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現実と現実の境目

 終幕に降ろす命の猛り。


 瞳を閉じて、鋭利に反射する刀剣のような爪に首を落とされる間際――。


「お姉ちゃん!」


 異形の腕が伸びきる前――全身に命令を下す頭部と傀儡である身体が別ち、伝達経路を失った身体は前のめりに倒れ、風を切る爪は、喉元ぎりぎりを撫でて伏せた。


「瑠依、どうして、どうしてここに来たの。貴女には任された役目があったはず。それを――」

「片付いたから援軍に来ただけよ」

「稲神沙羅っ!」

「なによ」


 不満そうな沙羅は瑠依と共に異形の中に飛び込んできた。


 鈴を鳴らして周囲の異形を部位ごとに解体してまう。沙羅の魔術領域内に足を踏み入れていた瑠依は解体されず、また同じ『式神』である芽衣もまた異変を受け付けない。


 沙羅は当てつけるように、少々大きな舌打ちをした。


「稲神沙羅、今の溜息には、どういった意味が込められているのかしら?」

「知らぬが仏、よ」

「いっぺん、その心臓を穿ってやりたいのですけれど」

「まだ、問題はなさそうね。さぁ、やるわよ」

「はい! 沙羅ちゃん、お姉ちゃん。戦いましょう、世界の為に!」


 瑠依は共鳴破壊された仕込み杖を、労わるように足元に横たえさせ、コルセットスカートに差した日本刀を抜く――鏡のように曇りない刀身に映る瑠依の瞳。


 これは解体出来ないわけだ、と沙羅は呟いた。


 その刀にはモノとしての継ぎ目や部位と呼ばれるものが存在しなかった。その身一つで完成された、不純物が一切混じらない純鉄を鍛えた業物。


 芽衣の大太刀も同様の材質故に、共鳴解体による分解が成せなかった。


「言っておくけど、私の魔力を消費しているから、そう何発も行使できないから」

「情けないのね。魔術師という生業も。日本人でしたら根性くらい見せても、いいのではなくて?」

「うっさい! 魔術師は戦闘員じゃないのよ」

「あはは、まぁまぁ、お姉ちゃんも沙羅ちゃんも落ち着いて、ね」


 一番の年下に宥められ、芽衣と沙羅は渋々口論に幕を一度降ろした。


 『魔』の群れはまだまだ際限なく――街を埋め尽くしている。


 後続となる援軍の怒声が遠くから聞こえていた。


「波多江の剣閃、見極められるものなら、見極めてごらんなさいな」


 半身を引き、腰を低く落とした芽衣の刺突――銀影が真っ直ぐに伸びたかと思えば、並列する十三の『魔』の心臓部に風穴を開けた。


「波多江の一撃の下、必中絶命に伏してください」


 滑空する瑠依は、腕を交差するように左脇から一閃――十の首が宙を舞い飛ぶ。


 まさに一撃必殺の実力を目の当たりにして、これは負けていられないなと、魔力を再び魔力路に流し込んだ沙羅は、早口に詠唱を済ませて鈴を鳴らす――魔術領域を形作る複雑模様が淡く発光し、波多江姉妹と自分を除く、ことごとくを共鳴解体した。


「稲神沙羅、もう疲労の色が見えていらっしゃるようだけど?」

「疲れたわよ。あっちへこっちへと移動して、こうして鈴を鳴らしてるんだから」

「沙羅ちゃん、私が守りに着くから、少し休む?」

「ふん、無様ね」

「誰が休むってのよ! そういう姉こそ、後退したらどうなの。腕だって抉れてるじゃない」

「大きなお世話よ。腕はもう神経もくっ付いているので、ご心配なく」


 もう一度、鈴を鳴らす。


「――ッ!!」


 身体中の筋肉が硬直し、肺を圧迫した息苦しさに襲われた――もう体と精神が限界だった。だが、ここで芽衣の甘言に従って休むのも癪だった。


 今ここで無理をしないで、この先の人生、いつ無理をするのか。


 自分に喝を入れて立ち直る。


 指に引っ掛けた赤糸の存在さえ感知できない。自分はしっかりと立っているのだろうか。意識は朦朧とするが、まだ倒れる程でもない。


「全部、全部、邪魔なモノは解体してやるわよ。私の在り方を脅かす障害は、余すことなく綺麗に――」


 自分が何を口走ったのか分からなかった。


 とても冷たい淡々とした声音は、まるで他人の声のように聞こえた。


 瑠依と芽衣は戦場であるにも関わらず、ギョッとした目付きで沙羅を振り返る。異形も本能が何かを感じ取り、躊躇いに包囲網を敷く。


「私、いま、何を言っていたの」

「え、えっと、沙羅ちゃん」

「まるで地獄の底から囁く、鬼のようでしたわよ」


 脳がヒリヒリとする――思考回路が逡巡して、自分が何を考え、何に至ったのか、脳の処理が追い付かない。


「これって」


 沙羅の赤茶色の瞳は確かに視認した――現実から視界を外し視た――形あるものが存在しないパズルのピースが無限に散らばる宇宙のような空間を。


「精神障害でも、起こした?」


 そんなことは無いと自分で呆れながら否定した。これは現実だ。だが、本来の現実は何処へ行ってしまったのか。本来、自分が在るべき現実と、現在自分が在る現実。この双方ともを『現実』と例えるのならば、今ここにいない自分は現実なのだろうか。それとももう片方が現実で、自分は意識体か何かなのだろうか。


 現実にある中、非現実的な考えが過り、自分でも収拾がつかない理論に、溜息と共に、思考放棄を選択した。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は27日の23時くらいを予定しております!

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