6. 202x年シーズン最終節(6)
高橋実監督代行を無能のように描いていますが、流石一部リーグの監督代行を務めることができる人物です。采配にも少し光る部分があるのです。
ところでJSL-Aの登録選手の平均年俸は約3500万円であり、平均の登録選手数は29名なので10億円がチームの平均人件費と見て良い。
しかし、ガビアータの登録選手の合計年俸は平均の約半分、5億6千万円だ。尹とエウリントンの二人でその1/4を占める。
日本人の若手となると悲惨なもので、例えば左SBの関口は今年トップ昇格したばかりの21歳で、年俸は480万円だ。B契約の最高年俸に据え置かれている。
出場分数から来季はA契約になるだろうが、関口のサイドの突破力や左脚から繰り出す正確なクロスは他のチームからすれば垂涎の的だ。
普通、そんな選手を引き止めるのがGMの務めである。
過去、GMの園田は限られた予算の中慰留を試みたが選手に難色を示されると強くは引き止める事はしなかった。
「無い袖は振れない」
園田の口癖だ。
毎年育成し、ある程度の成功を手にした若手を手放してしまい、戦力の上積みはなし。海外から高い年俸を払って助っ人を呼んでくるのが恒例の人事だった。
そして毎年のようにシーズン前は目標は「優勝争いに絡む」から始まって、結局降格を回避するのが最終目的になった。
閑話休題。
カルバロスにいいように中盤を支配されていたが、ついには前線に良いボールが面白いように供給され始めた。
何とか猛攻を凌いでいたガビアータだったが、カルバロスの勝ち越し点が決まったのは56分を過ぎた頃だった。
ボールを保持していた黄がドリブルで真ん中に切り込んできた。
エウリントンが釣り出され、赤羽のバックアップが遅れたところにこのプレーの起点となった樫本がスペースに走り込んで右足で決めたのだ。
高橋は動いた。
エウリントンの消耗が激しいので控えのセンターバック山口を送り出した。
山口は攻撃参加が魅力の大型のセンターバックだ。
身体能力はチーム随一だ。
1点を勝ち越されてもうガビアータには迷いは無くなった。
カルバロスの守備陣の疲れの出始めた77分には中盤でカットしたボールを関口が自ら持ち込んで同点弾を決め、続く83分には坂上からのホットラインを尹が決めた。
久しぶりに「カワアリ」のゴール裏が大きくどよめいた。
しかし、あっという間に逆転をされたカルバロスイレブンの表情にはまだ闘志は残っているように見えた。
一方、高橋は残り時間を計算しながら疲れの見える右サイドバックの中野とボランチの坂上が下げられ、足元の技術が確かな野島と一楽が入り明確に「守り切れ」の指示がでた。
カルバロスイレブンの闘志は空回りし、ガビアータの守備陣を崩せずにいた。
88分、カルバロスの交代枠の最後の一枚は、やけくそ気味に点を決めている黄に代わって身長190㎝を超える新人の高坂だった。
しかし時すでに遅しか。
やがて試合は90分を超え、アディショナル・タイムは3分と表示された。残留まではあと3分だ。
誰もがそう思った。