10. 役員会(2)
チームの進退よりも、球団社長である山際の進退の方が危うい。
その打開策はいったい……
しかしながら今になって親会社が山際を追い詰めるような指示を出したのは新型コロナウィルスショックによる業績低迷にある。
新車販売が低迷し、大型のデベロッパーのプロジェクトも頓挫した。そして鉄鋼の需要は落ちに落ちた。
鉄鋼産業は川島製鉄に限らず、最王手の亜細亜製鉄も赤字に喘ぐほどであった。その環境下でガビアータは明らかに川島製鉄本体の足を引っ張る存在になっていた。
せめて損益分岐点まで立て直す必要があり、それができなければ売却も検討する必要に迫られていたのだ。
当然の如く、その頃ガビアータの幕張新都心にある事務所では、
「親会社がチームを売却したがっている」
という噂が立っていた。
社会情勢やチームの現状を見るとそんな噂が立ってもなんら不思議はなかったが、川島製鉄は明治から続く日本の基幹産業の雄である。
それ故か「プライド一流、実力二流、給料は三流」と業界で揶揄されるほどの社員の傲慢さで悪目立ちしていた。
売却だけは避ける―― それが面子を保つために必要だった。
会議に先立って、園田はGM職を辞することを決めていた。
否、山際の責任において園田にクビを宣告したのだ。
園田は現役時代フランスリーグで活躍し、ガビアータの監督を務めた後GMに転身した。
GMとして何ら実績を作ることができず、最終節では試合が終わるや否や逃げ出すなど到底容認できなかったのだ。
その後釜を誰に据えるかは基本的に球団社長の山際の専権事項であったが、もちろん親会社の意向も汲まねばならない。
GMの仕事は大まかに言えば、チーム戦略をもとに監督、コーチ、選手を編成し契約を実行することだ。
チームによってはチーム戦略そのものを担当させることもある。
ガビアータは正にこの戦略に主に親会社のサッカーの素人が口を出すことが問題を引き起こしていた。
山際は、自分の進退をかけるにふさわしい男を一人頭の中に思い描いていた。
頭の中で、何度も準備した原稿を思い出し、プレゼンテーションのシミュレーションを行っていたが声を出すわけにもいかず気ばかりが焦ってきた。
そうこうして役員会室の扉の前で待っていると、役員室の秘書が近づいてきて、
「お時間ですのでお入りください」
と促された。
念のためにネクタイを再度締め上げた山際は、ドアを静かに開けて、
「失礼します」
と言って入室し、一堂に会した役員たちに園田と共に頭を下げた。
役員たちの刺すような視線を感じながら、山際と園田は顔をあげた。




