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刺突一閃の太刀――波多江芽衣

 いくら倒してもキリがない『魔』の群れ。


 そして何より、『魔』の後方で見物している親玉の威圧は、今までに触れたことの無い薄ら寒さを感じる。


「早く怪我人を背負って、後退なさいな!」


 『無明先見党』が誇る最強の将――波多江芽衣。


 身の丈以上ある大太刀を、最低限の動きで、最大の威力と最小の隙を以て、敵の心臓部――果たして人間と同じ臓器配置かも分からないが、的確に突き刺しては薙ぎを繰り返していく。


 その刺突の速さは、切っ先一点を見極めれば回避が可能という領域の業ではない。息を付く間も無く、二十五の異形の胸に空いた風穴から血が噴き出す。


 波多江姉妹は一撃必殺の剣術を信条とし、『一刀断頭』の瑠依に対し、芽衣は『一刺心突』の業を得意とする。姉妹で斬ると突く戦法で、これまで多くの日本の外敵を屠ってきた。だが、その無明の先を見定める剣技も終幕を迎えようとしていた。


 そのことを誰よりも悟っていたのは、芽衣自身。


「不覚にも貰った一撃が、今になって剣技を鈍らせていますわね」


 芽衣の脇腹には、大きく裂けた衣服から赤黒い血で染まった肌が覗かせていた。普通の人間であれば致死量の出血にもかかわらず、己の身を軽やかに戦場を舞わせ、絶命の刺突を繰り出していた。だが、その無理な運動も際限なく可能なわけではない。


 視界がブレ初め、自分の体の一部のように扱っていた大太刀も、放り出したくなるほどの重量を感じさせていた。


 視界の端ではSFの最新技術――『鋼鉄の殺戮師団』三機が、苦痛に絶叫を撒き散らしながら異形の群れに呑み込まれた。


 『紅龍七』『無明先見党』の殿を名乗り出た勇士たちも同様に、その鋭利な爪と牙で切り裂き踏みにじられ、喰われていく地獄絵図を目の当たりに、生を『放棄』したくなってきていた。


「渚様も、そろそろ私をお役御免にしていただきたいものね」


 波多江姉妹は『不死身』だった――ファンタジーに生きる『不老不死』の永理達とは違う――『式神』という偽りの魂を込められて造られた傀儡。


 人ではないが人として扱ってくれた渚や仲間たち。


 彼等と共に日本の為に戦えた事は、芽衣にとっては本望であり、日本の為に死ねることは本懐だった。


 何一つとして心残りが無いと言えば嘘になる。


 妹の瑠依の今後の人生が心配だった。最愛の妹にしてたった一人の家族。最近になって 年相応の楽しい話題を聞くが、九割以上が『稲神沙羅』という新しく出来た友人について。


 姉としては、あんな『売国奴』の交友関係を認めるつもりはなかった。


 稲神沙羅と出かけた瑠依が、死体となって自分の目の前に運ばれた時は、憤懣の情を燃料に殺意を沙羅に抱いたほどだ。話を聞けば彼女は悪くはない。だが、それでも、やはり恨んでしまう。


 裏社会にその名を知らしめた実力を持っていて、どうして瑠依を守れなかったのか、と。


「でも、妹に出来た初めての友達ですしね。不承不承ですけど、認めてあげますわよ。その代わり、絶対に瑠依を泣かせない事。一人にさせない事。それが条件よ」


 この場に居ない沙羅に向かって語り掛ける。


 周囲の勇士を食べつくした『魔』は、満身創痍の芽衣を取り囲み、口元からはだらしがない食欲の唾液を垂らしている。


 彼等の吐く息からは、人間の臓腑と死を迎えた臭いを感じ取った。


「最期まで主演の剣舞を拝ませて、差し上げますわよ」


 見た目以上の重量を有する鉄鍛えの得物を構え、足元がふらつき、切っ先が対象の左胸から外れた。呼吸法で痛みを抑え、緊張を与えることで視界を回復させた。


「喰われるにしても、タダでは喰われない威勢を張らせてもらいますので、この身に牙を突き立てたい方は、私の牙を掻い潜って来なさい!」


 これは威勢ではなく虚勢だ。


 包囲を縮めていく『魔』は飢えたハイエナ。彼等からしたら自分は食べやすそうに映っているのか。そんな事をふと思ったりもしたが、その思考も飛び掛かった一匹に続く『魔』に打ち消す。


「――シッ!」


 右手で構えた大太刀――肘関節と足関節を同時に伸展させることで繰り出す刺突――異形の心臓を貫く。


 即座に横薙ぎに払って、すり足で円を書くと同時に、躱した異形の背後から心臓部に切っ先を貫かせる。


 身体に重みを感じるが、まだ異形の考えなしの攻撃を受けるほどではなかった。先程の気の緩みが許した自分の失態を叱責するつもりで、次々と攻撃を躱して反撃の一撃で絶命を与えていく。


 血飛沫に栄える剣舞に身を委ね、銀影を直線的に描いていく芽衣。彼女の演舞も刀が地を跳ねて終幕となった。


「ッ――やってくれましたわね」


 芽衣の腕を異形の爪が深々と肉を引き裂いた――抉り剥かれた筋肉は、めくれあがって皮膚から溢れ出していた。骨まで断たれていないのが幸いだが、これでもう得物を握る事が出来ない。


 屠った『魔』はざっと二百六十ほど。


 まぁまぁの戦果ではあるなと嘆息した。


「瑠依、人生を楽しみなさい」


 『魔』の爪が芽衣の首を撫でた。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は25日の23時を予定しております!

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