第47話 島の本音
「悪いが、『ラジオごっこ』みたいなのには興味はねえな。良いじゃねえか。山際社長と日向さんが我々サポーターと話をする機会を設けてくれさえすれば良いんだ。そんな七面倒くさいことは俺はしたくねえな」
島はにべもなくまた町島の案を一蹴する。
その大きな声に「妙案だ」と思った木下も冷や水を浴びせられる格好となった。横内もこの島の態度に対しては少し苦々しく思っているような表情を浮かべていた。
カモメボーイズも決して一枚岩ではない。
しかし町島はなおも食い下がる。
「島さん、何故でしょう。様々なサポーターが、さまざまな意見を言える環境を整えてこそ本音ベースの対話が生まれるのではないですか?」
「俺たちがどれだけの愛情をガビアータ注いで、その一方で自分の生活に犠牲を払ってきたのか、お前さんは理解していないようだな?」
町島は真意を確かめるようにして黙り込んだ。
沈黙を破ったのは日向だ。
「皆さんの愛情は本当にありがたいですし、選手も現場コーチングスタッフも我々フロントもひしひしと感じてます。しかし生活を犠牲にとは端的にどういうことなんでしょうか?」
ふぅ、と島は溜息を一つ付いて、物憂げに話し始めた。
「俺はしがない工務店の経営者だが、美浜区の商工会議所の会頭をやらせてもらってる。なに、俺のオヤジの代からの単なる名誉職だよ。それでも商工会を挙げて我々はガビアータを応援してきた、それは知っているよな?」
「ええ。それは勿論です」
山極が額の汗をハンカチで拭いながら答える。
「しかしなあ、最近では弱いガビアータじゃなくて違うチームを応援した方がいいんじゃねえか?なんて意見も百出している。」
「違うチーム、ですか?しかし、流石に我孫子デルソルをサポートするには地理的に無理があるのでは……」
と、町島が口を挟もうとすると、島は遮るように言った。
「誰が同じサッカーチームだと言ったんだよ」
「えっ?」
声を発した町島だけでなく、日向も虚を突かれてあっ、と思った。
「ひょっとして、千葉ライナーズさんですか」
千葉ライナーズ。新興のプロバスケットボールチームだ。
現在はプロバスケットボールリーグであるBBリーグの2部に甘んじているが、3部初参入ですぐ優勝、2部においても2年連続で東カンファレンスを圧倒的な勝率で優勝しているが、1部へはプレイオフで二年連続昇格を阻まれ涙を呑んでいる。
島は訥々と話し始めた。
「青年会からの突き上げが激しい。老害どもが支配しているガビアータのサポートをやめて、ライナーズに競技ごと鞍替えしろ、って言うのが奴らの主張さ」
「競技の好みも多様化してるってことですかね」
「それと犠牲って言葉にはどんな関係が…」
町島の問いに島はギロッと一瞥をよこして答える。
「まあ、それはいい。とにかく商工会の状況は抜き差しならねえってことだ」
「商工会からは30万円ほど協賛金を毎年頂戴しています。それが関係していますか?」
山際がそういうと、島は少し驚いた顔をしてから、あっさりと告白した。
「たかだか30万円だが、『会頭の個人的な趣味で年間30万円の支出はけしからん』とな。青年会の立花って男が会合でそう主張したもんだから……」
そう言って島は言葉を切った。
日向が言いにくそうに沈黙を破る。
「つまり商工会としての協賛は棚上げされて今年の分については島社長が個人的に負担なさっているんですね」
怪訝な顔をしながら面倒臭そうに島は答えた。
「まあ、そう言うことだ。正確に言えば俺と副会頭の小林さん、後数名の有志で金を出している。持ち出しは俺がもちろん一番多い」
「美浜区商工会議所として協賛金を納めさせてもらっているが、その実俺たちのポケットマネーからの寄付だってことだよ。公私混同だとかなんとか言われると立場的にはつらい」
「それで今は商工会の協賛金についてはどんな事に?」
日向の興味は今後の話に移った。
「ライナーズへの協賛を承認しろと青年会から突き上げられている」
「シーズンインまでもうすぐですもんね」
「ああ。締切というのはないのだが、ライナーズのホームページに開幕までに商工会の名前をねじ込みたいみたいらしい」
島の顔は憤怒に歪んでいた。
「立花って方はついでに島さんの座を狙っているとかそんな事ですかね」
日向は穏やかに、鋭い考察を述べた。




