表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カモメが飛ぶ日  作者: Tohna
再始動
39/46

第39話 洒落た報復

  JSLカンファレンスの翌朝、海浜幕張のオフィスに顔を出した日向は社員から思わぬ歓迎を受けた。


「GM、すごいリフティング技術ですね!」


「能ある鷹は爪を隠すってGMの事だったんですね」

 不躾な記者からボールを手渡され、リフティングをやってみろ、と言われて日向は人前で披露したことがないリフティングをトリックを交えて3分ほど披露したのだった。

 社員たちはストリーミングサービスGAZN(ガゾン)を通じてその様子を観ていた。


 苦笑いしながら適当に社員たちをあしらうと、そのまま山際の居る社長室に入っていった。


「山際さんおはようございます。昨日はお疲れさまでした」


「日向さんおはよう。これ見てよ」

 そう言って山際はマンデースポーツとスポーツ日報を差し出した。


「それならあらかたスマホで見ましたよ。悪意ありすぎですよね。でも全然傷ついたりしてませんから」


 それぞれ裏一面に日向がリフティングでトリックを決めたところのスナップショットを載せて、


「僕だってできるもん」


「サッカー(リフティングだけ)できます!」

 といった挑発的な見出しを付けていた。


 山際はニコニコしながら自説を打った。

「昨日は大きなニュースもなかったし、紙面を埋めたかったんだろうし、あいつら(記者たち)も、日向さんがそれこそ普通の選手よりリフティングがうまいなんて思いもしなかったから負け惜しみで書いたんだろうね」

 

「あの場ではこれは『御見それしました』とかなんとか言ってたくせに酷いですよ」

 傷ついてなんていない、という日向の言葉は本心ではなさそうだ。 


「まあ俺も正直日向さんのリフティングには驚かされたけどさ、それを先に知っていたって、だからGMにしたってことはないからね。あくまでも俺が欲しかったのは日向さんの頭脳だ」


「そう言っていただけると救われます」

 日向はそう山際に礼を言った。


 日向は身体が虚弱体質で、中学生になった時にサッカー部に入部希望を出したものの顧問の教師から断られた。

 

 しかし、どんな辛い練習でもついていく、と食い下がった日向に対して、

「じゃあリフティングが3000回続くようになったらもう一度考えてもいい」

 と、条件を出したのであった。


 教師の言葉を信じて、学校が終われば日が暮れるまで自宅から近い空き地でリフティング、コーンを置いてのドリブルなど自分で出来る練習に打ち込んできた。

 

 そのうち体力もついてきた。もう、自分に不足な部分はないはずだと意気揚々に 日向は真面目に取り組んで、結局9か月後にリフティングを3000回以上できるようになってその教師に披露して見せたのだが、教師は非情にもリフティング2995回で、


「時間がかかりすぎだ。もうお前とほかの奴らとの間には体力も戦術理解も、天と地との差があるからやっぱりだめだ」

 と言われてまたも断られた。


 日向は体力もついた、試してほしいと懇願したが教師は頑として認めようとしなかった。

 

 要するに3000回のリフティングは単なる断り文句であり、それ自体に何ら意味も価値もなかったのだった。


 大人が信じられなくなった日向は、その日を境に不登校になり以前から得意だったプログラミングに没頭していった、というのが日向のサッカー選手としての実績がない経緯である。


 大人の勝手な判断基準で、サッカーをしたいというシンプルな願望すら叶えられなかった悲哀を受けてきた日向はサッカーへの愛情を戦術理解や自分流の選手のパフォーマンスパラメーターを作るということに注いできた。


 当時はクラブチームでプレーするという選択肢は、日向の中にはなかった。


  中学の部活すら入部を拒否された日向にとっては、クラブチームのセレクションが大きな障壁だったからだ。


 その結果がeゲーム、「サカつく」のワールドチャンピオンであり、幕張ガビアータのGM職なのだ。


 記者の悪意を持った好奇心によって日向は中学生時代の苦い思いを無理やり掘り起こされたのだ。


 とはいえ、日向はドレスシューズで見事なリフティングをトリックまで付けて見せつけた。


 しかし、悔し紛れに記事を書いた記者も記者だが、掲載を認めたデスクもデスクである。


 余程見事なリフティングを見せつけられて悔しかったのかもしれないが、そもそも日向の経歴を珍奇なものとして扱い、偏見を持っていることの証左となった出来事になった。


 一方、Twitterにおける日向のリフティングの扱いは概ね好意的で、むしろ日向を揶揄したツイートとリフティングの動画を投稿したスポーツ報日編集部のアカウントは見事に炎上した。



 スポーツ報日編集部【公式】☑ @sports_honichi_official

「僕だってできるもん!」

 ガビアータ幕張日向GMがJFLカンファレスでその華麗な脚技を披露! サッカー選手としての実績ゼロの異色のGMが「サッカーできるアピール」

 さて、今年の順位はいかに。


 □745 ♡23,982   ↱↲19,882


 夢一路@受験生 @yume_1_ru

 

クソマスゴミ反撃喰らって悔し紛れに何か言ってて草。

しかし日向GMすごい技術! 


 □2  ♡  98   ↱↲ 82


 ゆっぴ△ガビアータサポ @yuppy9993


酷いわこれ。何が僕だってできるもん!だ!

スポ報日の編集部に電凸するべき案件。

もう二度と買わない。

#スポーツ報日をボイコットしよう

#ガビアータ幕張

#スポーツ報日不買運動


 □39  ♡ 195   ↱↲  302


 マーケティング部部長の比良はTwitterのモニターを行っていて山際には即座に分析が届いていた。


「比良さんも日向さんに同情的な呟きが多いって言ってる。傷ついていないって言ったっていい気はしないだろうよ。ウチの公式アカウントからも何か出すって言ってたぜ」


「山際さん、そんなことしたらまたよく書かれないですよ」


「もちろんマスコミは敵じゃねえがな。でもこういう時こそ毅然とやり返さないと」

 山際のこの言葉を聞いて、自分は会社から守られている、そう感じた日向中学の時に受けた疎外感とこのチームでの自分への扱いについて頭の中で対比させていた。



 ガビアータ幕張公式 ☑ @gabviota official


皆さんのリフティング動画を#僕だってできるもん!

を付けて投稿してください!


2月28日(水)23:59時点で最も多くのいいね!が付いている動画の投稿者に、日向GMから直接素敵なプレゼントが!


 □732 ♡11万   ↱↲ 9万


 翌日比良がTwitterに仕掛けたスポーツ報日に対する巧みな報復に日向は嬉しくなった。


「比良さん、なかなかやってくれるね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ