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道を見定めた魔法使い

 母との再会は夢だったかもしれない。


 夢の中であっても、母と出会えたこと自体は現実だった。母の温もりは、目が覚めた今でもまだ残っているから。


 母との約束を果たす為、長生きしてやろう――邪魔な奴は自分の流儀で解体してでも。


「殺されはしたけど、一応礼は言っておくわね。で、どっちがアダムなわけ?」


 宴会場の大座敷で大の字で寝ているルーガン達を一瞥し、目の前の二人の男女へと視線を向けた。


 男性と女性は感情の起伏も無く沙羅を見つめている。


「私はアダムであって、私もアダムよ」

「俺もアダムであって、俺がアダムだ」


 声を揃えて静かに言った。


「意味が分からないんだけど、もう少し分かりやすく言ってくれる? それとも、ふざけてるのかしら?」


 鈴を構える――どうしてか魔術領域は展開されていた。


 このまま鈴を鳴らせば、二人のアダムを解体できるかもしれないが、同じく領域内で眠っているルーガン達も同時に解体してしまう。無差別な解体魔術に不便を感じつつも、構えを維持したまま彼等の出方を見る。


「鳴らすといい。鳴らして本来のお前を生きろ」

「鳴らせばいい。所詮は他人の命、気にすることは無いわ」


 二人は沙羅が鈴を鳴らさないと踏んでいる。


「魔術師にとって他人とは重荷だ。心の隙を産ませ、判断を狂わせる阻害因子。他人を意識するから壊れる」

「私にとってコイツ等は確かに他人よ。でもね、関わらなければ知らなかった世界もあるのよ。まぁ、どうせアンタ等には分からないでしょうけどね」

「知る必要はない」

「もう、識っているもの」


 こういうお高く言葉を投げかけてくる相手は、沙羅にとって苛立ちの種でしかない。何を言っても意味不明な自分理論を興じて投げかけてくる相手――ルーガンや張がその該当者だが、目の前の二人はそれ以上に意味不明な自分理論だった。


 沙羅も自分理論に固執して生きてはいるが、もっと単純明快な生き方だ。


 邪魔なら解体してしまえばいい。


「でも――」


 魔術領域内で、まだ夢の中にいる彼等を解体することは出来なかった。他人という弱点を得たが、それ以上に人間らしい生き方を選ぶ事が出来た。


 沙羅は鈴を下ろして、魔術領域を解いた。


「それが、お前の歩む道か、稲神の魔術師」

「その選択は多くの苦しみを産むわ、解体の魔術師」

「それでも歩むというのなら」

「己の道をよく照らしなさい」

「照らしてくれる者達を大事に」

「愛しなさい、稲神沙羅」


 他人を意識すれば壊れる、などと言っていた魔法使いに唖然とした――彼等の言葉は紛れもなく沙羅に対するアドバイスだったからだ。意識しているからこそ、アドバイスをくれたのではないのか。


「一つ、聞くわよ。どうして他人に関心の無さそうなアンタ達が、私達に教えてくれたの?」


 『魔』と呼ばれる異形の襲来について。


 他人に興味がなければ、黙っていればいいはずを、どうしてルーガンに報せたのか。そこだけが気がかりだった。


「他人には興味はない。だが、世界の一部として、人の可能性を測る事には興味がある」

「私達は多くの時代、多くの人を見ていた。中には常識で測れない者も存在した」

「津ケ原透理、アレッタ・フォルトバインが該当する」


 その名には覚えがあった。


 津ケ原透理とは永理の母親の名前。町を救うために自分の寿命を捧げた、頭の弱い英雄だと永理から聞いていた。


 アレッタという名は祖母から聞いていた。シェルシェール・ラ・メゾンの最高管理者で、魔術史を遡ってみても、彼女を凌駕する魔術師は存在していない。


 最強を求めた稲神聖羅とアレッタ・フォルトバインはどちらが強かったのだろうか。


「違うわね」


 魔術師にどちらが実力が上かという疑問が間違いだと改めた。魔術師は世界真理を探究してこそ価値を見出す生業。力の優劣などどうでもよい事だった。


「あなたは、どうなのかしらね。解体の魔術師――稲神沙羅」

「お前は、俺達が望む非常識に名を連ねるか?」

「知らないし、どうでもいいわよ。私は私の道を闊歩するだけ。あんたらの人間観察に付き合ってられる程暇じゃないの。余計な手出しをするなら、その時は覚悟しておくことね」


 覚悟させられる自信はないが、言うだけは言っておく。


「なるほど、では人類がどの道を選択して歩き出すか、見届けさせてもらう」

「津ケ原の息子は英雄になる素質はある。後は、本当の意味で人類を救済すれば、また彼も常識の外側としての結果を、私達に提供する事でしょう」

「魔か人か。世界に相応しい種は栄えるのだから」


 この二人の互いに喋るやりとりにも、いい加減飽きてきた。というよりイラついてきた。まるで、自分を馬鹿にしているようにしか捉えられない。二人にその気はなくても、沙羅からしたら、苦手な相手だった。


「分かったわよ。もういいから、あんたらは帰れば? あとは私達、人間だけで話を纏めていくから」

「いや、この飯だけは食べていく」

「せっかくの料理を残すわけにはいきませんから」


 アダム二人は姿勢よく座り、女性のアダムは沙羅の膳を手繰り寄せて食べ始めた。もう自分に手を付けているのはあえて何も言わない。ただ、早く食べてどっかに言ってほしかった。


「誰か目を覚ましなさいよ――って! ルーガン達は夢の世界でどうなってるのよ!?」

「ああ、心配はない」

「もうすぐ目を覚ます。今は貴女と同じように愛しい者と邂逅している」


 目が覚めるというのであれば問題はない。沙羅にとってこの場に集う面子は、対脅威への盟友なのだから。一人でも欠けられると戦力として致命傷になる。


 だから鈴を安易に鳴らせなかった。


「それだけだから。他に意味はないはず」

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は2月1日の0時を予定しております!

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