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ヒルトブルクの狂人  作者: 愛飢男
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少将閣下の探し物と、光輝く問題児

リベルシュタイン王国魔獣討伐特務部隊は、設立より2年ほどの新設部隊である。王国は近年増大する魔獣被害の対策のため、辺境の村で魔獣と隣り合わせの生活を送る狩猟の民を集めつつ、軍や士官学校の指揮官との混成で、魔獣討伐特務部隊を編制した。管轄省庁は魔獣対策局である。その歴史は極めて浅く、部隊としてはまだまだ新設の実験部隊の性格が強い。


実験部隊として試行錯誤の最中にあるという事情から、彼らの装備や戦術は、地方や部隊によってかなり色合いが異なる。南部のラーゼン湿地帯近隣に展開する部隊と、西部のベスタス高原地帯に展開する部隊では、とても同じ組織とは思えないほど装備も戦術も異なる。


とはいえ、国家として予算をつけた組織である以上、いつまでも全部隊がバラバラに活動するわけにも行かない。将来的な発展のためには、組織的な情報共有と熟練度の向上に取り組まねばならない。


王国国軍には、組織的に士官を教育する国軍士官学校、下士官・兵を教育する国軍教育隊が存在するが、新設部隊である魔獣討伐特務部隊には、魔獣討伐に特化した士官・下士官の教育機関が存在しない。


よって、特務部隊の士官は軍や士官学校より調達している。軍の要員は対人間、対部隊を想定した教育を受けてはいるが、対魔獣戦闘については素人と言ってよく、従っていつまでもこれを続けているわけにもいかない。


政治的にも都合が悪かった。軍はあくまで国軍局管轄の組織であり、魔獣対策局としては国軍局の影響を早期に排除したい。


このように、魔獣討伐特務部隊は、部隊の統一性のなさ、指揮官の対魔獣戦闘の知識の欠如、政治的な依存性の高さ、人材調達の困難さという問題を抱えている。


この問題を解消する策として、魔獣対策局は独立した教育機関を設立することを目指し、目下のところノウハウの組織的な蓄積を行っている。


つまり、最前線の現場で戦闘しつつ、装備を開発し、実戦で試験を重ね、装備や戦術のレポートを部隊報として中央の魔獣対策局に送り、ノウハウを蓄積して各部隊に共有する、という活動を組織全体で継続しているというわけだ。


国中に展開する討伐部隊全体で見れば、まだまだ組織としての課題は山積しているが、最前線の討伐部隊には、悪いことばかりでもなかった。


実験的な部隊であるため、作戦展開はある程度自由に行える権限を持っている。前線で戦いながら開発を行うという性格上、開発を行う人員と予算がある。歴史的に浅いため、士官の発想が硬直化していない。発展途上でノウハウの蓄積を急いでおり、それぞれの部隊の作戦展開の工夫が、迅速に共有される。


そんな背景もあり、魔獣討伐特務部隊44中隊とイエナ防衛隊による大型魔獣討伐共同作戦の概要は、すぐに魔獣対策局中央に報告され、全国の特務部隊に展開された。


「王国紀235年4月13日、イエナ郊外にて防衛部隊と共同作戦を展開。

後背より中型魔獣の群れの襲撃を受け交戦開始。交戦中、大型魔獣に遭遇、部隊は混乱して戦闘継続能わず。

隊長ベン=ゾブリスト中尉、小官、フェリックス=ブロワ曹長の3名、大型の囮となり部隊を後退せしめ、損害を回避す。

隊長戦死するも、小官にて指揮を代行し戦闘を継続。中隊独自に開発した試作兵器、轟音閃光弾により大型を無力化せしめ、討伐を果たす。なお、該当兵器の詳細は別紙を参照されたし。

後退した本隊は後詰めのイエナ防衛部隊と合流、損害極めて軽微。ひとえにゾブリスト中隊長の英雄的行為と、指揮の適切なるに依る所大なり。

戦果 猪型大型魔獣1頭

損害 戦死1名 重傷なし 軽傷1名


なお、該当作戦終了後、イエナに賊の襲撃あり。領主の援軍要請を受けるも、対人戦闘は任務外に当たるため、正面戦闘を回避す。

農場にて牛を徴発して約500の賊に突撃せしめ、これを壊滅す。

戦果 賊討伐数432 捕虜数 20

損害 なし


報告者 44中隊 レオン=シュローダー中尉」



「だそうです。こちらにはイエナ領主、ルーク=フランソン男爵による、シュローダー中尉の大尉昇格の推薦状、隊長継続の嘆願書。男爵閣下は顔も知らない指揮官より、気心知れたシュローダー中尉に隊長を任せることを強く希望しておられます。また、街の英雄であることを勘案して欲しいとも。人事部としては、ゾブリスト中尉の後任としてシュローダー中尉の隊長継続を後押しせざるを得ないと考えております。なんせうちは不人気部署で、熟練士官の補充もままなりませんからな。」


装飾ひとつない殺風景な会議室で、魔獣対策局人事部長、シュミット=バークレイズ中佐が忌々しげに吐き捨てた。人事部長という立場の彼にとって、要員の、特に士官の補充は常に頭の痛い問題だった。彼の言う通り、魔獣討伐特務部隊は不人気部署に違いなかった。


国軍士官学校で高度な軍事教育を受けた者にとって、歴史ある国軍は勇敢な戦士の集う花形部署。魔獣討伐特務部隊はまともな戦士の行く場所ではなく、隠れてコソコソ伏撃するマタギもどきの集団という認識だった。


中には、上が詰まったしがらみだらけの古い軍組織を避け、新しい組織、しがらみの少ない組織に出世の道を求める者もいた。しかし、そのようなよく言えば新進気鋭、悪く言えば変わり者は多くはない。


必然的に、要員補充、特に士官のそれは、毎度困難を伴うものになった。


「悩ましいところです。この報告、いささか疑わしいところがあります。少なくとも私が知るゾブリスト中尉は、イエナの街において狼藉を繰り返し、監察部に苦情が殺到していた問題児でした。報告書にあるような英雄的自己犠牲など進んで行う人物ではなかった。そして報告者はあの問題児シュローダー中尉となれば、文面通りに素直に受け取れません。」


監察部長、オットー=ゲーリッツ中佐が疑問を呈する。疑いの目で見ることが彼の仕事であり、その意味で彼は職務に忠実だった。ゲーリッツは、レオンの士官学校時代の問題行動の数々を知っていた。彼はその当時、国軍士官学校の教官だった。


「作戦本部としては後押ししたいところではあるがな。44中隊における戦術や特殊装備の数々は、ほとんどがシュローダー中尉とブロワ曹長の発案だという。44中隊は討伐数においても装備発案数においても戦術発案数においても全部隊中で群を抜いており、損害も極めて少ない。ゾブリストが噂通りの問題児だったとすると、部隊の功績はシュローダー中尉の寄与が大きいと見ることもできる。資格は十分だと思う。」


作戦本部長、ハンス=ミュラー少将は、その独自の立ち位置から意見を述べる。この場に集まる上級将校はみな平民出身であり、政治的には平民派に属する。専横きわまる貴族の勢力を削ぎ、平民の権利拡大と地位向上を目指す勢力である。新設で利権やしがらみの少ないこの魔獣対策局は、彼らの勢力を拡大するうってつけの場であると位置づけており、そのために長く所属した軍を抜けて、わざわざ魔獣対策局に転籍して来たのだった。


彼はこの魔獣討伐特務部隊が設立されてからずっと、あるものを探していた。全国から届く報告書に、最も注意深く目を光らせていた。彼は早くから44中隊の特異性に注目していた。討伐数と損害数、装備発案数、戦術発案数において、44中隊は他の追随を許さぬ圧倒的な数字を叩き出している。しかし、真価はそこではないと彼は考える。


ある時、44中隊は遭遇戦で多少の損害を出した。奇襲伏撃を基本とする特務部隊にとって、遭遇戦は専門外である。44中隊は1週間後には戦術的対策を打った。すなわち、遭遇戦時は無理に戦闘せず、小隊単位の後退射列を組んで、相互に援護しながら後退するという戦術を編み出し、損害を軽減した。さらに1ヶ月後には、遭遇戦で使用する数々の試作品を実戦投入した。魔獣の勢いを止めるスパイス弾、閃光弾、轟音弾、爆竹、発煙筒、臭気煙幕などはこの時考案され、すぐに組織全体に共有された。


これらの戦術や装備の考案には、常にシュローダー中尉が関わっていた。ミュラーはその事実にずっと注目していた。


「閣下のお考えは分かっておるつもりですが、少し焦りすぎではありませんか?あれは目立つかもしれませんが、悪目立ちが過ぎるところもあります。悪い方向に出た場合、魔獣対策局の政治的立場が苦しくなります。」


ゲーリッツが懸念を表明するが、ミュラーはすぐに反論する。ようやく、ようやく見つかった。


「確かに問題はあるのかもしれない。だが、人品はともかく、数字を見ろ。討伐数はトップ、被害数は最少。戦術発案数、装備発案数も数知れず。これだけ後押しできる材料が揃った人間がどこにいる?」


「しかし閣下.....」


ゲーリッツがなおも食い下がろうとするが、ミュラーは畳み掛ける。


「人、とにかく人だ。人が足りぬ。人は組織の力だ。組織の力は政治の力となる。なればこそ、我々は急ぎ人材を集め、育成する必要がある。人を集めるのに手っ取り早い手段は何だ!?」


ミュラーの言葉に熱がこもる。ようやく見つけたのだ。


「英雄だ。英雄を作り出すのだ。人は英雄に憧れ英雄の元に集う。未だ若い平民の彼を英雄として担ぎあげれば、人民は触発されて我先に集まるだろう。我々の手で彼を英雄に仕立て上げるのだ。」


ミュラーはずっと探していた。英雄たる器を。

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