラは、なんと3点差を付けられてオッソに負けてしまった。会場の丘珠スタジアムでは奇跡の逆転残留にサポーター同士が抱き合って涙を流している。


 結果、オッソ札幌も勝ち点32、得失点差でわずか1点ガビアータ幕張を抜いて残留を確定させた。


 一方ここカワアリのピッチでは、改めて選手たちがへたり込んでいた。


 メンタルの強いゆんはそれでも、

「ミンナ! まだ入れ替え戦があるョ! がっかりするの、入れ替え戦の後!」

 とチームメイトを鼓舞していた。


「このままじゃ、ダメだヨ! ミンナ、立ち上がっテ!」

 ゆんに促されて選手たちは立ち上がり、メインスタンド前、ガビアータのサポーター前にやってきた。


 気を取り直したゲームキャプテンの鈴木は全員が整列するのを確認し、


「応援ありがとうございました!」

 と頭を下げて挨拶した。


 拍手は起きなかった。

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