親友がもたらした安息
一つの悩みが解決したと思ったら、また悩みの種が増えた。
「あぁ‼ もう、どうして私がこんなに悩まなくちゃいけないのよ!」
津ケ原永理の問題、大日本警邏隊の問題、魔法使いの問題。
それも段々と規模が大きくなってきている。組織内の問題、日本国の問題と来て、次は世界規模の問題。世界を滅亡させられでもしたら、自分らしい在り方を見つける事が出来なくなる。そんな邪魔な横やりは何としてでも阻止せねばならない。
他の魔術師達も志は同じだった。せっかく再び探求の道を開けたのだ。このチャンスを逃してなるものかと、明日から日替わりで、上野を中心とした日暮里と日本橋までの巡回をすることとなった。血眼で危険因子を排除すると意気込んでいた彼等がちょっと微笑ましくあった。
「まぁ、一つの悩みは無くなったと前向きに考えるか。魔法使いの件は、ルーガン達には黙っておこう。言ったところで、大した助力も得られないだろうし」
ルーガン達には『紅龍七』に専念してもらう。
そんな時に携帯端末が鳴った――通話主は波多江瑠依――緊張しながら通話ボタンを押し込み、深呼吸をしながら端末を耳に当てた。
「もしもし、瑠依?」
「うん、私だよ。沙羅ちゃん」
「あ、うん」
なんて声を掛けてあげるべきか。
元気してたか、なんて間抜けな挨拶も無い。互いに無言が続く。余計に気まずくなる空気を打ち破ったのは瑠依だった。
「ごめんね、驚かせちゃって。私の正体はもう知ってると思うけど、陰陽道っていう、えっっとね、日本の古い魔術師みたいな人の業で、陰陽術っていうのがあるんだけどね。その、陰陽術は占いや呪術が主な内容なんだけど、時には手足となって働いてもらう、式神っていう存在を扱うの」
そこは魔術師と利害関係で成り立つ、使役悪魔と似たような役割なのだろうと納得した。まさか、瑠依や芽衣だったのは驚きだった。
「それでね、私、その、沙羅ちゃんに嫌われちゃったかな。気味悪いかなって。気持ち悪いよね、私」
機器から漏れる嗚咽交じりの声。
「渚様は、沙羅ちゃんは優しい子だから大丈夫って言ってくれてましたけど、でもやっぱり、私は化け物だから、人じゃないから」
「あんたねぇ、アホでしょ。それとも馬鹿なの? 私は瑠依のなに?」
「えっ、えぇと」
「三、二、一――」
「ズゥ友です!」
「分かってるじゃない。間違ってるけど」
「――えっ」
「ズゥ友じゃない。ズッ友、よ。意味わかる?」
「ずっとお友達、ですか?」
恐る恐る答えた瑠依に、一つ大きなため息を聞かせた。
「そう、正解。で?」
「で、って?」
困惑する瑠依は言葉に詰まっている。
パニックになっているのだろう。だから、沙羅は有無を言わさずに早口で告げた――それはちょっと言う方も恥ずかしいから。聞き逃したからもう一度言って欲しいなんて頼まれても絶対に言いたくはない台詞。
「私にとって瑠依は初めてできた親友よ。最初はアンタの事は嫌いだったわ。だって、そうでしょ、殺し合った仲でどうしてショッピングモールに行けるのよ。何か企んでるって思う方が自然でしょ? でもね、瑠依とそこから会って話したりしている内に分かったの。この子は本当は優しい子なんだって。純粋に私を友達として接してくれているって。だから、私ももっと瑠依の事を知りたくなったし、私を知って欲しいとも思った」
鏡はないが絶対にいま自分は顔を真っ赤にしている。でなければ、顔が火照ったりしないからだ。胸の鼓動がバクバクと胸骨肋骨を押し上げる感覚――今にも胃の内容物を吐き出してしまいそうだった。
鼻をすする音と、子供のように大きな鳴き声――その直後にあわただしく耳障りな奇声――芽衣の声だった。
「ちょっと、瑠依!? あっ、あの糞魔術師なのね! 大丈夫よ、お姉ちゃんに任せて。えぇ、あんな稲神なんて名前だけカッコいい、名前負けのクソ生意気女は、私から一言言ってやらなきゃ気が済まないわ!」
小さな抗議を上げようとした瑠依の意思は汲まれず、端末を奪ったであろう芽衣――キンキンとする常識知らずな品性に掛ける怒声。
「ちょっと、いいかしら! 人様の妹を泣かせるなんていい度胸してるじゃない!! どういうつもりかしらねぇ、売国魔術師の稲神沙羅さん。オラ、早く答えろや! その心臓を一刺しで抉り取るぞ、アァ!?」
情緒不安定なのだろうか。
「大切な妹の訴えに耳を傾けるべきじゃない? それと、私、一応同盟組織の統括者なんだけど。組織の構成員がそんな態度でいいのかしら?」
どうして、猛り狂う炎に油を注いでしまうのだろうか。
ルーガンの所の黒服相手にも煽って楽しんでいた気がする。もしかして自分は相当に性格が悪いのではないかと思い始めてきた。
「ぐぐぅ、そ、それは申し訳、あ、あ、ありませんですぅ!」
「子供か!?」
無意識にツッコミを入れてしまったことに、自分で恥ずかしくなる。溜息を吐いている間、どうやら瑠依が説明しているようだった。耳に届く落ち着きのある妹と、うるさいだけの姉。これは姉妹逆転したほうが良かったのではないだろうか。
「沙羅ちゃん、ごめんね。お姉ちゃんが迷惑だったよね」
「確かに迷惑ね。鼓膜が破れるかと思ったわよ。それでも、やっぱり瑠依にはあの姉は必要ね」
「え?」
「だってほら、少し元気になったじゃない」
先ほどのように泣きじゃくっていた瑠依の影は薄れていた。
「そうだ、瑠依。お願いがあるんだけど」
「うん、なに?」
「近いうちに私と手合わせしてくれない? もちろん殺し合いじゃなくて、私の稽古として。『紅龍七』の張は偃月刀を使うのよ。それで、剣士の動きとかに眼を慣らしておきたくて」
「うん! 私で良ければ、いつでも相手になるよ」
「そうねぇ、明日はちょっと野暮用があるから、明後日はどう?」
了解返事を受けて通話を切った。
瑠依が無事で何よりだった。声を聞けただけでも、自分に伸し掛かっていた悩みが軽くなった気がした。やはり友とはいいものだ。少し前の利己主義に生きていた自分では考えられない今の自分の在り方。
帰宅準備を進めた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は27日の0時を予定しております!




