13. 役員会(5)
山際はいままでの恨みつらみを役員会でぶちまけてゆきます。崖っぷちの男には怖いものはない。
「色々あるので全部は話せません。しかし一番の失敗だけは話しておきたい。それはBチームで卯月優吾を飼い殺しにした上放出したことでしょうかね。」
宣伝担当役員の岩沢がそれを聞いて、
「卯月は今はイタリアで大活躍中。代表合宿にも呼ばれた。そうだったね。山際君」
「ええ。それも無償でフランス人のエージェントに売り渡したんですよ。私が社長になる前の話ですがね」
本人を目の前にして「無能」の烙印を押した訳だ。
「君は園田くんに全て責任を擦りつけて何もしないのか⁉︎」
鎌田専務は自分自身のプライドを守るために猛烈に攻撃を始めた。
ガビアータを売却したい川口常務に加えて厄介な事になった。
「私自身の責任は勿論ありますよ。あまりに貴方達役員の皆さんの『お気持ち』に忖度しすぎて何もしてこなかった。それが私自身の咎だと思ってます」
ふざけるな、などの怒号も飛んだが、山際は更に付け加えた。
「なので、来期は私の進退を掛けてやりたいようにやらせていただきます。1,500万円の借入金の保証以外の追加の援助は不要です」
役員達からは更に怒号が飛ぶ。世話になっておきながらその物言いはなんだ、と言わんばかりである。
「諸君、少し静まらないか」
議場の喧騒を断じるように敦賀の一言が飛んだ。静まり返る一同。
「それで、どのように立て直すのか。肝要な部分をまだ聞いていなかったな」
社長の敦賀は他の役員とは違い、山際の物言いに対する反発心より好奇心が上回っているようだ。
「まず、人員について監督、選手の人事を刷新します。個々の能力をきちんと数値化し、オフシーズン中はトレーニングや試合が終わった後毎週アップデートします。気の毒ですが、既に契約を結ばない選手はリストアップ済みです」
山際は解雇する選手が書かれた一枚の紙を右手人差し指と親指に挟んでひらひらと振った。
「それから、獲得する選手も目星は付けていますが……」
「金ならないぞ。そもそも借入金の保証以外、援助は要らないと君が言ったんだろう」
鎌田専務は敵意剥き出しで口を挟む。
「専務、話は最後まで聞いてください。海外から選手を引っ張ることはしません。したがって全体的には人件費は縮小方向で」
鎌田は鼻で笑った。
「縮小均衡かね。まあ、財務畑の君らしい発想だな」
山際は怯まず、
「いえ、我々は払いすぎていたんですよ」
配られた解雇選手のリストが全役員に配られたのを見てそう言い放った。
鎌田専務はリストを見て叫んだ。
「エウリントンを外すだと? どういう了見だ! あいつを引っ張ってくるのにどれだけ金を払ったと」




