2. 202x年シーズン最終節(2)
この物語はフィクションであり、実在する団体や個人とは関係ありません。
もし似ているとしても、気のせい……です(笑)。
当節はホームスタジアムである「川島スチール・アリーナ」でキックオフされる。
川島スチール・アリーナは、ガビアータ幕張の親会社でもある川島製鉄所が所有権とネーミングライツを持っている。
幕張の浜の一部の調整地に2010年ごろ建設されたこの近代的なサッカー専用スタジアムにはおよそ4万人を収容することができる。
その四年前、千葉市が空き地の目立つ幕張新都心埋め立て地を何とかしようとして地元企業の川島製鉄に「幕張サッカータウン」構想を持ち掛けたのがきっかけだった。
ほぼ全シートが雨にぬれずに観戦でき、ピッチから最前列までの距離はわずか8m。
傾斜はそこそこにきつく、観戦しやすさは日本のサッカー専用スタジアムの中でも1.2を競うほどと言われている。とにかく最高のスタジアムなのは間違いない。
それまでは稲毛区天台にある県営総合スポーツセンターの第一陸上競技場で運営してきたが、2004年に招聘したアイルランド人監督の名将マクドゥーエルがチーム最高順位であるリーグ2位まで押し上げた事で、チームは創設時以上の人気に火がついた。
「サッカー専用スタジアム」の必要性をマクドゥーエルは説いて回った。
ピッチから観客席が遠く試合の一体感に欠ける天台陸上競技場をマクドゥーエルは嫌ったのだ。
マクドゥーエルのおかげで客の入りも絶好調で収益の面でも目途が立ち、その人気の立役者がそこまでいうなら、という事で川島製鉄が保有権および運営権を得ることで建設が承認された。
ところがである。
建設の調印が終わってわずか半年後、アイルランド代表監督を務めたこともあるマクドゥーエルは、その後まもなく監督人事でWカップドイツ大会で惨敗を喫した日本代表監督として協会に引き抜かれた。
当時のフロントは慰留もせず、むしろ協会に目を付けられたくないと、むしろ積極的にマクドゥーエルを差し出した疑惑すら出てきた。
マクドゥーエルは、自分の子飼いのアイルランド人ヘッドコーチを後継者に据えて、自分の路線を引き継がせたが所詮本物のカリスマ性には敵わない。
チームはそこから下降線を描き、成績は低空飛行を続け、サポーター数も減り続け、4年後に完成した威容を誇るスタジアムには相応しくない客の入りとなってしまったのだ。
そして今日の大一番である。
不人気のチームにあって、それでも今日のこの試合にはかつてないほどのサポーターがスタジアムに押しかけているように見えた。
しかし、7割方埋まった観客席を一見するとカルバロスの緑のゲームシャツに身を包んだサポーターが2/3を占めている。ホームゲームの大一番に黄土色のチームカラーのユニフォームでスタジアムが埋まらない。
正に無様であった。