12. 役員会(4)
昼行燈、山際は自らの生死与奪権を持つ役員たちに向かい、反撃を開始する。
川口常務が唾を飛ばしながら怒鳴った。
「我々の保証がつかなければ、メインバンクからの借り入れもできないんだろう? 一体どうするつもりなんだ?」
「常務、まずは落ち着いてください」
山際が場違いに穏やかな物言いをするので、議場に再び失笑が漏れた。
「今日私はここに呼ばれた理由は来季、および向こう3ヶ年でどのように経営を健全化するかをお示しすることと存じております。違いますか? 常務」
その通りだ、と川口は頷いた。
「ご批判やご質問は説明の後いくらでも賜りましょう」
「分かった。続け給え」
鎌田専務に促された山際は壁際の椅子に控えていたGMの園田に視線を送って隣に来るように無言で促した。
「まず5年に渡りGMを務めて下さった園田さんには成績低迷の責任を取って退任いただこうと思います」
ガビアータに園田を連れてきたのは鎌田専務だ。鎌田は面白くない。
「力不足で、ガビアータを浮上させることができず断腸の思いです。大変申し訳ありませんでした」
と、園田は弱々しく挨拶をした。
「代わりは……もう決まっているのか?」
敦賀は興味を示した。
山際は、意を決するかの如く静かに口を開いた。
「はい、日向彗氏の招聘を考えています」
そして、議場はざわついた。
誰一人としてその名前を知らなかったからだ。
「どこの、だれなんだ?」
役員からは日向のプロフィールについての質問が相次いだ。
「日向彗氏はITベンチャー、『クローバメイト』の社長を務めていらっしゃいます。年齢は29歳」
どよめく役員たち。
鎌田専務は、
「誰だね、その日向とかいうのは。それに、何故山際君がそんな事を決められる権利があるんだ⁉︎」
と明らかな怒気を含んで山際に問うた。
「鎌田専務、お言葉ではありますがGMの決定権は社長である私の専権事項であります」
「しかし、通例では我々川島製鉄からの助言で……」
ついに堪忍袋の緒が切れたか、山際は怒りを押し殺すようにして反論を開始する。
「助言じゃないですよ。あんなのは単なる役員会からのゴリ押しだ」
先ほどまでの場違いな柔らかな物言いとは違った迫力に、役員たちは押し黙る。
「園田さんは選手としてはフランスで大活躍され知名度も抜群でしたが、残念ながら誰が本当に必要なのかを見極める力が不足していたと思います。成績低迷は不適切な選手のポートフォリオが元凶です」
「ほお、それで園田君は具体的にどのような人事をやったんだ?」
敦賀社長は端的な回答を好む。
例え本人が目の前にいてもだ。




