15. 役員会(7)
役員たちに喧嘩を売ったことで、消えかかっていた昼行燈が復活します。役員会編、最終話。
「常務、要は勝てば良いんですよ」
なんだと? と言わんばかりの川口を手のひらで制して山際は続けた。
「選手も、サポーター達も、スポンサーも、我々経営側もみんな『勝利』に飢えているんです。勝つことで問題を解消しようではありませんか? 役員の皆さん!」
人を食ったような言い方をする山際。
それが出来ていないから問題になっているのに。
「それで、その勝ち方を日向という男に託す訳か。その男は、確かなのか?」
敦賀の質問はワザと幅を持たせた聞き方をしてくる。
確かなのか? と聞かれたら何故そうなのかを説明しなければならない。
生半可な答えでは返り討ちに遭うだけだ。
「日向彗氏は、データアナリストとしての実績が豊富です。経営のセンスもある。足りないのはサッカー選手としての実績ですかね」
鎌田は半笑いで、それ見たことかと攻撃する。
「ITベンチャーだかなんだか知らないが、サッカーもできない奴にGMを? ふざけるにも程がある」
山際は、口角をあげながら
「まあ我々だってサッカーを知らない人たちが現場の人事に頻繁に介入してくる方にも同じ思いをしていますがね」
と断じた。
「おい、言葉に気をつ……」
鎌田は何か言いかけて、
「申し訳ありません」
と言い直して黙った。
敦賀が鬼のような形相で鎌田を睨んでいたからだ。
「サッカーに明るい君が選んだんだ。その日向という男で良いだろう」
敦賀の一声は絶対だ。
流石の鎌田も川口も口出しはできなくなった。
「但し条件がある。来季ガビアータが単年赤字の場合、チームは売却する。それから……」
山際は、生唾を飲んだ。自分の喉の音が議場に響き渡ったような錯覚がした。
「君は我々も勝利に飢えている、と言ったな?」
「ええ、確かに申し上げました」
敦賀の厳かな声色に身が竦む思いだったが、自分の信心は変えられない。
「ここにいる役員をサッカー好きにしてみろ。心から応援したくなるような、そんなチームにしてみろ。そのためには勝つことだ」
「はい」
「それができなければ、黒字を果たしても君には社長を降りてもらう。ちょうど北海道川島メインテナンスの財務部長が来年定年退職する予定だったな」
失敗すれば遠い子会社へ出向である。
敦賀は諸手で山際の案を推しているわけではないことは明白だった。
ミッション・インポッシブルだ、と山際は思ったが、やりたいようにやらせてもらえる悦びが勝った。
「ええ、わたしは敦賀社長のご判断が正しかったことを証明するまでです」




