歪みを産む魔法使いの存在
最大規模の戦争災害を引き起こしても残る最大の問題。
それは――。
「歪みを発生させた魔法使い本人を殺せていない事だ」
魔法使いは世界意思の強制力を真我に植え付けられており、強迫観念のように歪みを生み出し続けるのだという。つまり、世界大戦を引き起こして消滅させた歪みを生み出した魔法使いは、まだ生きている。いつ、どこで、また歪みを発生させるかも分からない。
永理は続けた。
「その大規模な歪みの発生源は上野だった。そう、この地だ。だから俺は、この区域に身を潜ませて、魔法使いの存在を追っていた」
こうして話している以上は結果を聞くまでもない。
「歪みを発生させられても、育つ前に壊せばいいんでしょ?」
「沙羅は――キミ達は、歪みの消滅に、一度でも関わった事がある者はいるか?」
誰も挙手をする者はいない。
「そう。この場にいる全ての魔術師が、経験が無い。かつて、『探求者の家』が歪み消失に派遣していた魔術師は『AAランク』と、数十人一組の『A』ランクだったらしい。歪みとはそれほどまでに強大な存在、ということだ」
この場にいるランク持ちはそのほとんどが『C』『B』。『A』も数人はいるが、戦闘向きではない探求理論者だ。魔術式ではどうにかならないのか、と考えたが。上位ランク総出で当たらせる相手に、実力の無い者が群れても効果が見込めるとも思えなかった。
「なるほどね。出来れば生み出す前に捕まえて殺しておきたい、と。発生して時間が経っていない歪みなら、永理や、私達でも何とか出来るものなの?」
「どうだろうな。歪みの耐久や防衛機能は、魔法使いの技量にもよる。昔より魔法使いとしての質を上げていれば、難しいと考えておいた方がいい」
色の良くない返答。
その歪みが再び発生すれば、間違いなく、沙羅にとって――自分が自分らしく生を全うするという、在り方を貫けなくなる。
ただでさえ『紅龍七』という、強大な武力組織という悩みの種があるというのに、それだけでなくても『繁栄には美酒と口付けを』の警察組織と軍事技術の取り込みだってある。ここにきて、魔法使いときた。圧倒的に人手と力が足りなさすぎる。可能性はほぼ無いに等しいが、『初夜に耽る子猫の吐息』『繁栄には美酒と口付けを』が武装放棄した日本に、『紅龍七』に倣って武力弾圧に乗り出しでもしたら『探求者の家』と『無明先見党』だけでは防ぎきれない。
「はぁ、ほんとに課題が山積みされていくわね。歪みは他の組織じゃどうにもならないし、ファンタジー専門の私達だけで対処するしかない、か」
「そういう事になる。話は逸れたが、俺の処遇を決めて欲しい」
永理は歪みの問題に表情を硬くしていた魔術師達に向き直る。
何の事だというような顔をした魔術師達は、本来の招集理由を思い出し、一様に頷いた。
「俺達は稲神様や津ケ原様に招集してもらって、再び魔術師としての道を歩めるようになったんです。それに戦争を引き起こしてくれなければ、自分たちも志半ばで世を去っていました。そんな偉大なる恩人に対して、どうして追放なんてできましょうか」
「そうですよ。俺達全員で誓ったじゃないですか。此処に居る全員が家族だって。俺達で統括者を支えようって」
「そういうことよ、永理。ここにいる全員があんたを必要としているの」
彼等の温かな言葉は素直に嬉しかった。
本気でここを去る事も念頭に入れていた分、必要としてくれる事に目頭が熱くなる。空はこんなにも青く清々しい。母の内面のように何もない快晴だ。そんなさりげなく酷い事を考えてしまった自分に苦笑し、母に素直に謝った。
「母さん、父さん。俺の人生は本当に意味で、再び動き出したのかもしれない」
人類の延命に次ぐ新たな目標ができた――後悔や偽りで過ごす肩身の狭い生き方ではなく、誰彼とも肩を並べて人生を邁進できる生き方を。
その為の居場所がここ――『探求者の家』なのだと。
「ウォル、ライナ、聖羅、荻さん。俺は約束する。俺を産んでくれた、両親が誇れる、自分自身を誇れる息子になると」
「いい顔してるわよ。今までよりずっと人間らしい。そっちの方が素敵なんだから、ずっとそうしてなさい。その顔を守る為にも私達はいるんだから」
「ああ、よろしく頼む」
こんばんは、上月です(*'▽')
本当はいつも通り0時に投稿するつもりでしたが、寝落ちしてしまいました。
次回の投稿は26日の0時を予定しています。




