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異世界転移の英雄、光の冒険譚  作者: 珠希 林檎
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第二話 こんにちは、異世界




 「────ん…。」


 少しの寒気を感じ、眠りから起こされた俺はあまりの眩しさに顔を顰める。寝返りを打とうとして横についた手には、ソファとは全く違う感触が広がる。

 謎の違和感を感じ、ゆっくりと目を開けると、眼前には青々とした草が生い茂っていて。


 「…えっ!?」


 勢いよく上体を起こすと、辺り一面に木々が生えており、小鳥のさえずりやよく分からない生き物の鳴き声が聴こえるという、これぞまさに大自然ど真ん中という景色が広がっていた。


 「どこだよ、ここ…。夢…か…?」


 頬でもつねろうと右手を上げるが、何やら妙な重さを感じて視線を右手に移す。右手には銀色の篭手(ガントレット)が装着されていて、左手も同様に篭手(ガントレット)で覆われていた。


 「な、何だよこれ、俺の…手か…!?」


 両手をワキワキと動かす。「…うん、問題なく動かせるから間違いなく俺の手だ。」と独り言。

 両手でベタベタと自分の身体を触り、忙しなく視線を移す。

 無地の長袖の上には簡素な胸当て、長ズボンに膝下までのブーツを身につけている事はひとまず分かった。そして足元には鞘に収められた長剣が置かれている。


 「これ、ファンタジア・ゲート初期ジョブの剣士の格好だよな…。」


 それが分かったところで、現状がどういう事なんだかサッパリ理解出来ないのだが。何でこんな場所でコスプレしているのかも、まるで見当がつかない。


 「夢にしちゃリアル過ぎるし、テレビ企画のドッキリとかか…?」


 とにかく、ここで独り言を言っていても仕方がない。置かれた長剣の鞘に付いている紐を掴み、肩に掛けながらその場から立ち上がる。


 さぁっと爽やかな風が木々を吹き抜け、まるで道案内をするかのように草花が波を打つ。青草の柔らかさを靴越しに感じながら、ゆっくりと歩みを進めた。










─────────────────









 一時間程は歩いただろうか。生えている木も段々太く高くなってきており、森は薄暗さを増していた。


 「これ迷ってるよな…?遭難とか冗談じゃないぞ。」


 最初こそ観光気分で景色を楽しんでいたものの、その余裕は段々と消え失せていった。装備品の重さに加え、日頃の運動不足が祟って既に足がだるい。

 少し休憩するか、と腰をかけられそうな場所を探していると、突然叫び声が上がる。


 「うわーーっ!!来んな!来んなって!勘弁してくれよ〜!!」


 「ん?この声…女の人か?」


 急いで声のした方角へと走って行くと、木々の隙間から一人の女性の姿が見えてきた。


 「おーい!大丈夫か!!」


 「!?だっ、誰かいるのか!?こっちだ、早く助けてくれ〜!!」


 「分かった、すぐ行く!!」


 どうやら女性もこちらに気づいたらしい。が、視線は俺の方には向かず、何やら枝を目の前の何かに投げつけている。


 「一体何を───」


 女性の近くまで駆け寄り、彼女の視線の先にあるものを確認する。


 「───なっ…!?ルビーアント!?」


 そこにはファンタジア・ゲートではお馴染みの雑魚モンスターが一匹、こちらに向かって威嚇をしていた。

 ルビーアントとは、体長50cm位の大きな蟻で、ルビーという名前がついている通り腹部が真っ赤な宝石のように輝いているモンスターだ。ゲーム内では最序盤の雑魚モンスターだが、頭部を狙わなければダメージが入りにくいという面倒な性質を持っているのも特徴だ。


 「ホンモノか…?作り物にしちゃあすげぇ良く出来てるが…。」


 「作り物ならとっくにぶっ壊してるわ!オレさっき本気で噛まれたぞ!」


 そう叫ぶ女性の右ふくらはぎには二つ小さなが空いていて、その場所からやや流血していた。


 「…って、おいお前!理人か!?」


 突然女性が驚きの声を上げる。


 「そうだけど…何で俺の事知ってるんだ?」


 「オレだよ、オレ!巳影!!」


 「はぁ!?!?」


 俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。目の前にいるのはどう見ても普通の女の人だ、俺の知っている巳影とは似ても似つかない。


 「目が覚めたらこの姿だったんだよ!…いや、今はそんな事よりもだ!理人、剣持ってんならこんなやつパパッと倒しちまえ!」


 ハッとして俺は目の前のルビーアントを見た後、背中の剣に視線を移す。念の為に持ってきてはみたが一度も鞘から抜いた事はなく、これが本物なのかどうかすらも分からない。それに何より、当たり前だが剣なんて扱った事など一度だってある筈も無い。

だが───


 「ええいクソ!やってやるよ!」


 四の五の言っている場合ではない。柄を握り、鞘から引き抜く。シュリン、と金属の擦れる音が響き、鋭利に光る刀身は間違いなく剣が本物である事を証明していた。


 「お、オレも援護すっからな!行くぜ理人!」


 巳影と名乗る女性が木の棒を片手に、先陣切ってルビーアントに殴りかかる。援護とは。

 ルビーアントの頭部に振り下ろされた木の棒は、バキッ!という音を立てて綺麗に真っ二つに折れた。


 「ウワーーーーー!?!?」


 「馬鹿かお前は!!!」


 実にアホな行動だったとはいえ怯ませる事には成功したらしい。怯んで後退りしたルビーアントを、片手剣でたたっ斬る。ギィィ、という短い悲鳴と共にルビーアントは霧散し消滅した。


 「ふっ、これがチームワークってやつよ。」


 「あんなバカなマネするあたり、お前ホントに巳影なんだな。」


 まあ結果的には無事倒せたし、怪我の功名ってヤツだったが。


 「だからそう言ってるじゃねーか。……つーか、それよりもお前ぇ。その装備どうやって揃えたんだよ?」


 巳影はプンスコと不満そうに怒りながら俺を指差す。


 「え?ああ、いや…気づいたらこの格好だったんだよ。そういうお前は──」


 セミロングの茶髪にボロいワンピース、靴。左手には折れた木の棒。以上。


 「ブハハハッッ!!!」


 「おまっ、笑うな、コラ!」


 「ハハハハッ!だ、だってよ、お前、よりにもよって村人かよ!オマケに女だし!!」


 「うっせーなーも〜!!バカ!」


 巳影は俺に肩パンを一発入れ、床に置いてあった束ねた枝を抱えて一人歩き出した。


 「あ、おい、巳影。どこ行くんだ?」


 「村に帰るんだよ、オレん家。」


 「家ぇ?……あー、村人だもんな、そりゃ家くらいあるよな。 村 人 だ も ん な 。」


 「お前もう絶対オレん家入れてやんねー!!」


 「冗談冗談。悪かったって、拗ねんなミカちゃん。」


 俺は軽く謝罪しながら、構わずずんずんと前を歩いていく巳影の後を追う。茂みからこちらを覗く、一つの影の存在に気づかないまま───。



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