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仕事も終わり帰ろうとしていた時後ろから抱きつかれた。誰かなんて聞かなくてもわかる。
「何か御用?」
振り向きもせず、彼から逃れようと頑張る。
「さぁや、ご飯食べに行こう♪」
声を聞いてやっぱりと思った。
「名前で呼ばないで。それに私の名前は沙耶よ。」
彼はいまだに離れない。
「今日のさぁやはいつもに増してご機嫌ナナメだな。なにかあったのか?話なら聞くよ。だから今日は俺が行きたいところね。」
私の頭を撫でながらいう。
こんなことされてなんだけど、心地がいいと思う自分もいることに驚く。
「離れて頂戴。」
そんな自分の気持ちに蓋をしていった。
頭の中は今日聞いた秘書の声・・・
『信雅さんの婚約者』
「こんなところにいていいの?」
出来るだけ平然を装って言う。
彼の反応は首を傾げるだけ・・・
なんとなくムカついた私は、叫んだ。
「今日は冷泉さんとデートなんでしょう?こんなところで油を売っていていいの?」
すぐにでも涙が出るような瞬間まで私は興奮していた。
「誰それ??」
聞こえてきた声は、いままでに聞いたことのない冷めた声だった。
「あなたの婚約者様よ。」
しかし私はひるまずに言った。
「俺に婚約者がいた経験はないけ??さぁやは一体誰のことをいっているわけ?」
口調はとても優しいでも目がすごく怖かった。
彼が怒っているのがすぐにわかる。
「社内で噂になっているわよ。それに、私は本人が言っているのを聞いたんだから」
なによ、このセリフまるで私がこの人の彼女ですって言っているようなものじゃない・・・
でも、ここまで言ったら引けない。
彼は少し考えていた。
ほら、やっぱり心当たりがあるんじゃない。
そう思ったが声には出さなかった。
さっきの瞳をもう一度見る勇気はなかった。
「それって、秘書課の人??」
ぼそっといった彼
「そうよ。」
やっぱり・・・私はそう思い素直に彼に答えた。
「へぇ~彼女バカだねぇ~でも、さぁやちゃんがやきもちやいてくれたからお礼を言うべきか?」
彼の瞳にはさっきまでの怒りはなくなっていた。
そのかわりいつもの小悪魔が覗いていた。
「だ・・・・誰がやきもちですって!!」
彼の思いがけない言葉にあせった私はたぶん顔が真っ赤だろう。
そのとき彼の顔が近づいてきた。
私はしゃべることに一生懸命でそのことに気付くのが遅かった。
気付いたときにはすでに、唇と唇が軽く触れるだけのキスは終わっていた。
「違うの?」
彼の頭に小さな角が見えた気がした。
「な・・・当たり前でしょ」
よかった、いつもの彼に戻っていた。
私の反応を見てすごく嬉しそうに笑っている。
なぜかほっと安心している自分がいた。
「まぁ、いまはいいや。ひとつだけ言っておくよ、俺が今気になっている女性はさぁや、君だけだよ。」
にっこり微笑む彼
「う・そ・だ!!」
私は彼に思いっきりいいきった。
「う~ん、信用ないなぁ~」
ちょっと困った様子の彼
そんな彼に少しひるみそうになる私・・・
「自業自得じゃないの?」
私は少しだけ残っている自制心を使って言った。
そうすると彼は 真面目な顔をして語りだした。
「言っとくけど、女を抱いたことないとはいわないけど。社内の女と身体の関係を持ったことはないよ。もちろんその他でもね。俺は少なくとも好意を持っている相手としか一線を越えることはしないなぜだかさぁやならわかるだろう?」
まるで自分と同じように、容姿で苦労しているのだろう?と言いたげな様子。
正直否定するつもりはない。
まさにそのとおりなのだから・・・
「関係を持つと勘違いする人が多いから?」
正解といったようなジェスチャーをする彼
私たちは会社近くの公園のベンチに座っていた。
道端 長々と話す内容じゃないし、会社の人たちの好奇心の元になるようなことも避けたいからだ。
「今まで関係を持った人は少なからずともあなたは好意があったってことね。」
彼があまりにも真剣に話ので私も真剣に自分の意見を言うようにした。
私は、少なくとも好意のあった女性が他にいるということにショックを受けた。
「もちろん。といっても高校から付き合っていた彼女が最後かな。それまでは、好奇心もあった。それは否定しない。しかしそれも大学生ともなるとそれなりに真剣に付き合うようになっていたそれが最後の彼女だ。」
ズキンッっと心が痛んだ。この痛みには覚えがあった。二度と思い出したくない痛み・・・
「その人とは?」
私は痛みを気のせいにして話を促した。
「大学で就活をしている時にいわれたんだ。どうして、孫なのに試験を受けるの??ってな。俺は親の七光りで仕事をしたくなかった。それにそのときはじー様の跡を継ぐかも決めていなかった。だから、彼女に素直にそう言ったんだ。わかってくれるということを前提に・・・しかし彼女の考えは違った。跡を継ぐと思ったから 俺と付き合っていたんだと。俺と付き合った6年は無駄とまでいったんだ・・・」
泣いている・・・本能的にそう思った。
表面で泣いていないが心が泣いているそう思った。
「その女バカじゃないの。そんな女を見抜くことなくつきあった。あんたもね!」
私は隣にいる彼の前に立ち前から包む形で抱きしめた。
「ってゆーか私もかな。」
彼に聞こえないくらい小さな声で私は一言呟いた。
「容姿もだけど、中身もしっかり詰まってるじゃない。そりゃー口悪いし、強引だし?たまにガキっぽいけどさ・・・」
私は思いつくだけ彼の悪口をいった。
「おいっ!!」
彼が止めるまで・・・
「6年の一緒にいて、本音を見せれなかったってところね。」
私の言葉に
「そうかもな」
と苦笑いをする彼
「この会社に入ってからは正直女と遊ぶなんて気力はなかったよ。仕事終わったら帰って寝る。しか考えてなかった。」
そんな彼の言葉に私はニッコリと
「サトは普段はあぁだけど、仕事には厳しいからね。」
サトと私は学生時代からの友人だった。
だからわかる彼がどれだけ仕事を大事にしているかを・・・
「それも理由の一つだな。女にはこりごりと思っていた自分もいたよ。で、お前はどうなんだ?残念ながら耳元で呟かれたらどんなに小さくても聞き取れるんだよ。」
いきなりの彼からの問い・・・
「聞こえてた?そうね、あなたとほとんど一緒かな。信じていた彼に裏切られた。だから信用なんてしないそう思っていた。この間まではね。」
意味ありげに微笑む私。
そう思えるようになったのはあなたのおかげかな。
どちらがというわけではなく私達はお互いに顔を近づけていた。
最初は軽く・・・2回目からは徐々に深く・・・
しばらくお互いを求め合っていた。
私達は顔を見合わせた。お互いに肩で息をしていることがわかるとなぜか笑いが込み上げてきた。
「さて、ご飯食べに行きましょ。今日はあなたのおすすめのお店に行くんでしょう?御曹司!!」
彼から離れて言った。
「ちぇっ、はじめてあんたやあなた以外が御曹司かよ・・・」
拗ねている彼の腕を取って私は歩き出した。