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異世界転移の英雄、光の冒険譚  作者: 珠希 林檎
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第五話 村の人々




 俺、空賀理人(くがりひと)19歳。何故か分からないがゲームそっくりの世界に来てしまった。そしてその異世界で今、俺は、モテ期を迎えている。


 ──調子乗りました、すいません。


 状況を説明しよう。村の中の少々拓けた広場のような場所で、俺はそこそこの人数の村人に囲まれている。


 何故そうなったかというと、村の人であろう一人のマダムが俺の姿を見るなり、大声で村の人達を呼び始めたのだ。そして、何事かと集まって来た村の人達が、俺を見て感心したり興奮した様子でずいずいと迫って来る。結果、コスプレイヤーに群がるカメコのような構図が出来上がったというわけだ。

 が、村人達が俺を興味津々に見つめてくる理由はサッパリ分からない。疑問符を浮かべながら狼狽えていると、先程大声で村人を招集したマダムが話しかけてきた。


 「ねぇねぇアンタ!本物の剣士さんなんだろう?魔物をやっつけるのも朝飯前らしいじゃないか!」


 「え〜と……。」


 思わず言葉につまる。見た目は剣士そのものだが、腕の方は全くの素人ですとはとても言い難い状況だ。


 「ま、まだ剣士になったばかりの見習いみたいなモンなんで俺…。」


 「なぁーに言ってるんだい!剣士になれたってだけで凄い事なんだから。もっと自信持って、しゃんと胸を張りよ!」


 バシン!とマダムに背を叩かれる。

 ゲーム内じゃ剣士なんて初期ジョブで、ぶっちゃけ誰でもなれる。だがそれはあくまでプレイヤー補正であって、現実的に考えれば一般人からして剣を振るい魔物と戦うという事自体が凄いことなのかもしれない。


 まさかこんなに持て囃されるとは思っておらず、先程までの追い出されるなどという考えは杞憂だったと、少々良い気分になっていると、一人の男性が前に出て来た。


 「なあ剣士さんよぉ、こんな辺ぴなトコにあるような村に一体何しに来たんだ?」


 「それは──…。」


 突然この世界に飛ばされたのでそもそも何にも知りません、なんて口が裂けても言えない。しかしこのまま黙っていれば村人に不審がられてしまう。何かないかと考えを巡らせるうち、脳裏にふと浮かんで来たのは、巳影とミトラの顔だった。


 (───…そうだ、俺がちゃんとしないと。俺がアイツらを守ってやらなきゃ。)


 分からないなら分からないなりに、今俺にしか出来ない事をやるべきだろう。

 俺は姿勢を正すと、村人達を一度見回し、自分の前に立っている男性の目を真っ直ぐに見つめながら言葉を発した。


 「……あの。俺を、この村の傭兵として雇っていただけませんか?」


 「あ?」


 「魔物退治は任せてください。雑用だってやります。その代わりに、どうかこの村に住ませてください。」


 お願いします、と深くお辞儀をする。

 村人達はポカンとした表情を浮かべると、村人同士顔を見合わせる。少しの間の後、男性の大きな笑い声が響いた。


 「ハッハハハハ!剣士の方から頭下げてお願いするなんて聞いた事ねぇよ!」


 「え。」


 今度はこちらが呆気に取られていると、男性の腕が俺の肩に回され体重を掛けられる。


 「剣士っつーからには、もっと偉そうなヤツなのかと思ったぜ。ちょいとばかし頼りねぇが、気に入ったぞボウズ!!」


 「アンタも意地悪だねぇ。剣士さんが村の護衛以外に何しにくるってんだい。」


 「村の守り人に見せかけて村を乗っ取るヤツもいるらしいからな。まっ、コイツはハナからそういう事するヤツにゃ見えなかったけどな!」


 ガハハと豪快に笑う男性に、呆れ笑いするマダム。


 (───ああ、何とかやっていけそうだな。)


 村の雰囲気も十分に理解出来た所で、俺は村の人達に改めて自己紹介をする。


 「改めて…俺は理人って言います。これから宜しくお願いします。」


 「何だよ堅っ苦しい!俺はダイアスってんだ、武器の整備関係は任せてくれよな!」


 「アタシはメルゼナさね、お裁縫が必要ならアタシに言ってちょうだい。」


 「私はマルーナよ。」「僕パルク!」「私ペリエ!」「ア、アストア。」「わたしエリーナ。」「ナバムじゃ。」「おれレガート!」「エウリーヌよ〜。エウちゃんって呼んでね〜。」


 「ちょ、ちょっと待ってくれ、いっぺんに言われても覚えられないって。」


 「そんくらい覚えろよリヒト〜!!」


 「これっ、レガート!剣士さんに生意気な口きいちゃダメでしょ!」


 ポコン、とレガートと呼ばれた少年の頭にコブシが一つ落とされると、ワハハ、と笑いが起きる。


 穏やかな日常に、俺は思わず笑みを零す。

 暖かく、けれどどこか切なくなるような気持ちを覚えながら、俺は出来る限りこの村の人達を、この村の平和な日々を守りたいと強く思った。


 ──案外、ミトラの事も受け入れてもらえるかもしれない。

 話せばきっと分かってくれるだろう。まずは彼ら村人達のことをよく知ってから、ある程度の信用を得てからだ。


 どこか自信過剰になりながらも、俺は今後の生活について考えるのだった。



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