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魔の進軍

 闇は東京を覆いつくそうとしていた。


 夜が空けても、朝日を遮る化け物の群れが、隊列を組んで行進してくる。


 初めて奴らが観測されたのは、お台場付近の海域。


 各区に派遣されている情報網――『初夜に耽る子猫の吐息』の子猫達からの報せ。


「日の出と共に進軍とはネ。まだ人は眠る時間ダ。物量で押し潰すには最適な時間だヨ」

「申し訳ないが、彼等には時間稼ぎの餌となってもらうしかないね。僕等が守る未来の為に」

「一般市民が喰われる姿を見るのは、心が痛むの」

「さぁて、非戦闘員の子猫達は後退させましょうかしら」


 中央区と墨田区に五大組織の総軍に近い兵を配備していた。


 無線でのやり取りをする格組織のトップ


 中央区には『探求者の家』『繁栄には美酒と口付けを』。


 墨田区には『紅龍七』『無明先見党』『初夜に耽る子猫の吐息』。


 両区の前線で江東区から迫りくる『魔』の軍勢をせき止めるべく、常に情報のやり取りをしながら臨戦態勢を取っていた。


「瑠依、本当にこっちに来てて大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。渚様が、此方に回るようにとの指示でしたので」

「なら、いいんだけど」


 『探求者の家』と『繁栄には美酒と口付けを』でのまともな戦力と言えば、沙羅と永理の二人のみ。その二人も自慢の魔術回数が限られている。長期戦闘では安定した爆発力も無く、『大日本武装警邏隊』と『魔術師』の神秘に頼りっきりとなる。魔術師や警官隊も実戦経験は浅く、戦場で彼等が持つ本領を発揮しきれるはずがない。数だけの物量戦となることが目に見えている。


 『紅龍七』と『無明先見党』は、武力組織であるので個々での強さもあり、群での集団戦も得意としている。そこで瑠依一人を此方に回しても、大きな損失を被るとは考えられにくい。


 『初夜に耽る子猫の吐息』は強者が揃い安全圏である墨田区に本陣を敷き、各区の子猫の情報を纏め、報告する司令塔的な役割を担っていた。


「沙羅、俺は人類を繁栄させたい」

「そうね。江東区の住民には悪いけど、大を救うための斬り捨てだと諦めてもらうしかないわ。犠牲になっている彼等の為にも、この戦争は負けられない」


 今は昔の流儀に沿って割り切る――彼等の死は『意味』があると言い聞かせて。


「ああ、分かっている。統括者としての手腕の見せ所だ」


 嫌な圧力を掛けてくると苦笑した。


「そういう事だよ。僕等に敗北は許されない。情報では、他国にも魔の軍勢が押し寄せているらしい。援軍は期待できないから、此処に集った戦士達で勝利を収めなければならないね」

「多くの人の命が、食い潰されるんだな」


 永理は辛そうに呟いた。


「そうだね、第三次世界大戦の比ではないかもしれない。だけど、人類は今、結託している。必ず勝利をつかみ取れるはずだよ」


 ルーガンが永理の肩に手を置き、力強く頷いて見せた。


「この戦争が終わったら、少し休暇を取りたいわね」


 この戦争で日本は――人類は大きく疲弊しきってしまう。ルーガンの言う第三次世界大戦の比ではないはずだ。


 こんな時に呟いていい発言ではなかったが、将来に希望を見出して、少しでも生に固執したかった。何気ない沙羅の独り言に、瑠依も共感したのか、少し明るい声音で返した。


「うん、そうだね。沙羅ちゃんは、何処かにお出かけしたりするの?」

「考えてはないけど、瑠依とまた買い物に行きたいわね。もちろん、誰の邪魔も入らない二人の休日よ」

「はい! 私、頑張って敵の首を切り落とします!」


 意気込む瑠依の恐ろしい発言に、この場にいる全員が表情を引きつらせ、妙に首がむず痒くなる気がした。


 初めて瑠依と出会った夜――仕込み杖が折れていなければ、自分の首はあの場で落とされていた。いま生きている事さえ奇跡だった。


 そこで、瑠依の腰にあるソレに気が付いた。


 瑠依の得物はいつもの仕込み杖ともう一本――黒鞘に白柄の日本刀をコルセットスカートに紐で吊り下げていた。


「その刀が本来の愛刀なわけ?」

「あ、はい。普段は仕込み杖を使っているんですけど、本来はこの刀が私の得物です。業物らしくて、無くしちゃいけないと思って、いつもは組織で保管しているんです」


 剣術の達人が業物を持てば、やはり鬼に金棒という奴なのだろうかと考えながらも、背後に控える魔術師たちに向き直った。


「私達の敵は、人類を捕食する――異形よ。現実的な話、此処に居る全員が誰一人欠けることなく終えられるなんて思ってはいないわ。あなた達は本来、非戦闘員なのに、それでも、私の声に立ち上がってくれて、ありがとう」

「何を言うんですか。俺達の為に立ち上がってくれた統括者の為に、俺達が立ち上がらないわけにはいかないですからね」


 歓声が上がり、沙羅の名をコールする――少々恥ずかしくもあるが、ここで締めねば多くの命を散らしてしまう。


「私達『探求者の(シェルシェール・ラ・)メゾン』は、この戦争の終着点を、魔術繁栄の第一歩とする!」


 今も江東区の住民は無慈悲な脅威に捕食されている。


 開戦の合図は大きな花火を打ち上げる手筈になっていて、その花火はルーガンが黒服達に準備させていた。雑務を一切やらないルーガンは愛車に乗り込み、ハンドル脇の薄い硝子盤を弄っていた。


「ルーガンも何か策はあるみたいね」


 沙羅の携帯端末を圏外にさせた、謎のSF技術を組み込んだ粋は他にも機能があるのだろう。


 SFという媒体に触れる機会の無い沙羅には、その科学力を漠然とした想像でしか思い描けなかった――『光線銃』『機械人間』『超能力』『浮遊走行車』――黒服達が話していた雑談を暇つぶしに聞いていた情報の全て。


「報告します! 大田区から突如として魔が溢れ、此方に侵攻中です」


 軍用バイクに乗った女性――『初夜に耽る子猫の吐息』偵察部隊の一人。


「――はぁ!? どうして、そんな所から湧いてくるのよ! あの魔法使い、騙したわね」


 魔の軍勢は江東区から攻めてくるという情報を信じ、こうして数百万の軍勢を動かし、囲い潰す算段だったが、このままでは逆に挟み込まれてしまう。


 想定外の事態に咄嗟の案が浮かばない。


 どうすればいいか。自分達がこの場を離れてしまえば、本来の作戦が瓦解する。かと言って動かなければ挟み込まれる。


「沙羅殿は『大日本武装警邏隊』の半数と魔術師数十人、瑠依殿を引き連れて大田区に向かってくれ。殲滅しようとはしなくていい。足止め程度の時間を稼いでくれればそれでいいから。ここは、僕と彼で何とか維持をする」


 ルーガンの判断に異を唱えずに頷く。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は3日の0時を予定しております!

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