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母との別れ、形となる魔術理論

 雨が降っていた。


 光の差さないぶ厚く黒い雲から大粒の雨が地上を濡らす。集った大人たちは悲痛な顔つきで手に持った花を墓石に添えていく。


「永理、花を透理に添えてやってくれ」

「うん。お母さんは、もう会えないの?」

「会えない。遠い場所に行ってしまったから」


 ルアは無表情――だがこの場にいる誰よりも悲壮に打ちひしがれていることを知っていた。永理もルアの悲しみを悟り、こんな弱弱しい父の姿を初めて見たと辛い気持ちになる。なにより、母と二度と会えない悲しみを不条理だと思った。


「エリィ、一緒に、お花添える」

「ウォル姉ちゃん」


 ウォルに付き添われて、永理は母の墓前で花を添えて手を合わせた。天国という場所に行っても元気にしていてくださいと。


「分かってはいたつもりだが、やはり辛いな」

「まったくだ。透理の寿命を縮めたのは私にも責はある。私を殴っても構わんぞ」

「いえ、元はと言えば僕が生み出した『歪み』のせいです。殴るのなら、僕を」

「止めてくれ。透理はそんな事を望まない。だから、誰も涙を見せない。違うか?」


 ルアの消え入りそうな言葉は雨音に掻き消されず、しっかりとこの場にいる全員の耳に届いた。事情を知らない永理には何のことかは分からない。隣で嗚咽をもらすも涙を決して流そうとしないウォルの背中をさすった。


「エリィ、優しい。ありがとう。トゥリは、みんなを見守ってる。大丈夫。私もエリィ守る」

「うん、でも僕は強くなるんだ。お母さんみたいに誰かを守れるくらい強く」

「大丈夫よ。永理君は、最高の魔術師と最高の英雄の自慢の息子なのだから。きっと世界中の誰だって救えますよ」


 ライナが永理の肩を抱き寄せた。


 とても温かな聖母の抱擁。永理を押し留めていた強がりが決壊した――大粒の雨よりも大きな涙をボロボロと溢れさせ、ひきつる喉からは認めたくはない現実を否定する叫び声。嫌だと駄々をこねても母は帰っては来ない。そんなことは知っている。でもやはり認めたくはなかった。


 脳裏には母の子供のような笑顔ばかりが浮かんでくる。


「お母さん! お母さん、嫌だよぉ。帰って来てよ。ぼ、僕ともっと一緒に居てよぉ!」


 ライナは唇を噛みしめて、永理を力いっぱいに抱きしめた。さらにウォルも一緒になって身体を密着させた――悲しみに潰されないように。


 透理の墓石の隣には『津ケ原幹久』『久世香織』と書かれた墓石が並んでいる。この二人は透理の両親だ。お盆の季節になると透理、ルア、永理の三人で掃除をしにきていた。


 聖羅は幹久と香織の墓石に視線を向けた。


「お前達の娘は立派だったぞ。安心しろ、私は不死だ。この先もずっと私が透理の事を覚えている」

「聖羅、私はどうすればいい。私は永理とどう接していけばいいんだ。母を失った悲しみを癒すには――」

「阿呆かお前は! しっかりしろ。喪失に潰されるくらいなら、永理のように大声で泣け! いいか、お前は親だ。愛した妻との間に出来た自慢の息子だろうが‼ だったら、親として愛情をたっぷりと注いでやればいいんだよ!」

「愛情を注ぐ」 

「そうだ。透理に注いでいたように、今まで以上の愛を与えてやればいいんだ」


 ルアの肩を前後に激しく揺さぶって言い聞かせる。たった数日でここまで人は変わるのかというくらいに痩せていた。整った顔立ちも目の下のクマで台無しになっている。こんな姿は透理が望まない。自慢の師匠で最愛の夫が、こんな様では安らかに眠ることも出来ない。


「稲神、もう十分。あとはルゥが、自分で考える」

「ルア・ウィレイカシス。何か助けがあったら遠慮せずに言いなさい。私達は組織とかを度外視して『友』なのだから。あの子が導いて結んでくれた『絆』。これからも保ち続けるのよ」

「ああ、わかっている。永理、透理が――お母さんが、自慢できるように前を向いて歩もう。共に」

「うん、うん。歩くよ。僕は強い大人になるんだ」


 手を握り合う親子の姿をみて、全員がもう大丈夫だと確信した。ウォル、ライナ、聖羅、荻は、しばらく館里市に滞在するつもりだった。透理と過ごした時間を思い返す為に。


「強いな、永理は」

「お父さんも強いよ。だって、泣かなかったんだから」

「私が泣くと、透理を心配させてしまうからな。父としての姿勢を見せてやらねばならない。毎夜に枕元に立たれて、しっかりしろなんて騒がれたら寝不足で倒れる」


 むしろ毎夜枕元に立って欲しかった。


 死者蘇生は超次元的な神秘――『魔法』でも敵わぬ願い。


 いくら魔術理論を人間の『生死』に定めたとしても、たった一人の人間さえ蘇生は叶わない。人は死んだ瞬間から魂が輪廻円環を巡るからだ。


「お父さん、人が死ぬのは嫌だよね」

「そう、だな」

「僕、いっぱい勉強するね」

「ああ」


 死んだ人が蘇らないなら――悲しみを生み続ける摂理なら、別の方法で歪めてしまえばいいんだ。永理の閃きを誰も見抜けなかった。子供の純真無垢な好奇心の裏側に潜んだ短絡的魔術理論を。


 それこそが――不老不死による悲しみとの決別。

こんばんは、上月です(*'▽')



透理……。


次回は12日の0時を予定しております!

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