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将来の希望

 大勢の視線を集める大行進。


 未だに江東区の事情を知らない市民は、街道を装甲車や軍事バイクが忙しなく通る様子を呆然と眺めている。


「彼等がパニックを起こすのも時間の問題ね。警察が報道陣を押さえつけてるからいいけど、いつまで持つか」

「大丈夫。被害が広がらない為にも、私達がいます。大丈夫、絶対に守ります」

「ふふ、緊張してるの? まぁ、無理もないけど。私も正直、あんな得体のしれない生物相手にするなんて、思ってもいなかったし」


 緊張しているのは、夢の中の『死』が脳裏に色濃く残っているせいだった。


 攻め込んで来ている『魔』の軍勢は、夢の中で見た奴らの比ではない。一国を蹂躙して滅ぼしうる数と力を持った侵略者。


 沙羅は自分の頬を叩き、弱気な考えを振り払った。


「鈴木さんやルーガンさんは大丈夫でしょうか」


 大田区には魔術師を多く残してきたが、鈴木――津ケ原永理の魔術は一日で一回か、無理して二回が限度。そうなると、残りは実戦経験の浅い『魔術師』や、数だけの『武装警官』だけが頼みとなる。


 ルーガンも車内で何か弄ってはいたが、迫る数相手にどれほど友好的な策かは知れない。


「鈴木がそんなに気になる?」

「えぇ!? あ、いえ、そういう意味では無くて」


 瑠依は津ケ原永理に一目ぼれしていた――恋する少女の理想というのは分からない、と同じ少女である沙羅は疑問に思った。


「問題はないわよ。アイツはやるときはやる奴だし、そう簡単には死なないわ」


 やる時はやる――人類延命の為に一人で第三次世界大戦を引き起こさせたのだから、行動力とそれに向かう意志は強い。


 そう簡単には死なない――彼の魔術探求による産物が不老不死。


「無事に戦争が終わったら、告白でもしてみたら? アイツには少し人生を楽しむ義務があるわ。瑠依なら、ちょうどいい癒し効果もありそうだし」


 視線は瑠依の胸元――ブラウスを豊かに盛り上げる二つの罪袋。自分の胸は僅かの隆起も無い、バインバインの貧乳を通り越して、板前の洗練されたまな板だ。


 剣技に舞う瑠依の胸も挑発的に揺れる。


「沙羅ちゃんも、人生を楽しむ義務があると思います。いいえ、今を生きる人たち全員に、楽しむ義務があるんです! だから、沙羅ちゃんも少し、年相応に生きてみようよ」

「冗談。私は気ままに生きているわよ」

「恋をしてこそ女の子です!」

「いや、別に興味は無いし」


 本当にそうだろうか、と無意識に考えてしまった。


 利己主義に生きていた時は疑問さえ抱かなかった。むしろ、自分の事だけを考えていれば良かったから、恋や結婚といった浮ついた考えが理解できなかった。


 今は他人と過ごすことが当たり前となっている。


 『探求者の家』には多くの男性魔術師が在籍している。


 『繁栄には美酒と口付けを』にもルーガンを筆頭に、全員同じ顔に見えるグラサン黒服達がゴキブリのように群れている。


「私が恋愛ねぇ。ははは、想像しただけで笑えて来るわね。ありえないわ、やっぱり」

「むぅ」

「な、なによ。その眼は」


 瑠依がむくれる理由が分からなかった。


 沙羅が自分の人生に満足をしていないのではないか。自由気ままと言うが、多くの責務を背負って生きている事は、『探求者の家』の統括者という役職に就いている以上は、普通の女の子としての人生から外れている。瑠依から見た沙羅は、どこか一歩引いているように感じた。


「本当に、恋愛には興味が無いんですか?」

「いや、顔近いから。まぁ、興味がないというより、よく分からないのよ。自分が恋している姿が想像できないのと、恋ってどういうものかがね」


 沙羅にどういう意味か聞かれたが、普通の女の子が抱く感情を説明する事しかできなかった。恋には小難しい理論や工程は必要ない。どうしようもなく、自分の全てを捧げられると思える感情や、この先もずっと一緒に居たいと思う事が恋。


 これまでの人生で、沙羅は生き残る事しか念頭になく、命のやり取りでいつ死ぬかも分からぬ生活をしていたのだから、恋という日常とは縁がなかった。


「この戦争を生き残れたら、少しはそういった面に、探求してもいいかもしれないわね」

「なら、私は全力で沙羅ちゃんを守るね」

「まるで、私が弱いみたいな言い方ね」

「あはは、そんなこと無いよ。ただちょっと解体できなかっただけで、沙羅ちゃんは強いよ」

「うぐっ、あんたが式神だなんて知らなかったからよ。そもそも、解体する継ぎ目がないってどういう事なのよ」

「渚様の陰陽師としてのお力のお陰です。何一つ欠点がない丈夫な式神であれ、と願われました」

「何一つねぇ。身体の構造はそうかもだけど、内面的には欠点が多い気がするわ。それに、瑠依の姉――芽衣だっけ。アレは欠点しかない気がするんだけど?」

「あはは、お姉ちゃんはその分、実力があるから、神様は二物を与えないって言いますし」


 姉のフォローを考えるが、気の利いた言葉が浮かばない。


 否定しきれない沙羅の発言に、自分でも内心では同意見だった。


「そろそろ、目標地点に到着します。戦闘の準備をお願いします」


 運転していた『大日本武装警邏隊』の男性は、緊張した声音で告げる。


 ここからは、人類の命運を賭けた戦争の開始となる。


 瑠依も愛刀と仕込み杖を携え、沙羅も赤紐を指に引っ提げた。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は5日の0時を予定してい折ります!

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