次代を担う希望の種
大田区は植物達の独断劇場と化していた。
この場に集った誰もが、自分の武勇をちっぽけなものと認識させられた。失われた多くの仲間や市民の為に、震えあがりながらも懸命に『魔』を打ち破っていたにも関わらず、突如として現れた銀髪の女性は、ほんの一瞬にも満たない時間で全ての魔を『枯渇』させてしまった。
「鈴木殿、あれも魔術なのかな?」
「ああ、旧時代から魔術師の頂点に君臨していた、魔術師の神秘だ」
手に持った『柊の花』を模した結晶体が魔術媒体かと思っていたが、それは大きな間違いだった。彼女――アレッタの魔術媒体は、魔術師の誰一人さえ想像することのできぬ規格外の代物だった。
「これは、まさか、都心に根付く全ての植物、なのか」
空を覆い隠す草木の天蓋――その伸び元を辿っていくと各方面から集っていた。
草木の根や枝が異形を正確に貫き、一瞬で栄養を吸いつくし、干乾びた皮だけへと成り果てた異形の群れ。こんな出鱈目が許されるほど、魔術という神秘は万能ではない。
永理は、アレッタが魔術を行使した姿を見たのは二度目だった。
一度目はまだ自分が小さかった時。
母――津ケ原透理がまだ健在だった頃だ。あの時はここまで大規模な魔術ではなかった。それもそのはず、アレッタが魔術を行使したのは、津ケ原透理の自己防衛力の向上を目的としたもの。本気でやれば、魔術師の常識を覆した母でも死んでしまう。
「これでも、まだ、本気ではないのか」
アレッタの涼しい顔つきを見れば、彼女が実力の何割も出し切っていないのは一目瞭然だ。
「『成長』する意識の無い者に待つのは、衰退の一途なのです。永理さん、あなたはあなたの『正道』を歩んでいますか?」
代々、『正道』を歩んできた津ケ原の家系に倣っているのか。そう問い掛けているのだろう。だが、永理にその質問に対する答えを示せなかった。
「俺は」
第三次世界大戦を引き起こし、大の命を救う為に小を斬り捨ててしまった。そんなやり方に『正道』なんてあったのだろうか。
「稲神沙羅さん。あの子もまた、悩みながらも自分の道を模索して歩いています。『外道』に相応しい自分のやり方で」
稲神は『外道』を歩む家系。だが外道とは畜生の類ではなく、正道から外れ、誰もが考えもしない突拍子な思考で歩む者を指す。
実際、沙羅は『意味』があるか無いかで物事を判断する子だった。自分主張を曲げず、魔術をたんなる殺害の力としか見ていなかったにもかかわらず、今は『探求者の家』という魔術師の『象徴』を再建した。統括者として、苦悩しながらも、自分の道を歩み、他人の道さえも照らしだす。
魔術師とは個人主義として生きる生業だ。
自他を尊重し導く彼女の生き方は、良い意味で『外道』だった。
沙羅に導かれる多くの魔術師の一人が自分でもあった。過去の行為を聞いても、それが何の問題があると言ってのけた、初めて会った沙羅の仏頂面が思い返された。
「俺は、そうだな。少なくとも、母のような英雄ではなかったかもしれない。だが、俺は俺なりに考えて行動した行いを、今は悔いていない。母さんも、父さんも、きっと頑張ったと言ってくれるはずだ」
沙羅の自己を貫く姿勢を見て、自分もそれに倣うべきだと感心した。
鈴木なんていう偽名で過ごした時代は終わったのだ。
今は堂々と母の性――『津ケ原』を名乗る事が出来る。
『正道』を歩む津ケ原家のやり方で、これからの時代、魔術師達を『稲神』と共にさ返させていこうと決心した。
「アレッタ統括者は、どうなのですか。魔術師として、『無道』を歩むフォルトバインの魔術師として」
「ふふ、そうですね。『無道』とは読んで字のごとく、決められた道がありません。だからこそ私は、機微に物事の変化を観察して、自分の道をその場で作り上げます。これは、私の師の教えでもあります」
「機微に物事の変化を観察、か。この百数十年で、時代は大きく変わりました。あなたは、自分の道を見つけられましたか」
世界大戦が起き、シェルシェール・ラ・メゾンが倒壊し、魔術師の時代が潰えた。
自分の引き起こした災害の二次三次被害は、彼女にとって自分の在り方に大きな衝撃を受けたに違いない。
「ですが、今は希望の種が芽吹き始めています。荒廃した大地にも、ちゃんと草花はしっかりと根を張り、美しい花弁を咲かせます。私は、そんな若い蕾たちの為に、出来る事をするのが私の『無道』。これは、昔から変わらない在り方です」
『普遍』である事。
長い年月一貫した自分で在り続けるのは、誰もが思い浮かべる以上に困難極まる。生きていれば自分の人生に悪くも良くも影響を及ぼす機会はいくらでもあるのだ。その誘惑に晒される信念を寸分も曲げずに主張する彼女は、まさしく『最強』の魔術師なのだ。
これから先の時代も、自分は彼女のように自分を貫けるだろうか、と朝日が差す海面に視線を投げだした。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は6日の23時を予定しております!




