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異形なる者

 好戦的な二人の姿勢にクスクスと笑う魔法使い。


「この程度の呪縛も解けずに、抗うと? 燃え上がると? おかしなことを仰るのですね」


 先ほどから一歩たりとも距離を縮められず、魔術行使の準備段階にさえ整っていない沙羅は、無理やりに動けと身体中に命令を下す。本体の命令系統より外部の強制力に圧し負けるとはどういうことか。不自由な身体に段々と苛立ってくる。


「獅子は檻を食い破ろうとしていル。だけど、さすがにこれは無理かナ。僕でも無理そうだヨ」

「弱気になってるんじゃないわよ! こんな奴に馬鹿にされて悔しくはないわけ?」

「気に食わないけど、無意味に体力を消費するものじゃあないヨ。これは忠告ダ」


 抗う沙羅と何もしない張――対極した姿勢――片方は力技、片方は知力。


「いいでしょう。解きましょう。あなた方が戦うべきと触れ合ってみなさい」


 アダムの一声で身体が急に軽くなった。力んでいた沙羅は勢い余ってそのまま倒れ込み、恥ずかしさに赤面しながら立ち上がる。


「この場にいる全員が迫る脅威を、その眼で確認し、策を弄してみなさい」


 座敷の間が歪む――陽炎より酷く、気分が悪くなってくる。足場も波打っていて視覚的錯覚に強要されて、千鳥足になってしまう。


「奴らはちょうど一週間後の夜明けにやって来ます。その数の暴力。単純な力の暴力に人類はどのように抗ってみるのですか?」


 空間が水風船のように爆ぜた――一面の闇に包まれて、誰がどこにいるかは分からない。それでもアダムの声だけはしっかりと脳内に響く。


 鈴を通した赤紐を指に引っ掛け、魔力を魔力路に流し込み、詠唱を済ませておく。いつどこで奇襲を受けるか分からない。沙羅の魔術範囲は自分を中心とした直径二十メートル。耳を澄ませて自分に近付く全てに注意を払う。


 トス、トスという音が近づいて来る――人の足音でない。


「何も見えないけど、鳴らして――駄目だ。何処に誰がいるか分からない状況で、鳴らすわけにはいかない」


 沙羅の解体魔術は領域内に存在する物質全て。無差別にその構成を細かく部位解体してしまう。不用意に鳴らせば、領域内にいるかもしれない誰かを解体してしまう。万全に沙羅の実力が発揮できない中で、ソレは近づいて来る。


「こんな時に、魔術式が使えれば良かったんだけど、私には才能が無いし、詞羅が羨ましいわ」


 沙羅の妹の詞羅――類い稀な魔術の天才。主に魔術式の展開速度と完成度は歴代稲神家を見ても上位に位置する。


 普段は一歩引いて、相手を立てる生き方をする物静かな少女。沙羅が実家にいた頃も何かと姉である自分を立ててくれていた。家族を何よりも大切にする妹の鉄面皮を思い出してしまい、苦笑しそうになるが抑える。


「今度、会いに行ってやろうかしら。その為にも、こんな場所で死ねないわね。大丈夫、だれも居ない。私の領域には誰もいない」


 領域内に全神経を注ぎ込んで、自分に向かってくる足音以外は何もいないと知覚する。自信はなかったがそれでもやらなければならない。この先の時代――魔術師達と共に栄えると約束を守る為に。


 シャリン――一面闇色の空間に鈴が鳴る――鈴音は微振動を産み出して波紋のように広がっていく。


「アギャッ!?」


 何かが鳴いた――人ではない甲高い悲鳴。


「――眩しっ!!」


 悲鳴と共に闇が晴れた。今までに染まっていた黒は何処へ行ってしまったのか。そこは見慣れた上野公園の隣にある不忍池――弁天堂前。


 天上は灰色の厚い雲に覆われていて、白い粒がフワフワと舞い落ちている。その冷たさを頬に感じて雪だと理解した。


「な、何よコイツ」


 背後の御堂脇には異形の姿をした生物がバラバラになっていた。


 大きな牙と大きな眼球。他部位は細かくバラバラになっているので、元の姿は分からない。こんな生物が現実に存在しているのかと疑いたくもなったが、悪魔もこの世に存在しているので、別に驚く事でもない、とこの現状を受けいれる事が出来た。


「勇ある獅子、これは凄いネ。これが魔、かナ?」


 聞き覚えのある声は張だった。


 弁天堂の裏側から、何かを引き摺ってくる張が何やら楽しそうな様子。二メートルはある首のない巨体――全身が浅黒く、鋭く長い爪は日本刀が生えているように見えた。筋肉質の肉体には産毛が生えそろっている。


「何よ、ソイツ?」

「そこでバラバラになってる奴の仲間かナ?」

「かもしれないわね。ルーガン達とは会った?」

「会っていたら、一緒に来てるネ」


 ひとまず見知った顔に会えたのはいいのだが、この場所は本当に上野なのか疑問に思った。ただでさえ貧民が暮らす上野は、人の通りが少ない。だが、今いる上野にはまったく人の気配を感じさせない


「人はいないけど、あれは楽しそうダ」


 張が指さす先――不忍池の湖面――浅黒い塊が一つ二つと顔を覗かせ、総勢で五十は居そうな異形が姿を現した。


 柵を超えて沙羅と張を囲んだ。


「へぇ、コイツ等、私達と遊びたいみたいね。どうする、張?」

「うふふ、ふふふ、いいなァ。楽しそうだァ。僕は殺るヨ! 楽しい殺戮劇ダ!」


 背中に引っ提げた偃月刀を、目にも止まらぬ速さで構えた。


「ちょっと、いつから持ってたのよ!?」

「闇が晴れたら持ってたんダ。先に行かせてもらうヨ」


 偃月刀を肩に担いで一足――血潮が宙に咲く瑞々しい音と、空気が抜ける音が沙羅の背後から耳に届く。


 背後はきっと阿鼻叫喚とした惨状になっているのは、確認しなくても容易に想像できる。


「私が前面ってわけね。張、もうちょっと下がりなさいよ、解体バラされたくなかったら、ね」

「分かったヨ。こっちだよ化け物共!」


 背後から異形が離れていく。


「いっちょ、暴れてやるわよ!」


 沙羅も前面に駆けだした。

こんばんは、上月です(*'▽')



次回の投稿は25日の0時を予定しております!


前回の後書きに、次回は暴れると書いていましたが、今回あまり暴れていませんでした。

次回こそは暴れ回りますので、お楽しみに!


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