3. 202x年シーズン最終節(3)
残留へのプレッシャーは物凄いものがあると思いますが、そのプレッシャーを勇気に変えてくれるのがサポーターであって欲しいですよね。
その原因は、マクドゥーエルのその後にある。
マクドゥーエル率いる日本代表は、アジア大会を優勝し、これからと言う時に彼は心筋梗塞に倒れ一命をとりとめたが帰国を余儀なくされた。
残ったのは日本蹴球協会と川島製鉄に対するガビアータサポーターの怨讐の念、そしてこの立派すぎるスタジアムだけであった。
サポーターに期待されないチーム。
そもそもサポーターと呼べるような存在なのかも疑問だ。
チームが連敗すればスタジアムで暴れ、試合後選手のバスを取り囲んで監督やフロントに事情を説明しろと迫る、ほとんど愚連隊の類にしか見えなかった。
JSLが始まった頃、ドイツや東欧の国から移籍してきたヒーローたちによって絶大な人気を誇ったこのチームは、経営の堕落によって落ちぶれ、マクドゥーエルによって一度は盛り返すも再び経営の判断ミスで再び落ちぶれた。
それでも何故だか30年間二部に降格しないこのチームをネットの住人は「リーグのお荷物」と呼んでいた。
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最終節、群馬カルバロス戦のキックオフの笛が14:00きっかりに主審によって吹かれた。
ガビアータ幕張のシステムは4-4-2。中盤はトップ下、左右のインサイドハーフにボランチ1枚のダイヤモンド型とかなりオーソドックスな布陣だ。
試合は2トップの丹羽から韓国代表の尹にボールが渡って始まった。
尹からさらに後ろのトップ下の川上に、川上は一旦右のインサイドハーフの庄司にボールを預けて左前方にワン・ツーを狙って流れて行った。
庄司はマークのついた川上にはパスが出せず、左インサイドハーフ、キャプテンの鈴木崇士にパス。
このパスは読まれており、カルバロスのセンターフォワード甘粕にカットされた。
そして甘粕はそのままドリブルで仕掛ける。
甘粕にはガビアータのワンボランチ、元U-21代表の坂上が対処しようと素早いチェックを入れたが、甘粕は坂上に間合いを詰められる前に上がって来ていた右ウィングにパスを出した。
これにはセンターバックのブラジル人エウリントンと、右サイドバックの中野が対処。もう一人のセンターバック赤羽はウェリントンのカバーリングで右に寄り坂上は左に下がり、左サイドバックに関口と共にアーリークロスに警戒した。
直後、観客席が沸いた。
カルバロスの中国人右ウィング、黄英傑が中野とウェリントンの二人のチェックをものともせずを振りきってペナルティエリアに侵入し、赤羽が寄せたが強く抑えの利いたシュートをインステップで蹴った。
しかしゴールキーパーには粟尾は難なくキャッチ。赤羽の最後の寄せでコースが限定できたからである。
「おい、黄のチェック甘いぞ!」
粟尾は中野に怒鳴ってからフィードボールを蹴った。
粟尾の形相も激しかったが、怒鳴られた中野の表情は、怒気を含んだものだった。
チームもバラバラ。
それがこのガビアータの現状なのだ。