何かを知っているルーガン
対面するルーガンの額には包帯が巻かれていた。
「まだ、痛むの?」
「武人の怒り狂った一撃を受けたんだ。沙羅君達のように常識外の人間じゃないからね。でもまぁ、『無明先見党』から相応の謝罪を頂いたから、僕としてはもういいんだけどね」
ルーガンの背後に控える三人の黒服と、沙羅の背後に控える三人の魔術師が視線で牽制しあっている。互いに先導者を守る為――いつでも得物を引き抜けるように。
「あはは、そこまで警戒しなくてもいいよ。僕等は同盟関係だ」
「今のところは、ね。どうして日本の警察機関を配下に加えたのか、ちゃんと説明してもらえるかしら。流石に同盟関係であっても、いきなり数十万以上の兵隊を雇い入れたら、疑念くらい抱くわよ」
ルーガン相手に弁論で勝てる見込みはない。
うまく丸め込められてしまう。それでも彼の意思をこの耳で聞かなければならなかった。彼の言葉に秘められた真実を自分なりに見極めて、最悪の場合の対抗策を考えねばならないからだ。こちらも二百名の人の命を預かっている。『紅龍七』を打倒できたとしても、『大日本武装警邏隊』を引き込んだ『繁栄には美酒と口付けを』の軍勢に攻め込まれては、いくらファンタジーな神秘を持つ魔術師と言えど、ひとたまりもない。
「疑いか。そうだね、僕が警察機関を正規軍にしたことで、『無明先見党』『初夜に耽る子猫の吐息』も疑念を向けている。僕等は確かに同盟組織だ。だが、一つ、忘れてはいないかな。僕は外国からこの国の財を貪りつくす侵略者だってことを。そもそもがだ、僕等の結束は『紅龍七』という脅威が在ってのもの。それさえ取り除かれれば」
「次は私達の番?」
「それはキミ達の出方次第としかいえないね」
何も得られない。
彼の言葉からは己は正当であるという意志しか感じ取れなかった――歯向かえば容赦なく潰すという力任せの強固な意志。
沙羅の背後に控える魔術師達は魔術媒体を引き抜くと、それらは全て弾き飛ばされた――ルーガンの護衛である黒服達の手には銃が握られていた。いつ構えたのかさえも分からない。無駄のない早業がファンタジーの神秘を無力化させた。
「あはは、駄目だよ。あれらは魔術師にとって大切なアイテムだ、傷でもつけたら大変だ。いいかな、沙羅君。僕は決してこの日本国を悪いようにはしない。ただ、自分の力で栄えさせたいだけなんだ。今じゃ日本人より外国人の方が地位は上だ。そんな間違った在り方を変えてやりたいと思っているんだけど」
「外国人優位の日本国の在り方を変えたい? ふふ、笑わせるわね、ルーガン。だったら、その外国人である貴方はなに?」
「統一者、かな。僕が法となり、キミ達、魔術師が自由に堂々と探求に努めれる世の中を作りたいと思っている。そのためには一人でも多くの賛同者が必要だ。それらを阻害する者達を排除して何が悪いのかな? 世界を在るべき平和な世界に変えるための武力だよ。振り下ろすことに何の躊躇いがいる?」
相手が食い付く餌をばら撒くのは交渉事の基礎だ。だが、沙羅の中に芽生えた違和感――ルーガンの餌撒きが粗雑に思えた。表情はいつものようにニコやかではあるが、何処かがおかしい。
「ルーガン、今度は私が一つ質問よ。魔術師が辿り着くべき先には何があると思う? 私を見ていたなら分かるはずよね。レポートも読んだことだし」
ルーガンは質問の意図を測ろうと、眉間をわずかに潜めた。当然、沙羅はこの問いにルーガンが答えられるとは思っていない。以前に永理が書いたレポートを読んではいてもその実際の在るべき魔術師の姿をみていないからだ。
あのレポートに書かれていた事は、あくまでも津ケ原永理の中での魔術師像。だからこそ、答えられても、今まで身近にいた沙羅という魔術師と、レポートの中の魔術師についてしか答えられない。そもそも、沙羅たちでさえ辿り着くべき先なんて分からない――結局は意味の『ない』質問。
もしくは、人それぞれなんていう回答もありなのだ。だが、沙羅がそんな意味の無い質問をするはずがない、という固定概念がルーガンの念頭にあった。
「世界真理だったよね。沙羅君は難しい理論は解体して、核を識るんだっけ? でも、人が答えに辿り着ければ、それだけ魔法――っと!」
引っ掛かった。
「魔法、がなにかしらね?」
「魔法使いに狙われやすくなる。違うかな? 彼のレポートにそう書いてあった」
「本当かしら?」
ルーガンは黙り込んだ。
「載ってないわよ。私は読んでないけど。載ってるわけがないの。魔法使いや魔法の存在は無いものとして扱わなくちゃいけないらしいし、旧時代はね。ルーガンが読んだレポートは旧時代の内容だったわよね。だからこそ、魔法使いの存在を容認する内容が書かれているはずがないのよ」
「くく、あはは。そうかぁ、そうだったか。まんまと引っ掛かったよ、沙羅君。まさかキミがそんな意味の分からない質問をするとは思っていなくて、余計な情報を吐いてしまった」
「ルーガン、あんた」
「ああ、違う違う。僕は魔法使いとかそんな存在じゃないよ。ただ、魔法使いを名乗る人にあった事があって、少し話を聞いただけだよ」
「ちょ――いつ、何処で会ったのよ!?」
身を乗り出した沙羅に、ルーガンは落ち着けとジェスチャーをした。
こんばんは、上月です(*'▽')
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