恐ろしきは姫の一撃
突如現れた異常がケタケタと笑う。
大好物の餌が広げられているように眼をギラギラさせ、この場に集った猛者たちへと視線を巡らせていく。
「あ、あんた。何処から入ってきたのよ! 『繁栄には美酒と口付けを』の本部なのよ⁉ まさか、警備の人を」
「おやおヤ、僕の評価はとても低いみたいダ。安心しなヨ、殺してないからサ」
「当然でしょ! 池袋で私達は死に掛けたのよ。ご自慢の非道兵器によって!」
「あはは、生きているからいいじゃないカ。些細な事サ、そうだろう? あぁ、『無明先見党』の姫様には申し訳ないネ。大切な娘さん、殺しちゃっテ」
張は大仰に笑いながら、空いている席に腰を落ち着かせた。
「気にするでない。瑠依が未熟であっただけであろう? 稲神」
「え、いや。どうしてそこで私に振るかなぁ」
「おかしいわねぇ。波多江瑠依と言えば、日本国最高の剣士だって聞いていたのだけれど?」
「最高であって最強ではないよ。剣術面で見れば、文句なき剣技。だがのぅ、精神面が少々」
「あらあら、じゃあウチの猫として、メンタルを鍛えてみるのもいいんじゃないかしら?」
「ふむ、なるほどの。客を相手しておれば――」
「まぁまぁ、落ち着こうか。張殿も揃った事だし、本題に入ろう」
乱れた会議を正道に戻すべく、ルーガンは声を上げた。
会議室に揃った日本国最大の組織――『繁栄には美酒と口付けを』『初夜に耽る子猫の吐息』『紅龍七』『無明先見党』『探求者の家』。
一人一人がこの国に対して膨大な影響力を持つ者達。各組織の代表を除く護衛達は気が気でならない様子。その大本の原因は張・紅露の存在。彼がいつ主人に牙を剥くか分からない。気が抜けない張り詰めた空気を漂わせている。
「じゃあ、話してヨ。重要なお喋りなんだロ?」
ルーガンは面倒そうな顔一つせず、今しがた話した内容をそっくりそのまま、張へと聞かせた。四度目の大戦は世界人類と魔の戦い。そんな荒唐無稽な話を聞かされて、顔色一つ変えずに、ウーロン茶を飲み、まんじゅうを口に頬張っていく。
「なるほどネ。それが真実なら大変ダ。魔とは何だろうネ。何を基準に魔と考えるのかナ? もしかすると、その魔というのは、僕の事かもしれないヨ」
「確かに彼は魔の存在については口にしなかった。だが、彼ら魔術師と同様に裏の世界に住む者が言う魔が、人間の枠組みに収まるキミ達ではないんじゃないかな」
「うぅム。そうかもネ! それで、僕の活動を制限して、連盟に加われと言いたいようだネ。どうしようかなァ。悩むなァ」
ふざけた口調でもったいぶるように首を捻り、ウンウンと唸っている――貢物を寄こせと脅迫してきているように。ルーガンの優し気な眼光の奥深い場所では、張の強欲を見抜いているに違いない。だが、それでも餌を差し出そうとはしないのは、此方からお願いする形で提示すれば、相手はつけ上がるからだ。
あくまでも対等な同盟関係でなくてはならない。
「粘るねェ。でもさ、考えてごらんヨ。僕は巨大で強大な戦力を有しているんだヨ。別に、魔だろうが、人だろうが、関係なく殲滅する力があるんだよネ」
「なるほど、確かに張殿の言う通りだ。だが、その魔によって被られる被害を考えてみてはどうかな。魔の戦闘力や総軍は一切不明だよ。人類総軍に戦争を仕掛けられる実力を有していると見て間違いはないんじゃないかな。そうなれば、いくらご自慢の兵士でも、ねぇ。死を覚悟して、僕等はその隙を付いて、『紅龍七』に攻め入ることも出来るんだよ」
「それは僕に対する戦線布告かイ? いいねェ、楽しそうダ! 戦争ならいつでも買うヨ。貿易商の若シャチョー。売春クイーンも、姫ショウグンも、魔術キョウジンもダ! みんな、みんな壊してあげてもいいんだヨ」
スイッチが入ったように張の瞳孔が見開かれる。
狂人のように笑みを張り付かせ、大仰な身振りでこの場の全員を煽りだす。興奮しきった張に歯止めは利かず、言いたいことを言いたいだけ、自分の波に乗って周囲を飲み干そうとする。勢い任せのカタコト口調は時折何を言っているか分からないが、何やら楽しそうだった。
「ふむ、少々失礼させてもらうかの」
「いいかいィ!? 人間の尊厳を奪う魔なんてもの――ゴッハァ!!」
「しばし、黙れ。ラー油とごま油の息をまき散らす出ないよ。室内の空気が澱んでおるのが、気付かんのか?」
腹部に肘打ちを受けて昏倒する張――優雅に小袖を揺らして、地面に伸びる男を見下ろす渚。
今の一瞬で何が起きたのか分からなかった。少なくとも沙羅には、渚が張の目の前に立ち塞がった所までしか視認できなかった。
「すごい」
以前に瑠依が剣術は渚に教わっていると言っていたが、体術の面でみても相当以上の手練れだった。これは、真に危険視するは『無明先見党』ではないかと冷や汗を流した。
こんばんは、上月です(*'▽')
登校時間が少し遅れました。
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