16. チームワーク(1)
役員会が終わり、自宅にもどった山際は家族にも心配されているようで……
「お父さん、どうだったの?」
胃痛を抱えながら帰宅した山際に、妻の穂奈美が玄関先で出迎えた。
「いやあ、すっかりやられちゃってね。この通り胃痙攣の軽い発作が出てて痛くてたまらんよ」
「やられたって、ダメだったの?」
穂奈美は少しげっそりしている山際の顔を見て心配そうな顔をしている。
「おいおい、オレの身体の心配じゃなくて身分の心配してるのか?」
「だってー。どこに飛ばされるか心配じゃない」
確かに穂奈美や一人息子の大翔には自分の処遇如何によっては大きな影響がある。
山際は深刻な顔をして見せた。
「えー⁉︎ 上手く行かなかったってこと? ねえ! 大翔! ちょっと降りてきて!」
穂奈美は二階の子供部屋にいる大翔を呼んだ。
「なんだよ。今フォートナイトで友達とチャットしてんだけど? 今いいところなのにな!」
大翔は文句を言いながらも階段を降りてきた。手にはNINTENDOスイッチを、ゲーミング用ヘッドセットを付けたままだ。
「おい、お前まだそんなのやってんのか。勉強はどうした?」
山際は大翔のその姿を見て、一瞬不機嫌になったが、大翔なりに父親である自分に関心を持ってくれているのがわかって少しだけ嬉しくなった。
いつもは、何回呼んでも下に降りてくる事などほとんどなかったからだ。
「で? どうせ上手くいかなったんだろ?」
「大翔、そんな言い方」
「そんなシケた顔してるんだ。そうに決まってる」
大翔は悪態をつきながらソワソワしている。コイツも心配なんだな、と山際は感じ取った。
「お父さん、最悪単身赴任で何処にでも行くからお前ら二人は心配するな」
半分ウソだが半分本当のことだ。とにかく敦賀社長から託されたミッションは、とてつもなく困難を極めている。
「じゃあ、やっぱり……いつ? いつ新しい出向先は決まるの?」
穂奈美の眼は充血しているように見えた。
「来年一年は……多分ここにいられる」
山際の自宅は舞浜の住宅街にある戸建てである。分譲ではあったが、手に入れた時は狭いながらも一国一城の主になった気分になったものだ。
「とりあえず命拾いしたってこと? じゃあ再来年はどうなるんだよ」
今年中学生になったばかりの大翔はこの街を離れるのはイヤだった。
中学ではサッカーの部活に入って、一年生ながらフォワードの一角を任されるようになった。
そして密かに恋心を抱いている女の子もいたからだ。
「ああ、再来年もここにいられるように、お父さんは今日役員と喧嘩してきたんだよ。そしたら社長が『好きにやっていいぞ』って」
「ちょっと、役員と喧嘩なんて。お父さん大丈夫なの?」




