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最初で最後の親子喧嘩

 生とは終わりがあるからこそ、人として在ることができる。


「永理! お前は、自分の母を――透理を否定するというのか!!」


 屋敷内に珍しい声が響き渡った。


 怒気を孕んだ双眸の先には息子の姿が映っている。年不相応に落ち着いた様子の永理に、ルアは何故かと詰め寄る。今まで教えてきた魔術師としての知識は、息子えいりの志を高めるものだと信じて、家族として、師として自分の持つ全てを教えてきた。


 それが、こんな形で裏切られるとは思ってもいなかったのだから、ルアの衝撃は相当なものだろう。


 魔術理論は個々人の絶対とする信条によって形成される。


 ルアの魔術理論――書物によって世界を識る。よって彼は自分の中に内包した無限の書物を媒体として、世界真理を探究する。


 だが、永理は――。


「不老不死を魔術理論として何が悪い。この世に生きる全ての人間が死ななければ、誰も悲しむことは無い。人類の更なる繁栄がもたらされるだろ」

「それは違うぞ、永理。間違っても不老不死は人類に、次代の幕開けを与えはしない。聖羅やアレッタを思い出してみるんだ。彼女たちは、不死者であることを誇っていたか? ただ、罪や使命を一生背負い続けなければならなくなる」


 考え直してほしいと願うが、それは叶うものではないことをルアは知っていた。


 魔術理論とは世界と折り合いを見出す為の唯一論であるからだ。代替案なんて考えられるようであれば、それは魔術理論ではない。その個人にとっての行動や思想の根幹であるからこそ替えが利かないのだ。


「父さん、俺はそれでも不老不死によって世界や、人間たちが救われると願っているんだ。どうか認めてくれないか。俺は、母さんと死別した悲しみを誰にも味わってほしくはない」

「お前がやろうとしている事は、生物の在り方を崩す行為だ。そんな種を、世界が放置しつづけるとは考えにくい。きっとこの先、世界の傀儡である魔法使いの脅威に怯える人生になるぞ」

「構わない。俺は俺のやり方で人類を救う。俺の道を塞ぐ者は全力で排除してでも突き進む覚悟もある。それが、父さんや母さんに連なる者達でも、だ」


 語る言葉は尽きた。


 匙を投げたわけではない。言って聞かないのなら、父として、師として、誤った道を進む弟子むすこを正さねばならないと決意したからだ。


「俺の道を阻むのか?」

「ああ、こんな親子の在り方を透理は望まないだろうが、お前の為だ」


 ルアは再契約した十三の悪魔――キャストールを召喚した。


「ワシからは何も問いかけん。ルア、主も人が悪いな。ワシにあの子を歯牙にかけろというのだから」

「殺すわけじゃない。動けなくするだけだ。無限書架の管理者である私は容認する――第一の書:エル・サンタリア。第二の書:エル・フォルトリア。第三の書:エル・カナタリア」


 虚空に生まれた空色をした三冊の書。


 過去・現在・未来を司る最高位階に属する魔導書。その強大な力を見たことは無いが、母から寝物語として聞いていた。


「逆行・停滞・予見か。時間操作と死者蘇生は世界の理からして禁忌だったな」

「そうだ。だが私は、直接時間に干渉しているわけではない。人が記した物語や思想を魔術として体現しているだけだ。いわば疑似的なもの」

「なるほど。母さんはそこのところをよく理解していなかったらしい。凄い奇跡、としか語ってくれなかった」

「透理らしいな」


 ルアと永理はそっと笑う。


「俺も父さんを殺すつもりはない」

「殺すつもりでこなければ、私を排除することはできないぞ」


 三位一体の空色の書物が、その記された理を現世に流れ出させた。


 初めは停滞――魔術適応範囲を狭めることによって強制力を底上げさせていく。全ての動きが止まる。室内を舞う誇り、空気の流れ、全ての音が時間の狭間に圧し潰されていく。


「キャストール。両の足を砕け」

「あの娘の子に、喰らい付きたくはないが、致し方ないのぅ」


 一匹の大猫が駆けた――獅子の筋肉さえ食い千切る、鋭利な捕食歯は唾液を滴らせ、長年面倒を見た子へと脅威を向ける。


 身体の自由を完全に奪われた永理には成す術もない。だが、焦ってもいなかった。こうなることは予想していた。だからこそ、ルアが魔術を展開する前に仕込んでいたのだ。


 魔術領域の外側に大きな鳥が姿を見せた。


 柔らかな毛並みを生え揃えた愛嬌のある瞳が特徴の巨鳥。クルルと可愛らしい声で鳴く

鳥は、この場で主導を握る魔術師へと狩爪を――。


「シャルル・マリィよ。主は母性が強すぎるのぅ」


 主人の意思よりも、主人の身を案ずる特性が働き、鋭利な爪の切っ先をキャストールに向ける。羽ばたかせる翼をキャストールは噛み砕き、その身を壁や天井に叩きつける。悲痛な声を押し殺すシャルルは、涙を堪え、なすがままに身体を痛めつけていく。


「予見して奇襲の策を弄したのは見事だ。だが、悪魔としての位階を比べて不利なのは分かっていたはずだ。キャストール、もういい」


 主人の命令に赤く濡れた牙からシャルルは解放された。地面に伏せて力なく羽を動かす忠義と慈愛の鳥。そもそも、シャルルは戦闘に適した悪魔ではない。


「俺は悪魔との絆だけは、父さんに負けない自負がある。シャルルの血は神秘を打ち消す力がある」

「――ッ」


 キャストールが手負いのシャルルを部屋中に叩きつけたお陰で、血が部屋中に飛び散っていた。ルアは地に伏すシャルルをじっと見つめた。


「これは、お前の策か。シャルル・マリィ」


 肯定するように小さく鳴く。


 いくら禁忌の魔導書とはいえど、禁忌を上回る神秘のまえには簡単に打ち消される。ルアはスーツの内側から六連式回転拳銃を取り出す――照準は永理の腹部。


「お前は優秀な魔術師だ。だからこそ、獣道のような辛い人生を歩ませるわけにはいかない」

「なら、撃てばいい」


 魔術式と呼ばれる魔力に曖昧な理論を織り交ぜて成す――世間一般に言う『魔法』に近しい神秘を即席で編み上げる。


 炎がルアに猛り掛かるのと、銃弾が打ち出されたのがほぼ同時。


「こんなこと、トゥリ、喜ばない」


 双方に割って入った一人の女性――ウォルによって、弾丸は大鎌に叩き落され、炎は手であしらわれた。


「まったく、親子喧嘩もここまできたら殺し合いですわよ?」


 呆れた口調でリビングに足を踏み入れたライナ。


「エリィ、本当に、それでいい? 後悔、しない?」

「俺は後悔するつもりはない。これが俺の在り方だと言い切れる」

「そう。不老不死は永遠違う。でも、エリィが選んだ道。誰にも止められない」

「待て! わざわざ息子を茨の道を歩ませる、親がどこに」

「落ち着きなさいよ、ルア。永理君も、もう十七です。自分の道を自分で選択できる歳よ。いつまでも親の庇護下で甘えていたくないのよ。親なら、ちゃんと息子を信じてあげなさい」


 ルアは理解が出来ないと主張するが、一度決めたことを曲げない透理と重なって見え、言葉を濁らせた。


「一つだけ、覚えていて欲しい。短命という運命を背負っても、幸せに生きていた透理の事を」

「俺は忘れない。母さんの事、父さんの事、みんなの事を。俺の中の大切な時間を過ごした人たちを」

「頑固者だな、お前は。自分意思を貫き通すのは魔術師の才覚の一つだ。広い世界を見てくるといい。私達は常にお前の味方だよ。世界がどうあろうと」


 最初で最後の親子喧嘩。


 母の生き方を否定した自分に優しい言葉を投げかけてくれる父親は、やはり息子が可愛くて仕方がないのだ。


 親元を離れる永理は自分の名を封印し、その場その場で偽名を使い暮らす生活を始めた。そして、ある事件――彼が人間であることを辞退する事件こそが、魔王という彼を生み出すこととなった。

こんばんは、上月です(*'▽')



今回で魔王の過去編は終わります。

次回の投稿は14日の0時を予定しております!


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