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脅威の気配

 逸る気持ちは刻々と刻んでいく。


 車道を埋め尽くし爆走する軍用バイクと装甲車。ルーガンが総理に申請して到着した戦車二十五台。上空には日本製の戦闘機十五機が共として参戦した。


 それでも、十分な戦力とは言い難い。


 先頭を切って走る高級車と鉢合わせた『紅龍七』『初夜に耽る子猫の吐息』『無明先見党』の者達。その大勢が重症を負っていた。まともに動ける者達は歩き、怪我人をバイクや車に乗せて運んでいた。


「『魔』の軍勢はどれほど侵攻しているのかな。それと、渚殿と張殿は」


 答えたのは『初夜に耽る子猫の吐息』女王――マグダレーナ。


「『魔』の侵攻は、波多江の剣士が数百の兵と共に抑えてくれてはいるけど、押され気味って感じねぇ。両名は無事とは言えないけれど、死ぬ程でもないのが幸運よね。あの車の中で手当てを受けているわ。その場しのぎの応急手当だけど、早く病院にでも連れて行ってあげたいのだけれど」


 情報の伝達によって都市はパニックに陥っているはずだ。


 怪我人も多く、病院は何処も手いっぱいだと予想は付く。そんな時、バックミラーに映った銀髪の女性――アレッタが、装甲車を降りた。


「怪我人はどちらですか?」


 会話に割って入ったアレッタに、マグダレーナは疑問を浮かべた。だが今は詳しく話している時間はないので、強力な助っ人だと沙羅は簡単に告げ、渚と張が手当てを受けている車を指さす。


 歩道を形作るアスファルトが突如隆起して、そこから多様な草花が顔を覗かせた。その花弁や茎を手折り、車の扉を開けて乗り込んだ。


「あの人は、稲神さんの同業者の方かしらぁ?」

「そうよ。二人の事はあの人に任せて、私達は瑠依を追って加勢しにいく。マグダレーナさんは、このまま怪我人を受け入れてくれる病院に搬送して」


 沙羅の指示に頷いたマグダレーナは、子猫達に先導させ、怪我人を搬送させた。残ったマグダレーナと、女王に付き従う天使のような容姿をした少年達。


「搬送はウチの子猫がいれば十分でしょう。墨田区と言っても広いから、正確な場所を案内するわぁ」


 上空を旋回している戦闘機が、何かに引き付けられるような動きで陣形を崩し、何処かへと飛び去ってしまった。隊列を乱す彼等の動きに、沙羅は説明のつかない不気味さを感じていた。


「嫌な気配がするなァ。クク、アダムの奴、帰り際に面倒な置き土産を残していきやがったな」

「置き土産って何よ!? まさか、あの戦闘機の行動と関係あるっていうの?」

「あるだろうよ。戦闘機が水平移動するはずがないだろ。まぁ、私はSFには疎くてね。最近のSFに、平移動する戦闘機を作る技術が存在するのなら、私の思い過ごしだろうしな」


 気配と言っていた時点で、思い過ごしもないだろうと思った。


 自分には何も感じないが、聖羅と治療に取り掛かっていたアレッタの表情から見て、何かしらの存在を感じ取っているのかもしれない。


「流石に堪えたネ。久しぶりに痛みを感じたヨ。あぁ、そういえば、この間、渚の鉄拳を受けたばっかりだったネ! あはは」

「戦場に酔いしれて歯止めが利かなくなる主のせいで、一体どれほどの仲間を失ったとおもっておる」

「僕が生きているからそれで構わないヨ。実力も無い奴が悪いんダ」

「本気で、言っておるのかえ」

「もちろんダ。だってそうだろ。己の技量に見合った働きに徹していれば、余計な被害を被ることなく、個人の性能を活かせたはずダ。それが僕は、特攻だったってだけだヨ」


 アレッタに遅れて降りて来た張と渚は、険悪な雰囲気を混じり合わせていた。二人の仲裁に入ったのは、同じ立場に君臨するマグダレーナ。


 この状況を説明された二人は、ようやく自分の怪我が完治している事に気が付いた。


「すごい、この短時間で治したって言うの? でも、植物を手繰る魔術でどうやって」


 無限草花の魔術師――アレッタ・フォルトバインは、先程見せた草や花といった植物の猛威を振るう魔術を行使する。二人の怪我の具合を確認していない沙羅だが、きっとこんな直ぐにピンピンと活動できる状況ではなかったはずだ。その怪我を一瞬で治してしまう神秘の理論が不明だった。


 アレッタに視線を向けると、涼しい紫色の瞳と視線が合う。


「気になりますか。二人を治した奇跡を」

「えぇ、まあ。私も魔術師だし、謎は探求して解明したいから」

「日本の方は、やはり真面目ですね。これは簡単な理論です。薬学に魔術という神秘を織り交ぜた奇跡です。私の魔術理論は『成長』で、生物の進化を促す魔術が行使できます。治癒効果のある草や花の成分を掛け合わせて、新しい薬を調合する事も可能となるわけです」

「なんでもアリに聞こえるわね。『成長』っていうことは、媒体は人間や動物でもいいの?」

「媒体は理論と合致するものであれば何でもいいのですが、どうしてか、草花にしか私の魔術は適応できません。その謎は百数十年生きてきた今でも原因不明です」

「そう――って、こんな所で立ち止まってる場合じゃなかった!」


 本来の目的――瑠依を追って加勢する。


 アレッタとの会話を打ち切って、再び進軍の号令を出した。


 アレッタ、聖羅、永理、張、渚、ルーガン、マグダレーナ、沙羅は再び車に乗り込んで戦場へと距離を縮めていく。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は22日の23時を予定しております!

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