鳴宮渚の妖刀
同じことの繰り返しに疲労の色が濃くなる。
たった三人で戦線を維持し続けるのも長くは続かないことくらい、三人とも十分に理解していた。
芽衣を助ける為に我が身の安全を投げ捨てて駆け付けた瑠依。初めてできた友人をみすみす失わせる訳にはいかないと、続いた沙羅。
三人とも個人の実力は高く、一騎当千の活躍を見せていたが、体力面で見て、沙羅は一般人以下しかない。芽衣と瑠依も剣士らしくタフではあるが、息が上がってきている。
「あぁ、もう! 面倒くさい。援軍はまだ到着しないの?」
肉体と精神面が不安定になり、集中力が途絶え――魔術は霧散した。
諦めた訳ではないが、有効打がない状況に辟易し、大きなため息を吐き出した。波多江姉妹も同様に、手に力が入らず、刀を気力で指に引っ掛けて、切っ先を揺らしながらも異形に向けている状態だ。
「お姉ちゃん」
「大丈夫よ、芽衣。貴女は、私がちゃんと守ってあげるからね。そこの魔術師は自力でなんとかなさい」
「言われるまでもないわよ」
とはいったものの魔術を展開するだけの魔力も集中力も無い。魔力路には捻り出した僅かな魔力が流れる程度。魔術の行使はおろか、魔術展開さえ不可能だ。
そんな時だった。
大きなクラクションが遠くから近づいて来る。
「ルーガン?」
車の装甲に何かをぶつけ――吹き飛ばしながら、その赤い液体をぶちまけたような車体は、ドリフトしながら、車体後部を『魔』に叩きつけて停車した。
「やぁ、存命で嬉しいよ。沙羅殿」
「もう少し、早く来なさいよ」
「そうしたかったんだけどね。アダムが表れて、えっと、稲神聖羅殿とアレッタ殿が二人係で相手をしていて、『魔』の軍勢を割って道を作るのに、手間取っていたんだ」
「また、アダム。アイツ等、諦めたんじゃないの?」
「アレッタ殿の参戦が気に入らなかったみたいだ。あの三人の周囲は悲惨な状況だよ」
世界を相手に戦争を仕掛けられる実力者が三名。全力でぶつかり合えば日本なんて一瞬で沈む。周囲には繁栄させるべき『人類』がいる分、聖羅はともかくアレッタは十全の実力を発揮できないはずだ。
「それで、ルーガンが助けに来てくれたわけ?」
「俺もいる」
後部座席からは無表情だが、安堵の色を浮かばせた津ケ原永久理。
「私達を忘れてはおるまいな。稲神沙羅」
「そうだヨ。僕は戦争を楽しみたいんダ。こんな戦場の中心地に出向かない理由はないネ!」
永理に続き、鳴宮渚と張紅露も姿を見せた。
「だいぶ魂を溜め込んで来た。二回くらいなら魔術を使える」
聖櫃である正四角形体の継ぎ目のない箱を取り出した永理。
溜め込んだ魂は異形のモノだろう。数に物を言わせる『魔』の軍勢が相手であれば半永久的に永理は魔術を使う事が出来るのだ。魔術領域内の魂を、有無を言わさずに抜き取ってしまう、不老不死を理論とした永理の魔術。
「へぇ、それは心強いわね。統括者として命令するわよ。いい?」
「もちろんだ。俺はお前を支える為に居る。稲神沙羅の繁栄は俺達、魔術師にとっての希望となる。俺の在り方の為に従う」
彼の忠誠は魔術の人類の繁栄。
稲神沙羅との関係は友人であり、良き相棒だ。年頃の少女の話題に付き合えるほど器用でもないが、沙羅自身は年頃の少女にしては珍しく、趣味や趣向が無い。その面で見れば話題も無いが、二人は程よい距離を保って、喋りたいときに喋る関係性が心地よかった。
魔術組二人から少し離れた場所。
「芽衣、よく頑張ったの。そなたのお陰で、多くの者達が救われた」
「いえ、私はやるべきことをやったまでです。瑠依が来てくれなければ、私は今頃」
芽衣は異形に喰われた殿に挑んだ者達へ視線を向けた。
「喋っている時間はないヨ。早く、殺そう! もっともっと多くの死を振り撒くんダ。ここには殺していい命がわんさかダァ!」
呑気に話が出来ていたのは、周囲をルーガンが高級車の尻で異形を吹き飛ばし、張が偃月刀で嬉々として細切れ肉を作っていたから。
張のテンションは舞い上がって、オールバックにした長髪が縦横無尽に泳ぐ。彼の実力は今更に常軌を逸脱していた。自ら返り血を浴びに行く性根は、死に取り憑かれた異常者。
ルーガンも車内から楽しそうな声を上げて、エンジンを轟かし、地面にタイヤ痕を作ってドリフトを続けている。
「日本国の守り刀、その実力を発揮するかの」
『無明先見党』党首――成宮渚は、一振りの刀を鞘から抜いた。
音も無い抜刀に空気が引き裂かれる感覚を感じた。
刀身は誰もの視線を集める純真なる波紋。静寂という鉄を打って成したような性質を宿す刃は、刀剣に疎い沙羅やルーガンをも捉えた。
「銘を天津ノ威。鳴宮家に代々伝わる、時間の流れと共に切れ味を増す妖刀。無明先見党の誇りである三本刀のうちの一振り」
芽衣、瑠依、渚が持つ三本の刀こそが誇りの象徴。
これは、まだまだ分からないなと思った。
こんばんは、上月です(*'▽')
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