11. 役員会(3)
サッカーチームを抱える大企業であっても、役員たちがサッカーフリークとは限らない。
「議長、次の議案ですが、ガビアータ幕張の山際社長から今季の活動報告ならびに来期の抜本的な経営改善案および収支見通しについて改めて説明をしていただきます」
議事進行役の鎌田専務に促され、末席に座っていた山際は立ち上がり、
「ガビアータの山際でございます。まずは今季の活動報告をさせていただきます」
と宣言した。
「結論から申し上げますと、リーグ戦の最終順位は16位ながら先週の入れ替え戦で勝利したため一部残留を果たしました」
一部の役員から失笑が漏れる。
山際は一顧だにせず続けた。
「カップ戦については、JSLカップでベスト16、天皇杯ではベスト32という結果でした」
「山際君、天皇杯は大学生に負けたんだよな?」
役員の一人から侮蔑を含んだ質問が飛ぶ。
「左様、しかしながら我々を破った東京科学技術大は、そのままベスト8まで進出しております」
少し抵抗を試みる山際。
「仮に東京科技大に勝ったとしても、ベスト8止まりって事だろう?」
バカにしたように、その役員、営業担当の川口常務は突っかかる。
天皇杯が何であるかも知らない川口は口性がないので忌み嫌われている。
山際は、川口がガビアータ売却派の筆頭役員だと事前に情報を得ていた。
「ええ、その通りです。続けてもよろしいでしょうか?」
山際は色をなすこともせず、淡々とやり過ごした。
「また、お配りしました資料の通り決算は、PL(損益計算書)上、ボトムラインである税引き前利益で1,536万円の赤字を見込んでおります」
役員からはため息が漏れた。
「リーグ規定では3季連続赤字の場合、チームライセンスが停止となりますが、昨年末川島製鉄からスポンサーフィーを上乗せして頂き見せかけ上黒字を果たしていますので今年はこの件については注記されるでしょうがいきなりライセンス停止には至らないかと」
「累計の赤字は如何程になっているのかな?」
御前様、と呼ばれ長きにわたり川島製鉄グループの総帥を務めてきた最高経営責任者兼代表取締役社長の敦賀憲佑が重々しく口を開いた。
山際に緊張が走った。
山際の理解では敦賀はガビアータの存続の支持者だ。
残念ながらサッカーに対する愛情が支持の理由ではなく、対外的な印象を悪くしたくないというのがその動機とされる。
「2億3千万円です」
議場がざわめいた。
「我々の予算規模からすると、完全に債務超過と言わざるを得ません」
「何を暢気に評論家みたいな事を言っているんだね?」




